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とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

アニメーション映画 2

2007年01月31日 09時33分58秒 | 映画
[アバンギャルドとフランスのアニメ]

 フランスでは,漫画映画のジャンルを確立したE.コールのあと, 1920 年代にアバンギャルド運動とともに,画家のF.レジェによる実験アニメ《バレエ・メカニック》 (1925) などが生まれ,同じ時期にドイツのオスカー・フィッシンガー,ワルター・ルットマン,ハンス・リヒター,ユリウス・ピンシェウワー,スウェーデンのビギング・エゲリングといった画家たちが,例えば音楽と図形がシンクロナイズするようなアブストラクト・アート (抽象映画) を発表した。これは,以降のドイツのロッテ・ライニガーの世界最初の影絵アニメ《アクメッド王子の冒険》 (1926),フランスのアレクサンドル・アレクセイエフの〈ピン・スクリーン〉《禿山の一夜》 (1933),エクトル・オッパンとアントニー・グロスの実験的な《生きる歓び》 (1936) などへと続く流れの源流で, アニメーションを漫画=大衆娯楽として発達させたアメリカとは対照的に,あくまでも純粋な美術的表現技術として受け止めたヨーロッパ的傾向が,このあたりからすでに際だって見られる。

 その後もフランスでは,ポール・グリモーの独裁者を風刺した童話的な漫画映画《やぶにらみの暴君》(1953) およびその完全版として手直しされた《王様と鳥》 (1979) や,ポーランド生れのワレリアン・ボロフチクの,単純なモノクロのデッサンの中に,時として強烈な赤を用いたりする残酷アニメ《カバール夫妻の芝居》 (1967),ロラン・トポールの原画を〈切紙〉で動かしたルネ・ラルーの SF アニメ《ファンタスティック・プラネット》 (1973。チェコとの合作) 等々,いくつかの劇場用長編アニメが製作されたが,いずれも興行的な成功には至らなかった。ただ,フランス最初の長編アニメ《勇敢なジャンノオ》 (1950) を作ったジャン・イマージュだけが,テレビも含めた数多くの商業性のある短編アニメを作り続けているが,質的には見るべきものはない。現在では《お嬢さんとチェロ弾き》 (1965), 《ノアの方舟》 (1967) などの〈切紙〉短編作家ジャン・フランソワ・ラギオニーが,レベルの高い作品を作り続けている。

[脱ディズニーとイギリスのアニメ]

  50 年代には,ディズニー・スタイルから脱却しようとする動きが世界各国のアニメーション映画を活性化した。とくにイギリスでは,ドキュメンタリー映画の大家J.グリアソンが主宰する郵政局 (GPO) 映画班でその傾向の作品が積極的に試みられ,そこから,カメラを使わずにフィルムにじかにかくことによって映像を作った最初の抽象映画作家レン・ライの《カラー・ボックス》 (1935) や,ライの影響を受けた N.マクラレンの短編《恋は翼に乗って》 (1938) が生まれた (マクラレンは,この後カナダに渡って実験アニメの巨匠となった)。また,〈何も固有のスタイルにとらわれることはない。その作品のテーマに応じて選択すればよいのだ〉というジョン・ハラスとその夫人のジョイ・バチェラーが,ジョージ・オーウェルの風刺小説をアニメ化した《動物農場》 (1954), UPA 出身のカナダ人リチャード・ウィリアムズ (のちにブレーク・エドワーズ監督の劇映画《ピンク・パンサー》シリーズのタイトル・アニメを手がける) が,イギリスに定住して 3 年がかりで作った中編《小さな島》 (1958),ザ・ビートルズを漫画的キャラクターおよび声の出演で登場させたポップ・アート的なジョージ・ダニングの《イェロー・サブマリン》 (1967) などがあり,その後もディズニー漫画の動物キャラクターとは異なる, 〈絵本的な〉イメージによるマーティン・ローゼンの《ウォーターシップダウンのうさぎたち》 (1978) 等々の劇場用長編アニメの成功作がある。

[社会主義国]

 ソ連,ポーランド,チェコスロバキア,ユーゴスラビア,ハンガリー,ルーマニア,ブルガリア,東ドイツ,中国などの社会主義国では,国営スタジオをもち,国民の思想教育,児童の情操教育を前提として製作を続けてきた。国策という制約はあるものの,商業ベースに乗ることが絶対条件となる資本主義国の映画製作とはちがって,営利を度外視した自由な製作の場を作家たちに提供するというケースも多くなるために,それぞれの国民性を反映しながらも数々の実験的な作品が生まれていた。とくに東欧圏のアニメーションは,戦後の国際映画祭の賞をことごとく独占して,いちやく注目を浴び,その後のアニメーション映画史を書きかえるほど目覚ましい発展ぶりを示した。

 ユーゴでは,〈残酷モダニズムの結晶〉といわれる短編《銀行ギャング》 (1958) などのデュシャン・ブコチッチを中心としたザグレブ派のモダン・アートの作品群がある。

