一体、誰が納得するのだろうか。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は12月22日、都内で理事会を開催した。

 

 新型コロナウイルスの影響で来夏に延期になった東京五輪・パラリンピック(以下・東京五輪)で組織委がまかなう大会開催費の最新予算を審議し、昨年12月20日に発表した予算(第4版)も更新。承認された大会の予算計画第5版によれば、組織委の予算は第4版より追加経費として910億円(うちパラリンピック経費300億円)も増え、7210億円となった。

 ちなみに東京都が負担する経費は1050億円増(うちパラリンピック経費150億円)、国の拠出金も710億円増(うちパラリンピック経費150億円)。都と国、それに組織委の増額分をすべて合わせると、実に2670億円(うちパラリンピック経費600億円)にもなる計算だ。

 つまり延期決定前に大会経費全体として第4版で公表された1兆3500億円と予備費の270億円に、この追加で必要になる2670億円を加えた1兆6440億円もの額が最新の予算計上となる。

経費激増でも「ポジティブ投資」を主張

 我々のような一般庶民から見れば天文学的な額が次々と並べられ、いまひとつピンと来ない人も少なくないだろう。しかしこれは「現実」だ。気が付けば、とんでもない数字へと膨れ上がっている。

 当然のように組織が開いた記者会見では、メディアから莫大な大会経費がかかる点について「国民にどう説明できるのか」と厳しい質問が飛んだ。しかし組織委の武藤敏郎事務総長は「我々はできる限り予算を削減し簡素化の努力をしている。高いと見るのか、どうかはいろいろな見方があるが、ポジティブな投資という面が相当あるんだと思う」と居直るかのような強気の姿勢を見せつつ、追加分を含めた大会経費の“正当性”を主張した。

 

莫大な大会経費の支出も五輪開催によって経済効果につながり、コロナ禍の中において「1つのスタンダード、ロールモデルを示す上で意味がある」というのが同事務総長の考えだ。かつて財務省で事務次官にまで上り詰め、日本銀行の副総裁も務めた同事務総長だけに「ポジティブな投資」が一理あると信じたいところだが、現況を鑑みるとシナリオ通りに事が運ぶとは残念ながら考えにくい。

 

 組織委の森喜朗会長が、この日の理事会の冒頭あいさつで負担金額について「国民にもご理解いただきたい。我々としても推移を見守り状況に応じて対応したい」などとやや悲壮感もにじませながら口にしたが、理想論に終始するばかりで納得のいく言葉は聞こえてこなかった。実際、組織委の面々も心なしか表情はぎこちなく、どことなく強張っているように感じられた。

「変異種」出現に、走る緊張

 それもそのはず。新たな不安要素の足音が聞こえ始めてきたことも理由の1つであろう。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけるワクチンへの期待が高まっていた中、世界の人々を再び不安に陥れる「変異種」の出現によって、東京五輪の開催に“引導”を渡される可能性が出てきたからである。

 今月に入って英国南部で確認された新型コロナウイルスの変異種が、従来との比較で「1.7倍」ともいわれる急速なペースによって感染拡大の範囲を広げている。世界保健機構(WHO)によれば、オランダ、デンマーク、オーストラリアでも変異種ウイルスの発生が確認されたという。イタリア、南アフリカの各政府も変異種の発生を発表。英国政府はロンドンや周辺地域に「ロックダウン」を施行し、欧州の複数の国々も英国からの渡航を停止した。