国立成育医療研究センター(東京都)は、重い先天性の心臓病「重症大動脈弁狭さく症」と診断された25週の赤ちゃんの手術を母親の胎内で行い、成功したと発表した。欧米では実績があるが、国内では初めて。赤ちゃんは無事に生まれ、母子ともに経過は良好という。

 この病気は、全身に血液を送り出すポンプの役割がある左心室の出口が非常に狭く、血液が流れにくくなる生まれつきの疾患。生まれてくる赤ちゃん1万人に約3~4人の割合で発症するという。

 重症の場合、左心室が正常に育たず、出生直後に心不全を起こして命を落とす恐れがあるほか、左心室が小さくなり使えなくなることもある。胎児の段階で治療できれば心臓の正常な発育を促し、生後も左右の心室で血液を循環できるようになると期待されている。

 手術は同センターが臨床研究として計画。7月、超音波で胎児の様子を観察しながら、胎児の心臓にカテーテルを入れ、先端のバルーンを膨らませて弁を広げる「大動脈弁形成術」を、妊娠25週の母親のおなかの中の赤ちゃんに実施した。左心室の発育が促され、赤ちゃんは帝王切開で無事に生まれたという。経過は良好で、血液が正常に循環するか観察を続ける。

 同センターによると、先行する欧米での手術の成功確率は約70~90%で、そのうち左心室の機能が回復し、全身の血液を循環できるようになるのは約30~50%という。

 臨床研究は25年までに計5例を目標としている。同センターの左合治彦副院長は「重篤な先天性心疾患に対して、胎内で治療できる可能性を示した意義は大きい。今後も安全性や有効性を評価し、胎児の病気で悩んでいる人の希望となる治療法を確立していきたい」と話している。【岩崎歩】