 帝政ロシア期に世界最初の人形アニメといわれる《麗しのリュカニダ》 (1912) をはじめ, ウラディスラフ・スタレビッチの一連の作品を生んだソ連では,イワン・イワノフ・ワーノの《せむしのこうま》 (1947),レフ・アタマノフの《雪の女王》 (1957) などの長編や,雪どけ以後のユーリ・ノルシュテインの作品群 (《あおサギと鶴》1974, 《霧につつまれたハリネズミ》1976, 《話の話》1979) など,メルヘン的な夢幻の魅力に満ちたものが注目される。ポーランドでは,不条理劇の〈切紙〉作品で知られるヤン・レニツァ,陰惨なイメージの漫画映画の作家ワレリアン・ボロフチクなどがあげられる。この 2 人には,《むかしある時》 (1957), 《ドム》 (1958) などの共作があるが, 60 年代にレニツァは西ドイツに,ボロフチクはフランスに移住。ボロフチクは劇映画に転向した。さらにナチ強制収容所を背景に,極限状況下の人間性をえぐり出した〈切紙アニメ〉の《点呼》 (1970) の作家リシャルド・チェカワも注目されたが,のち劇映画に転じた。

 〈ヨーロッパの人形芝居のゆりかご〉といわれるチェコでは,みずから人形劇団を主宰していたJ.トルンカが, 1945 年,国立映画アニメ・スタジオ (プラハ) の主任となって独自の人形アニメの世界を築き上げ,長編《皇帝のナイチンゲール》 (1948), 《バヤヤ王子》 (1950),《真夏の夜の夢》 (1959) や《二等兵シュベイク》シリーズ (1951‐55),中編《天使ガブリエルと鵞鳥夫人》 (1965) などで,人形映画のアニメートの壁を破ったみごとなテクニックを開拓して, 〈第四次元の映画世界〉〈第 8 芸術〉 (ジョルジュ・サドゥール) とまで呼ばれ,彼の下からは,チェコ人形劇の代表的キャラクターであるシュペイブルとフルビーネックをアニメ化した《探偵シュペイブル氏》 (1956), 《フルビーネックの夢》 (1955) の演出を担当したブシェティスラフ・ポヤールが育った (ポヤールは 59 年に一本立ちし, 《猫の話》 (1960) などで〈切紙アニメ〉にも手を染めた)。首都プラハの国立映画アニメ・スタジオを本拠地としたトルンカ,ポヤールらに対し,モラビアのゴットワルドフ (現,ズリーン) に設立された国立人形映画スタジオを拠点とするカレル・ゼーマンと女流作家ヘルミナ・ティルロバは,実写の人間と人形を〈共演〉させる作品に独自のスタイルを築いた。ティルロバは人形がベビーベッドの赤ちゃんのまわりで,ほほえましいいたずらを重ねる短編《子守歌》 (1947),ハンカチが持主の少年のあとをついていく《ハンカチの冒険》 (1958) などで知られている。ゼーマンは,この〈虚実共演〉の方向をさらに発展させ,実写とミニチュア・セットを合成して画面全体を銅版画の調子に統一した, 〈おとなの絵本〉ともいうべき長編特撮劇映画《悪魔の発明》 (1957), 《ほら男爵の冒険》 (1961),《狂気の年代記》 (1964) 等々で,チェコ映画の名を世界的に高めた。トルンカの死後,やや沈滞ぎみのチェコ・アニメ界にあって,ゼーマンがアニメ (〈切紙〉) に戻り,長編《クラバート》 (1977) などで,依然,活躍を続けている。

 ルーマニアにはイオン・ポペスコ・ゴーポ (《教養七科》1958, 《ホモ・サピエンス》1959),ハンガリーにはマッカシー・ギーラ (《ロマンチックな物語》1966) などがいる。

 中国では,《西遊記》をもとにした中国最初の長編アニメ《鉄扇公主》 (1941) を作った万籟鳴と万古蟾の双生児兄弟からアニメ史が始まる。革命後 (1949),上海に設立された映画製作所に末弟の万超塵とともに入った兄弟は,それぞれ〈セル・アニメ〉〈切紙アニメ〉〈人形アニメ〉各部門の責任者となって中国アニメ界をリードする。万古蟾の京劇風長編《大あばれ孫悟空》 (1962) の完成後,文化大革命が始まり製作は圧迫されたが,文革後,再建されたスタジオからは,初のシネマスコープによる長編《ナーザの大あばれ》 (1979) が生み出され,国際的評価を得た。そのほか,〈水墨画アニメ〉という中国独特のジャンルがあり,例えば斉白石の水墨画を動画化した康澄の《おたまじゃくしは蛙の子》 (1960) や, 特偉の田園詩《牧笛》 (1963) が秀作とされている。

[マクラレンとカナダ]

