このような歴史の教訓を踏まえると、「尊厳死解禁」も我々が想像しているよりも早く議論が進んでいく可能性が高い。

 先ほども申し上げたように、今の日本は「老害」叩きのムードが高まっている。

 

「障害者や犯罪者は断種すべき」という下村氏の主張に多くの国民が賛同して一気に議論が進んだように、「高齢者は集団自決すべき」という成田氏の主張にも、多くの国民が賛同して一気に議論が進む「土壌」は既に出来上がっているのだ。

 特に日本人は「日本のため」という話を持ち出されると弱い。「集団のためには個人が犠牲になる」という思想教育を幼い頃から徹底されているので、「日本のため」と言われたら、自分の高齢の親にさえも「自決」を迫れるような残酷さも持ち合わせている。

 

 その残酷さの最悪の形が「集団自決」だ。ほんの80年前、我々は「日本のためにここでみんなで死ね」と命じられて本当に実行した。洞窟に隠れて泣き声が米軍にバレるという理由で、我が子の首を締めて殺した親もいる。

 それは決して「狂っていた」からではなく、すべては「日本のため」である。日本のためには自分を殺すし、家族も犠牲にしなくてはいけないとインテリたちも説いていた。そんな「ムード」に屈して、誰もが冷静な判断力を奪われていたのである。

「高齢者の集団自決」などあり得ないと笑う人もいるだろうが、我々は民主主義の社会になってから、「障害者への断種」を強いる悪法をつくった前科もあることを忘れてはいけない。

 気がついたら、高齢者を安楽死へ促すような法律ができていても、おかしくないのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

【参考】

窪田順生 | プロフィール・記事 【政経電論】(画像はネットから借用)

wiki:東京生まれ[1]学習院大学文学部卒業[2]フライデーの記者を務めた[2]後、鉄人社に入社し、裏モノJAPANの編集者を経た後、30歳で朝日新聞に入社[3]、その後実話漫画誌WAPPA!編集長、ハードコアナックルズ副編集長、実話ナックルズ 副編集長、お宝雑誌ケータイバンディッツ編集長などを務めた[3]。2005年、新潟少女監禁事件を主題にした『汚れなき男の眼に』で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞[1]