「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

いつか、桜の樹の下で(4)

2013年03月25日 | アホな自分
レイカは部室を後にすると、御茶ノ水駅からJRに乗り、飯田橋駅で、東京メトロ東西線に乗り換えた。

神楽坂駅は、すぐだった。まだ、御茶ノ水駅を出てから、10数分しか経っていなかった。

神楽坂駅から、徒歩で10分もかからない場所に、レイカが姉マミカと共同で住む一軒家があった。


レイカは農工大の水野からの電話を、リラックス出来る自分の家で受けることにしたのだった。


「ただいまー」

と言っても、マミカは仕事に出ていて、家はもぬけの殻だった。

レイカは少し微笑むと、玄関に上がり、一階のリビングに向かう。

レイカは、一階のリビングで、のんびりソファーに腰をかけると、少し多めに息を吐いた。

「水野さんからの電話があるかと思うと・・・なんとなく、緊張しちゃう感じかしら、ね」

と、笑顔になるレイカ。

「何かソフトな音量で、音楽をかけましょう・・・何にしようかしら・・・」

と、レイカは、スピーカーシステムにセットされているウォークマンの音楽リストを調べる。

「うーん、スムース・ジャズというより、春ののんびりした午後に合う楽曲がいいわね・・・」

と、レイカは音楽リストをスライドさせながら、真面目に見ていく。

「あった・・・やっぱり、こんな時は、ゴンチチでしょう!」

と、レイカは流す音楽を決め、セットする。


やわらかい生ギターの音色・・・ゴンチチは、リラックス出来るのんびりとした時間が大好きなレイカの一番のリラックスアイテムだった。


レイカはゴンチチをゆったりとした気持ちで聞きながら、今度は、ダージリンティーの茶葉を出し、温かなダージリンティーをいれる。

春近い、この季節、ゴンチチをのんびり聞きながら、大好きなダージリンティーを楽しむのは、豊かな時間を楽しむための基本!と考えるレイカだった。


「ダージリンティーは、マスカットフレーバーと呼ばれる独特な香りが特徴なんだ」

と、幼馴染のトオルくんが言ってくれた言葉を思い出す。


愛知県立明和東高校に通う、高校生の頃、レイカは、なんとなくこの幼馴染のトオルとウマがあった。

「しかし、さー、レイカは何で俺と放課後にお茶なんか飲んでるんだ?」

と、少し痩せ気味で度付きの黒メガネをかけたトオルが言う。


「姫、姫って、かっこいい奴らに言われている癖に。なんで、そういうイケメンな男とつきあわないんだ?レイカは・・・」

と、トオルは不思議そうな顔をしている。

「うーん、よくわからないけど・・・」

と、レイカはいつも返事に困った。

「わたし、中身のある男性でないと・・・話を聞いていて、知恵のあるひとじゃないと、おもしろく感じられないの・・・」

と、レイカは答えた。

「外見だけで、選ぼうなんて気、これっぽっちもないの」

と、レイカは笑った。

「ふうん・・・ということは、中身があって、外見のかっこいい男性が現れたら、その男性に恋に落ちるってこと?」

と、トオルは言った。

「そうね。でも、わたし的にかっこいいっていうのは、イケメンってことじゃないと思う。どちらかと言うと、笑顔のやさしい、暖かいひとって感じかな」

と、高校生の頃のレイカは、そうトオルに言った。


その言葉をレイカは、懐かしく思い出していた。


「そういうひとにやっと出会えたんだ・・・21歳・・・大学3年生も終わる・・・春の日に・・・」


レイカは、ある種の感慨を持ちながら、ゴンチチと、温かいダージリンティーを楽しんでいた。


「姫・・・そろそろ俺のこと、真剣に考えてくれないか?」

と、高校2年生の秋、明和東高校で最も女子に人気のある男子が声をかけてきた。

放課後の帰り道・・・レイカが一人で歩いている帰り道で。


そんな風にして、男子高校生に声をかけられるのは、慣れていたレイカだった。


高校2年生の田口ユウは・・・たくさんの女子と浮名を流していた。

レイカの友人もユウの毒牙に何人もかかっていた。

ある意味、女性の敵だった。でも、確かにイケメンぶりは、群を抜いていた。


もちろん、レイカの一番嫌いなタイプの男性だった。


「考える余地なんて、どこにも、ないわ。ミクもアリサも、ケイコも、皆泣いていたわ。そんな女性の敵、わたしが相手にするわけないでしょ!」


と、レイカは怒りに燃えながら、生の感情を田口ユウに叩きつけていた。

「ふ。女性は恋をして、また、その恋に敗れる経験をしながら、大人のステキな女性に成長していくんだ。言わば僕はそのお手伝いをしているだけさ」

