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私はただの滝だと思っていた。
だから何も期待無く、空な面持ちでその滝と向き合うこととなった。
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私が『清滝』を知ることになったのは長湯でである。
気さくな人形師の男性から懇切丁寧に地図までいただいて、
「ぜひ行ってみるべきです。滝壺の直前まで行けますので、迫力が違います。」
と言うことなので、車を北へ走らせた。
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長湯から20分ほどで「清滝公園」についた。
あたりはシンとしており、緑が深く、もとより人がいない様であった。
先日の大雨で土砂がながされた跡があり、唯一人工物である木製ベンチは川砂で半分のところまで埋まり斜めに傾いていた。
ベンチとしての機能は失われていたけれども、大きさの見当もつかない森の中で
人間のいるしるしだと、眺めていると安心できた。
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氾濫による川と河原の境界が曖昧なせいで、どこまで公園なのか判らない中に一本の小道があった。
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吸い込まれるようして小道に足を踏み入れると、むせるような樹木の香りが鼻を通り肺に抜け、血潮となり、体を駆け巡るような錯覚に私の脳漿は歓喜していた。
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道沿いの清流や鳥の声に気をとられた眼に、その滝は飛び込んできた。
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薄暗い木立のトンネルの向こうに、白金の輝きを纏い、その滝壺から発する音さえも封じ込める静寂な気品をたたえた滝が見えた。
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本当に音が聞こえなかった。
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滝壺からの水滴の一粒一粒が全身に降りかかるそのままに立ち尽くし、
その光景とまったく関係のないことに意識を沈めてしまった。
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ふと、我に帰り時間を確認すると、滝を目にして、まだ10分もたっていなかった。
photographs by K20D & smc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6 ALⅡ
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