X子さんの取り調べを担当した元刑事の佐藤誠氏(撮影/上田耕司)

「週刊文春」のスクープにより、木原誠二官房副長官の妻X子さんの元夫の“怪死事件”に耳目が集まっている。「警察は『事件性はない』と言うが本当は殺人事件なのでは?」「警察の捜査に木原氏が圧力をかけたのでは?」など、さまざまな疑念が飛び交うなか、7月28日、X子さんの取り調べを担当した元警視庁捜査一課刑事の佐藤誠氏が会見を開いた。「断言しますけど、事件性はありですからね」。こう断言した佐藤氏だったが、警察歴30年の元刑事である犯罪ジャーナリスト・小川泰平氏はこの会見をどう見たのか。

【顔を出して「再捜査」を訴えた安田種雄さんの実父】

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 私も自殺だとは考えられません。自殺する人は普通、喉を刺すなんていう痛い死に方は選ばない。それに、凶器を使う場合、人間どうしても手加減をしてしまうものです。私のこれまでの経験だと、自分で胸や腹部を刺した人はだいたい一命を取り留めています。

――自殺でないなら他殺ということでしょうか?

 いえ、種雄さんの体内から覚せい剤が検出されていることを踏まえると、薬物で錯乱した結果、自らを刺してしまった〝事故〟の可能性もあります。ただ、佐藤さんがあそこまで自信たっぷりに「事件性があります」とおっしゃる様子を見ると、ハッタリではなく、刑事だからこその〝感触〟があるんだと思いますよ。

 取調官は、相手の表情、目線、唇の渇き、指先の動き、あらゆるところを五感をフル活用して観察します。なかでも、刑事として優秀だった佐藤さんが、X子さんの取り調べの結果、事件性ありと見ていることは重要です。

 佐藤さんは「(あの殺し方は)女ができることではない」とも話していました。私もそう思います。女性が男性を確実に殺そうと思ったら、普通は胸なり背中なりおなかなりをドンと突き刺しますよ。首を切りつけるならともかく、的の小さい喉を肺に到達するまで刺すなんて、ありえないでしょう。

 もし話題性を狙うなら、佐藤さんは「奥さんだって犯人の可能性は残ってますよ」などと含みを持たせてもよかった。だけどあえて、犯人はX子ではないとほぼ断定したわけです。X子さんサイドに忖度しているというよりは、あくまで状況を公正に見たうえで、自分の考えを正直に口にする方だなと、好印象を受けましたね。

 

――しかし、安田さんの死は事件化されませんでした。

 事件後、安田さんの血だらけの衣服などの証拠品がご遺族に返されていることを踏まえると、警察は、これ以上の捜査は必要ない、つまり自殺と判断したと見て間違いないと思います。

では、なぜきちんと鑑識もやらないで、自殺の扱いにしたのか。佐藤さんは「俺のほうからは言えないですけど、ちょっとミスっちゃったのかな」とうまく濁していましたけど、私はなにがしかの力や忖度が働いたんじゃないかと思います。だって、佐藤さんも「刑事が(現場に)行けば、自殺には見えない」とまで言っているのに、ありえないミスじゃないですか。

 ここで整理しておかなきゃいけないのが、事件が起きて最初に捜査が行われた2006年の段階では、木原さんが関与した可能性はほぼゼロということです。当時、木原さんはまだ議員1年生で影響力は大きくないし、そもそもX子さんと結婚しているわけでもない。警察への圧力という視点で考えるのであれば、2006年時点と、その後再調査が行われた2018年時点で、それぞれ別の何かが働いたと見るべきです。

――一度自殺として処理された案件が、なぜ再調査されたのでしょうか?

 事件性を示す、かなりの有力な情報が持ちこまれたからでしょう。初めに再調査に乗り出した「警視庁捜査一課特命捜査対策室特命捜査第一係」は、主に未解決の殺人事件を再捜査するチーム。年に数えきれないほど起きる自殺案件に対して、「なんとなく気になる」程度で勝手に動くことはありません。

 しかも、相手は大物政治家の妻ですよ。10月には、X子さんの別宅や実家を家宅捜索していますが、慎重に慎重を重ねた捜査の末、警視総監や警察庁長官、東京地検の刑事部長などとも協議したうえで、かなりの覚悟と確証をもって踏み切ったと思います。

 なかには、「もし木原さんが圧力をかけたのなら、ガサの段階で阻止していたはずだ」と思う人もいるようですが、ガサ前に事前通告するバカはいません。いきなり警察がやってきて、木原さんは驚いたでしょうね。

――しかし佐藤氏は、「(再調査の)終わり方が異常だった」と語りました。家宅捜索から1カ月足らずで、突然上司に「明日で終わり」と、捜査縮小を告げられたといいます。

 不自然だと思いますよ。再捜査をはじめて約半年でようやくガサ入れにこぎつけて、犯人逮捕に向けて「さあこれから!」っていうときに、なんでやめちゃうの? 佐藤さんも、X子さんが直接手を下したわけではなくとも、事件の真相を知っている可能性が高いと踏んだから、10日間も取り調べを続けたわけです。最終的に、自殺か事件かの結論を出さないで、遺族にも説明しないなんて、聞いたことがありません。

それに、捜査“中止”ではなく“縮小”というのがずるいなと思うんですよ。きちんと理由を説明することなく、一人二人と担当捜査員を外して、いつの間にかなかったことにする。ガサだけでは決定的な証拠が見つからなかったということに加え、誰かの圧力が働いたと考えるのが妥当でしょう。

――木原氏が圧力をかけたということでしょうか?

 いや、正直、木原さんクラスの国会議員が「もみ消せ」と言ったところで、誰も聞かないでしょう。だって、元法務大臣の河井克行氏さえ、公職選挙法違反で捕まるんですよ? むしろ警察は、組織トップの意向があれば、注文をつけてくる国会議員に対して、「生意気だな、ちょっとガサかけてビビらせてやるか」みたいなことも平気でできます。警察庁長官や警視総監に対して口を利けるような人じゃないと、圧力はかけられないでしょう。

――警察庁の露木康浩長官は7月13日、「事件性が認められないと警視庁が明らかにしている」と述べました。この発言を受け、佐藤氏は「長官がああ言っているから、(自殺という結論は)覆らないんじゃないかな」と語りましたが、小川さんはどう見ていますか?

 再々捜査が難しいというのは、一般論として理解できます。ただこれは、逆に政界のほうから「捜査してくれ」と圧力がかかる可能性もゼロじゃないのかなと。だってこのまま捜査が進まなければ、木原さんはずーっと“グレー”のままですよ。将来の大臣とか総理候補だとか言われてますけど、今のままじゃ全部吹っ飛びます。X子さんだって疑惑が晴れなければ、人前に出られないでしょう。

 もし「これ以上捜査するな」と圧力をかけたのが政界なら、「捜査しろ」っていう圧力も政界からかからないと、実現しないのでは? そのためには、世論の声も必要だと思います。

(聞き手・構成/AERA dot.編集部・大谷百合絵)

〇小川泰平(おがわ・たいへい)/1961年愛媛県生まれ。元刑事で、現在は犯罪ジャーナリストとして活動。1980年、神奈川県警察巡査としてキャリアをスタートし、警察本部捜査三課、国際捜査課などで主に被疑者の取り調べを担当。2009年に退職した。著書に『元刑事が明かす警察の裏側』など。

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