3/9(金)、『不能犯』を観て来ました。
予告編はこんな感じです。
宮月新さんと神崎裕也さんによる同名の漫画を、白石晃士監督が映画化。
色々書いていく前に、まずこの漫画の映画化っていうことに関して思うところを書いておきたいと思います。
日本映画で漫画の実写化が多いのには、そもそも原作があった方が作りやすいとか人気が出やすいとか色んな事情があるんでしょうけど、よく漫画やアニメの実写化は誰も得しない!みたいな意見ってありますよね。
原作の良さを活かせずに原作ファンの反感を買ってしまったり、そもそも漫画だから成立していることを実写化することで無理が生じてただ単につまらない映画になってしまったり、色んな原因があるんだと思います。
確かにそういう作品は多いと思います。(個人的にはヒット作の『デスノート』も原作の面白さを活かせず、かと言って一本の映画としても微妙だった作品だと思っていたりします。)
また、原作ファンありきで作られ、原作をまったく知らずに映画を観た人はひたすら置いてきぼりになるみたいな映画もあって、そういうのもちょっとどうなのかなあ…って思っていたりします。(個人的には昨年最大のヒット作『銀魂』もそういう映画だったから微妙だったなあと思っています。)
とは言え、僕は漫画の実写化だからと言って何でも間でも否定するつもりはまったくなくて、漫画が原作だろうと何だろうと一本の映画としてちゃんと面白く作れていれば、全然評価できると思うのです。
特にここ最近は『アイアムアヒーロー』『溺れるナイフ』『無限の住人』『帝一の國』など、漫画原作でちゃんと面白かった映画をたくさん観てきたので、漫画原作映画だろうと何だろうと面白そうな映画は積極的に観に行きたいし、面白かったらどんどん評価したいと思っています。
さらにこの『不能犯』、僕は漫画は読んでいないのですが、僕が大好きなあの『貞子vs伽椰子』の白石晃司監督ということで、かなり期待していました。
何しろ、『リング』『呪怨』というJホラーの二大巨頭のクロスオーバーという有り得ない企画で見事なエンターテインメントを作り上げた力量は本当に凄いと思いますし、恐怖にも悪趣味なギャグにも色んな方向に徹底して容赦しないあのぶっ飛んだセンスがまた映画館で観られるのは本当に楽しみでした。
で、そういう期待を込めて観に行った『不能犯』、色々細かいところはさておき、僕は純粋に楽しめましたし、結構頑張って作った方の作品なんじゃないでしょうか!
何より、漫画原作を知らない自分も普通に一本の映画として楽しめたし、漫画を強引に実写化して滑ってるみたいなこともなかったと思います。
どんな物語かというと、ある電話ボックスに殺して欲しい人の名前を書いた紙を残すと、どこからともなく黒いスーツの男が現れてターゲットを殺してくれる…という、いわゆる都市伝説のような物語です。
しかも、黒いスーツの男、宇相吹は、マインドコントロールでターゲットを殺すため、凶器などの証拠が残らず、法で裁くことができない、故に『不能犯』ということです。
タイトルでもある『不能犯』宇相吹のもとを訪れる様々な依頼人と、彼のかかわる事件を追い続けるも翻弄され続ける警察たちを中心に、いくつもの物語が連続して展開していきます。
松坂桃李さん演じる宇相吹は物語の中心ではあるんだけど主人公というよりは狂言回し的な存在であり、どちらかと言うと事件に翻弄される沢尻エリカさん演じる多田刑事の方が、物語の主人公だなあと思いました。
そんな様々なエピソードの連続によって一本の物語になっているこの映画ですが、終盤に向かうにつれて宇相吹、多田刑事の両方が深くかかわる一つの大きなエピソードが少しずつ展開していき、それがこの映画のクライマックスになっています。
この、エピソードの連続によって一つの物語が作られているという構造は、まさに連載漫画らしいなあと思ったんですけど、ちゃんとクライマックスに向かって盛り上がっていくし、一応結末めいたものもあるし(「物語はまだ続いていく…」的な結末ではあるけど)、連載漫画の原作をうまく一つの映画にまとめていたなあと思いました。
さて、そもそもこの物語、都市伝説的な設定、超能力を持った殺人犯という、いかにも漫画的というか、冷静に考えるとかなり現実離れしたツッコミどころばかりの物語なんですよね。
さらに、都市伝説をまるで現実のように描いた物語としてはホラーだし、超能力を持った殺人犯という設定としてはダークファンタジーだし、事件を追い続ける警察という点ではサスペンスだし、一言でどういうジャンルの物語なのか説明しにくい物語だとも思うんですよね。
