大阪都構想反対で人だかり、存在感示した山本太郎氏
約1週間後に迫った大阪都構想に関する住民投票を前に記者会見する大阪市の松井一郎市長(左)と大阪府の吉村洋文知事(右)(2020年9月23日、写真:つのだよしお/アフロ)
(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)
11月1日に行われた大阪都構想の住民投票は、5年前に続いて反対が賛成を上回り、大阪維新の会の構想は挫折することになった。府知事、市長選挙、国政選挙では大阪で圧倒的な強さを誇った維新の会だったが、都構想はやはり選挙とは違う結果になった。
それにしても大阪市を廃止するというのだから、大胆な提案である。大阪だからできた問題提起だったと思う。横浜市や神戸市ではあり得ない提案だろうし、問題にもされなかったはずだ。横浜とか神戸という名前がなくなることに大多数の市民が反対することは、疑いない。二重行政、財源、市民サービスなどさまざまな問題が議論されたようだが、やはり大阪市という大きな名前がなくなることへの抵抗感が大きかったのではないかと思えてならない。
そもそも、大阪都構想とは言うが、その核心は大阪市廃止構想だったことが、案外これまで知られていなかった。それも今回の結果につながったと思われる。
ただ、それでも大阪における維新の会の存在感は際立ったものがある。この存在感が残念ながら、他の野党にはない。
今回、反対派の中心だったのは大阪市議会議員を中心とする自民党であった。もう1つ大きな役割を担ったと評価されているのが、れいわ新選組の山本太郎代表である。「あかん!都構想」ということで投票日当日まで大阪市内を駆け巡り、反対論を訴えて回ったことを複数のメディアが報じている。それらの記事によると、どこに行っても人だかりになったそうである。山本氏の訴えが無党派層の中で反対派を増やしていったという分析もあった。
ほとんどマスコミに取り上げられない野党
一方、大阪都構想問題に限らず、ここのところ他の野党の存在感はほとんど感じられない。この10日ほどの新聞記事を見ても、野党に関するものはほとんどない。立憲民主党の枝野幸男代表の衆院代表質問を除けば、否定的なものしかない。
産経新聞(10月23日付)には、立憲民主党埼玉8区の次期衆院選の公認争いが混迷しているという記事が掲載されている。1人は元民主党出身で希望の党から前回出馬した人物、もう1人は自民党、旧日本維新の会に所属していた元職だ。2人とも落選を重ねており、党本部や県連が公認することに二の足を踏んでいるというものだ。
前回選挙で希望の党から出馬した人物と、前回共産党候補が取った票を合わせると当選した自民党候補を上回るという。ただ他にめぼしい候補も見当たらないそうだ。
埼玉と言えば枝野代表のお膝元である。ここですら、このていたらくなのである。
もう1つ見つかったのは、国民民主党の記事だ(10月24日付産経新聞)。10月23日、玉木雄一郎代表が、党所属の7人の衆院議員が立憲民主党との統一会派から離脱すると会見で語ったという記事である。野党の足並みの乱れを指摘するものだ。
記事中には、「国民民主には、立民に合流しなかった保守系議員が多い。新しい会派には、会派『希望の党』の中山成彬、井上一徳両衆院議員と、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下に『セクシーキャバクラ』と呼ばれる飲食店で遊興して旧立民を除籍、無所属となった高井瀧崇志衆院議員が加わり10人となる」。ちょっと小馬鹿にした記事である。
「役立たずの野党」から脱却できるか
『月刊日本』(2020年11号)に、慶応大学名誉教授で弁護士の小林節氏の「『堕落した与党』と『役立たずの野党』」という一文が掲載されている。小林氏は安倍内閣の7年8カ月を厳しく批判した上で、「普通、このような状況下では政権交代が起こるはずである」が、「今のわが国ではそれが起こりそうにない」と嘆き、「既に有権者は、かつての民主党政権の時の民主党(その流れを汲む立憲民主党)が国民にとって『役立たず』だと知ってしまった」と指摘している。まったくその通りだと思う。