と、田口ユウは、レイカの生の感情をさらりと交わし、しれっとそういうことを言ってきた。

「そして、僕自身も成長させてもらっている。お互いの為にやっているのさ。お互い恋物語を楽しんでいるんだ。もちろん、恋に破れた彼女達だって、楽しんだんだ」

と、田口ユウは、言う。

「僕はいい経験になったと思うけどね。彼女達にとっても・・・」

と、田口ユウは、甘い表情で言う。

レイカは、その田口ユウを怖い表情で睨みつけている。

「姫はまさか、「処女は大切な男性に捧げるモノ!」なんて、時代遅れの考えをまさか、もっていないよね!」

と、田口ユウは、ズドンと本質を突いてくる。

「ううん」

と、レイカは笑顔で言う。

「そのまさか、よ。わたしは、時代遅れのおんなで結構。少なくとも、あなたのような、イケメンでさえあれば、あとはどうにでもなると思っている男は趣味じゃないわ」

と、レイカは吐き捨てるように言うと、その場を離れた。


「ふうん・・・一筋縄じゃあ、いかないおんなだな。なかなか、賢いみたいだ・・・」


と、田口ユウは、レイカの後ろ姿を眺めながら、つぶやいていた。


「さすが、リアルお姫様・・・ま、落としガイがあるってことだな・・・」

と、田口ユウは、ニヤリと笑って、舌なめずりをした。


その様子を土岐田トオルは少し離れた、後方で目撃していた。


数分後、トオルは、自転車で、レイカに追いついた。

「あいつ、こんなこと、言ってたぜ」

と、トオルは自転車を降り、レイカと肩を並べて歩きながら、今見た情報をレイカに話す。

「大丈夫よ。あんな奴がどんな卑劣な手を使ったとしても、わたしはあいつにだけは、落ちないから。それより・・・」

と、レイカは別のことを気にしている。

「トオルくん、わたしのこと、いつも、後ろから守っていてくれたの?帰り道・・・」

と、レイカはそっちの方が気になっていた。

「え?いやあ、その・・・前に、帰り道、告白してくる男が多くて、いやだわって、レイカが言ってたから、レイカに危ないことがないように、と思ってさ」

と、トオルは素直に白状した。

「そうだったんだ・・・トオルくんって、やさしいのね」

と、笑顔になるレイカだった。

「誤解しないでくれよ。あくまでも、幼馴染として・・・の感情だから。恋愛感情なんて、一切ないんだから」

と、少し青白い表情になったトオルはそう言った。

「それでも、いいのよ。その気持ちがありがたいの」

と、笑顔になったレイカを眩しいモノでも見るように見るトオルだった。


「わかったわ・・・わたし、水野さんに、トオルくんの匂いを感じたのよ・・・だから、こんなに恋しい気持ちが盛り上がっているんだわ」

と、レイカは気づいた。

「彼に抱かれたいって、素直に思えるんだわ」

と、レイカは気づいていた。


高校2年生のトオルは、その後、近所の古武道の道場に通い始めた。


大学進学の為の勉強を本格化していたトオルは、その忙しい時間を割いて、古武道の道に邁進していた。

もちろん、帰り道は・・・レイカの後ろを守りながら、帰宅する日々が続いていた。


レイカに悪い虫がつきそうになると・・・自転車で登場したトオルの古武道が何度も炸裂した。


「トオルくん・・・」

その度にレイカはやわらかい笑顔になったが、

「幼馴染のサービスだよ。僕も大学に入ったら、彼女を作る気だからね。彼女を守ってやれる強い自分になる、これはその予行演習さ」

と、トオルは、はにかんだ笑顔になった。


「トオルくん・・・今頃、どうしているかしら・・・大学に入って、彼女が出来たっていう噂を聞いたけど・・・」

と、懐かしい幼馴染の表情を思い出すレイカだった。

「考えてみれば、わたし、ほんとに、守られて生きてきたんだわ・・・」

と、レイカは思い出す。


姉のキミカ、いとこのタケルさん、部の顧問のユウコさんに、元部長のユキノさん・・・そして、幼馴染のトオルくん・・・。


「ふ・・・だから、今日まで、わたしは、ステキに生きられてきて・・・そして、運命のひと、水野さんに出会った・・・」


と、レイカがそこまで思い至った時、


「ピロリロリロ!」


と、レイカの携帯が鳴り始めた。


「よし!」


と、レイカは気持ち表情を厳しくしながら、携帯電話に出る。


そして、レイカは次の瞬間、笑顔になっていた。


日本の春は、ゆっくりと北上してきていた。


つづく

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