  1939 年,カナダに国立映画局が設立され,初代局長に J.グリアソンが就任。その下で動画部主任となったN.マクラレンは, 〈シネ・カリグラフ〉 (《ヘン・ホップ》1942, 《線と色の即興詩》1954) をはじめ,人間のコマ撮り (《隣人愛》1953), 1 枚の絵ができ上がるまでのプロセスを微速度 (コマ撮り) 撮影の手法で追ったもの (《灰色の若いめんどり》1948),サウンド・トラックの手がきによる〈音のカリグラフ〉 (《算数あそび》1956) 等々,前人未踏の作品群を世に送り出して〈実験アニメの魔法使い〉と呼ばれ,同時に後進の育成にあたり,のちにイギリス・アニメ界の代表的作家となるジョージ・ダニング,軽快な作風のライアン・ラーキン,重厚なスタイルのキャロライン・リーフ,立体アニメのコ・ホードマン,油粘土とビーズを素材として使うインド人のイシュー・パタル,晩年のバスター・キートンを主演に短編劇映画《レールロッダー (キートンの線路工夫) 》 (1965) を撮ったジェラルド・ポタートンら,多彩な人々がその門下から輩出した。一方,近年は商業的なアニメも盛んになり,ロック,オペラを使ったニルバーナ社製作の長編テレビアニメ《悪魔とダニエルねずみ》 (1978) といった作品もある。

[日本]

 国産漫画映画の誕生は,〈活動写真〉の輸入から 18 年後の 1916 年,北沢楽天を中心にした漫画雑誌《東京パック》の同人下川凹天, 幸内純一と,洋画家の集りフュウザン会の企画経営者北山清太郎の 3 人から始まる。当時《凸坊新画帖》という肩書で公開された E.コールらの作品の現物を分析して,手探りでそのトリックを解明するところからスタートした。次いで幸内純一門下の大藤信郎の〈千代紙映画〉 (《馬具田城の盗賊》1926) が生まれ,やがて洋画,日本画を学びマキノ・プロを経てきた政岡憲三が登場し, 《森の妖精》 (1935),《べんけいとウシワカ》 (1939) などの意欲作を発表するとともに,家内工業スタイルだったこの世界に,近代的な製作スタイルを導入して合理化を進めた。 瀬尾光世をチーフ・アニメーターとする政岡映画の製作スタッフが,今日の日本のアニメ製作者の源流を形成したといえる。大部分のアニメは教育映画,国策 PR 映画の一端として製作され,作品として一人前扱いされないというのが当時の状況であった。戦時中に作られたアニメの中では,政岡憲三の珍しく時局色のない《くもとちゅうりっぷ》 (1943),瀬尾光世の長編《桃太郎の海鷲》 (1943) が出色で,それぞれ平和と戦争のシンボルとして今日なお命脈を保つ名作とされている。

 戦後は,次の三つの事件を経て日本のアニメーションは大きく転換した。 (1)藪下泰司の《白蛇伝》(1958) を最初とする〈東映動画〉による長編漫画がコンスタントに (年 1 回,夏休み用に) 製作され,上映され始めたこと。 (2) 60 年,久里洋二,柳原良平,真鍋博が〈三人のアニメーションの会〉を設立して,積極的な実験アニメの製作に乗り出したこと。 (3) 63 年,漫画家の手塚治虫の虫プロが,毎週,国産テレビアニメの 30 分番組 (《鉄腕アトム》) をスタートさせたこと。とくに虫プロ作品はテレビアニメの隆盛を促し,しだいに 30 分のテレビアニメはギャグからストーリー中心に移行し,やがて《アルプスの少女ハイジ》など,一年連続の児童文学ものが登場。この名作児童文学のアニメ化と並んで,同じ 74 年に SF 宇宙戦争もの《宇宙戦艦ヤマト》が半年連続シリーズとして作られ,その後の連続テレビアニメの二大路線を築いた。 《ヤマト》の総集編が 77 年に劇場公開されて大ヒット,これが劇場用長編アニメ競作の口火となり,松本零士原作,りんたろう演出の《銀河鉄道 999 》 (1979) のような劇場の大画面を生かした映像美をたんのうさせる作品や,宮崎駿演出,大塚康生作画監督の《ルパン三世・カリオストロの城》 (1979) のような緩急自在の作劇,痛快なアニメート,奇想天外なギャグなど,おとなも満足させる内容と技術をそなえた冒険アニメの快作も生まれた。製作本数だけは世界一という日本の商業アニメの濫作状況の中で,実験的な自主アニメも活発に製作され, 久里洋二の一連のナンセンス・ギャグ・アニメ (《人間動物園》1962, 《殺人狂時代》1967 など) がまず海外で注目され,次いで古川タク (《 Head Spoon 》1970, 《驚き盤》1975 など),J.トルンカに師事した〈人形アニメ〉の川本喜八郎 (《鬼》1972, 《火宅》1979,など),岡本忠成 (《ふしぎなくすり》1965, 《虹に向って》1977,など) らが,各地の国際映画祭で受賞して世界的な名声を得た。

岡田 英美子


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