小林氏は、「主権者国民にとって役立たずの民主党でも、当時の幹部は選挙に強かったために議席を維持して今でも立憲民主党の役員に居座っている。そして、その言動は『政権奪還』の掛け声とは裏腹に、万年野党でも議員特権を享受できれば良いと考えているように見えてしまう」と立憲民主党など野党に、手厳しい評価を下している。
事実、立憲民主党は、国民民主党の一部と合流して新立憲民主党となり、議席数は衆参合わせて150議席になった。それなりの勢力である。だが国民の期待はまったく高まっていない。NHKが10月に行った世論調査では、9月には6.2%だったのが、10月には5.8%に下がっている。自民党の37.0%に大きく差を付けられている。
枝野代表の賞味期限は早くも終わってしまったように思える。もともと旧立憲民主党が比較的高い支持率を得ていたのは、希望の党を立ち上げた小池百合子東京都知事の排除発言への反発だった。同情や憐憫の気持ちにより相対的に立場の弱い側へ肩入れをしてしまう判官贔屓(ほうがんびいき)ということだった。
小林氏は、「本当に政権交代を果たす志があるならば、なすべき事は決まっている」として、いくつかの提起を行っている。
1つが、幹部を一新し、未熟を承知で若手を登用することだ。ベテランはかつての経験を真に反省して、それを助言者として活かすべきだという。確かに、山本太郎氏のように、怖いもの知らずで、混迷する事態を切り開いていく行動力を持った若い指導者が必要だ。小沢一郎氏や中村喜四郎氏、岡田克也氏や野田佳彦のように、選挙に強く、自民党のことも熟知しているベテラン議員も多くいるのが、今の立憲民主党である。この知恵も大いに活用すべきだろう。
なぜ安全保障問題を取り上げないのか
国会は衆参の代表質問が終わり、予算委員会の論戦に入っている。気になるのは、代表質問で、与野党ともに安全保障について取り上げないことだ。中国公船が相変わらず尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返している。しかし、その問題を取り上げたのは、立憲民主党の福山哲郎氏だけだった。その福山氏も「どのような外交努力をするのか」と問うただけであった。
日本共産党の志位和夫委員長、小池晃書記局長が取り上げたのは、学術会議問題、コロナ対策などで、安全保障問題など一切なかった。
日本共産党は、2020年1月の党大会で綱領を改定し、それまでの綱領で中国などを「社会主義をめざす新しい探究が開始」されている国と評価していたものを全面的に削除した。この結果、同党にとって地球上のどこにも「社会主義をめざす新しい探究が開始」されている国はないことになった。
こういう評価を下した大きな理由の1つが、中国公船による尖閣諸島の領海侵入、接続水域入域が激増・常態化していることだった。志位氏は、「他国が実効支配している地域に対して、力によって現状変更を迫ることは、国連憲章および友好関係原則宣言などが定めた紛争の平和的解決の諸原則に反するものであり、強く抗議し、是正を求める」(2019年11月4日、綱領一部改定案についての提案報告)と批判していた。
また、同報告には次のような記述もある。
「南シナ海について、中国は、2014年以降、大規模な人工島建設、爆撃機も離着陸できる滑走路、レーダー施設や長距離地対空ミサイルの格納庫、兵舎などの建設を進めてきました。中国政府は、当初は、『軍事化を進める意図はない』とのべていましたが、今では「防衛施設を配備するのは極めて正常であり、中国の主権の範囲内」と、公然と軍事拠点化を正当化し、軍事的支配を強化しています。2016年、仲裁裁判所の裁定が、南シナ海水域における中国の権利主張を退け、力による現状変更を国際法違反と断じたにもかかわらず、これを一切無視して軍事化を進める傍若無人な態度は、国連憲章と国際法の普遍的に承認された原則にてらして許されるものではありません」
かつての民主党政権は、中国や韓国に一方的に譲歩する姿勢が顕著で、これも国民の信頼を失う大きな要因となった。立憲民主党ができないなら、共産党こそがこの中国の大国主義、覇権主義を厳しく批判すべきであった。それでこそ野党の存在意義を高めるものである。