なんですけど、そういう色々なジャンルの面白さが一つの映画の中でそれぞれ発揮されていて、しかもそれが、色んな要素が絶妙なバランスできれいにまとまってる感じじゃなくて、それぞれが激しく主張し合い、それぞれの面白さを妥協していない感じなんですよね。
さすがは『貞子vs伽椰子』というホラーとコメディとアクションが一つになったような映画を撮った白石晃司監督ですね。
そういう、色んなジャンルの要素がごちゃまぜで、すごくいびつなバランスの映画なんだけど、でもそれがこの映画でしか味わえない独特の面白さを生んでいたと思います。
だから、冷静に考えるとツッコミどころもありまくる物語なんだけど、「面白いから、アリ!」で許せちゃうような力強さのある映画だったなあと思うんですよね。
敢えて言えば、全体的にやりすぎな悪趣味なセンスは一貫していたと思うんですけど、それが「嫌だなあ…」って感じじゃなくて「ギャー!」って楽しめる感じというか。
白石晃司監督の映画って、一応ジャンルとしてはホラーなものが多いし人がたくさん死んだりするけど、基本的にエンターテインメントなんですよね。暗くなくて明るいとさえ思います。
人が死んだりしまくるダークな物語だから、これを面白いって言っちゃうと不謹慎な感じもしちゃうんですけど、やっぱり面白い。
しかも、色んな意味で面白い。盛り上がるところは盛り上がるし、怖いところは怖いし、笑えるところは笑える。全部に妥協してない感じがします。全的的に強烈なんですよね。
こうして考えてみると、現実離れしているんだけどそれを忘れてしまうほどの面白さがあり、人が死んだりするダークな物語なんだけど基本的にエンターテインメントであり、色々なジャンルの面白さの要素が混ざり合ったような『不能犯』という物語は、白石晃司監督にぴったりだったんじゃないでしょうか。
エンターテインメント寄りのホラー監督って結構貴重だと思うので、白石晃司監督のまだ観ていない過去の映画とか観てみたくなりましたね!もちろん漫画の『不能犯』も読んでみたいです。
そして何が良かったって、宇相吹を演じる松坂桃李さんですよね!
マインドコントロールで人を殺す能力を持ち、殺人の依頼は必ず完璧にこなすけれど目的は謎に包まれている、人間のルールの通用しない独自の行動理念を持つという、完全に漫画でしか有り得ないような現実離れした人物を、松坂桃李さんは見事に演じていましたね!
松坂桃李さんという俳優さんに対しては、勝手に僕の中で誠実で人間味の溢れる優しい兄ちゃんみたいなイメージが勝手にあったんですけど、まさかこんな人間の感情を持ちあわせていないようなある意味サイコパス的な人物も演じることが出来るとは、さすがですね!
僕が思うに、この宇相吹という人物は、登場人物というよりは、都市伝説の具現化だと思ってるんですよね。だから人間味がない。人間ではない役を演じるなんて役作りがすごく難しそうだったんですけど、すごく良かったと思います。
最後に、先程も書きましたが、この映画は様々なエピソードの連続の中で徐々にクライマックスの大きなエピソードへと向かいます。
そこで、宇相吹の謎が解けるとか、宇相吹と多田刑事の対決に決着がつくとかではなく、二人の正義や人間の命などに対する考え方の対立構造が浮かび上がり、そしてこの対立はいつまでも続く…的なエンディングを迎えます。
どういうことかと言うと、宇相吹の「所詮人間とは憎しみ合い殺し合う存在なんだ」という残酷な現実と、多田刑事の「それを阻止したい」という人間らしい気持ちの対立だと思うんですよね。
で、この二つは、どちらもどんな人間でも持っている要素だと思うんですよね。だからこそ、この二人は人間の表と裏みたいな存在というか。そしてどちらも真実である。故に二人の対決はきっと永遠に決着がつかない…みたいな。
これが僕はこの映画の一つのテーマなのかも知れないなあ…なんて思っているんですけど、考えてみると人間の根源的なめちゃくちゃ深いテーマですよね。それが社会派な映画ではなく、こんな悪趣味なエンターテインメントで描かれるとは…
だからこそ、全体的に言葉に出来ない強烈な面白さが暴走したようなこの映画を最後まで見たら、なんだかよく分からないけど感動もしちゃったんですよね。
ただ、僕はホラーにしろバイオレンスにしろ、何かの要素に妥協しないで突き抜けたようなエンターテインメント映画は、時に人間の本質を深くえぐってしまうようなことがあると思っているんですけど、もしかしたら『不能犯』はそんな映画だったのかも知れません。白石晃司監督はまだまだこんな作品を作って欲しいですね!
あ、最後に、エンディングのGLIM SPNKYの『愚か者たち』はめちゃくちゃカッコよくてアガりました!