「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

いつか、桜の樹の下で(3)

2013年03月22日 | アホな自分
美術部の顧問のユウコが部室を出て行ったのに合わせて、レイカも部室を退散し、キャンパス内を歩いていた。

今日は少し寒さを感じるが、レイカは少しずつ春の気配を感じ始めていた。

生協の喫茶室「ガレリア」に入ると、暖かいミルクティーを手に窓際の席に座るレイカだった。


「その男性に生まれて初めて抱かれたいって、そう思ったの?レイカ」

と、昨日のキミカの言葉が蘇る。

「うん。生涯で初めて・・・彼に抱かれたいって、そう思えた・・・ほんとうに素直に・・・彼に・・・」

と、レイカは話す。

「エッチって、お互い裸になって、男のモノをヴァギナに受け入れるのよ。男のモノを舐めてあげたりするのよ。それが今のレイカに出来る?」

と、キミカは女性同士だけあって、辛辣な表現で聞いてきた。

「お嬢様育ちで、何もかも周り任せにしてきた、あなたに出来る?」

と、キミカは真面目に聞いていた。

「うん。大丈夫。だって、わたし、あのひとに、本当に恋しているんだもん。あのひとに抱かれたいって、本気で思っているんだもん」

と、レイカは真面目な顔で話していた。


レイカを真面目な表情で見つめていたキミカは少し力を抜くと、少し息を吐いた。


「そういう時期に来たのね、レイカも・・・。あのかわいいだけだった、どこまでも純粋なレイカも・・・男に抱かれたいって思うようになったんだ・・・」

と、キミカは感慨深そうにレイカに言う。

「あなたがお茶女に合格した時、お父さんがこの家を用意してくれたじゃない・・・一軒家をリフォームまでしてくれて・・・たくさんのお金がかかったのよ。ここ」

と、キミカは訳知り顔でレイカに話す。

「名古屋の大学に進んでいれば、そんな費用もいらなかったけれど・・・お父さんとお母さんは、あなたがあのままお嬢様育ちになることが怖かったの」

と、キミカはやさしく妹に話している。

「だから、あなたに、強く育って欲しいから、東京での一人暮らしを経験させるつもりだったのね」

と、キミカはやさしく妹に説明している。

「でも、本当の一人暮らしは怖いから、東京で一人暮らししていた私を一緒に住まわせて、あなたに変な虫がつかないように見張ってくれって、私が、頼まれたの」

と、キミカは黙っていた秘密をレイカに打ち明けている。

「タケルさんが、たまにこの家に遊びに来てくれてたじゃない?あれも、うちの父がタケルさんに頼んでいたことなの」

と、キミカは説明する。

「おんな2人だとどうしても心配だから、たまには様子を見に行ってくれないかって・・・父がこの間教えてくれたわ。タケルさんはずっと黙ってたけど、その秘密」

と、キミカは苦笑する。

「あなたは、この3年間、そうやって守られてきたのよ・・・」

と、キミカはレイカを見つめながら話している。

「そのあなたが・・・そう・・・抱かれたい男がとうとう出来たのね・・・」

と、キミカは感慨深く話している。

「タケルさんも、ようやく肩の荷が下りたって感じたんじゃない・・・その話をレイカから聞いた時・・・」

と、キミカが口にする。


その時、レイカの脳にその時のタケルの言葉が去来した。

「なるほどね・・・で、そういう男性に出会ったんだ。レイカちゃんは、とうとう・・・」

その時のタケルは、確かに感慨深いモノを感じている表情をしていた・・・。


「うん。タケルさん、そんな表情をしていた・・・」

と、レイカが言うと、

「タケルさんも、3年間、本気であなたを守っていたのね」

と、キミカは言葉にする。


「そうだったんだ・・・」

レイカは、ミルクティーを飲みながら、春が訪れ始めた御茶ノ水キャンパスを眺めながら、自分の知らなかった事実を、そんな風に言葉にする。


「まずはさー、彼と直接しゃべってみることが必要だな。とにかくしゃべって見ること。君の恋ゴコロがその彼に伝わるかどうか・・・それを試してからだろうね。全ては」

鈴木タケルがくれた言葉が再度レイカの胸に去来する。


「そうね。とにかく、動いてみなきゃ・・・4月から、わたしも4年生だし・・・タイムリミットは一年だけ・・・」

と、レイカは気持ちを強くしていた。

「水野さん・・・わたし、あなたを絶対に落として見せる・・・」

まだ、春近い冬の日、レイカはそう強く決意していた。


お昼過ぎ、レイカは部室に戻ってきた。

「レイカの顔を見れるのも、あとほんの少しになっちゃったわね・・・」

と部室の炬燵で手製のお弁当を広げようとしていた美術部の元部長、4年生の高橋ユキノ(22)が少し寂しそうに話す。

「今日はわたしもお弁当持ってきたんです。ユキノさんと一緒に食べたくて・・・」

と、レイカも朝早く起きて作った手製のお弁当を取り出していた。

「そう。なんだか、嬉しいわ・・・レイカはお嬢様だけあって、料理は子供の頃からきっちり仕込まれたのよね?」

と、ユキノが話す。

「はい。うちは代々、母親が男の子にも女の子にも、しっかりと子供のうちから料理を仕込む伝統があって・・・」

と、レイカはきんぴらをつまみながら話す。

「どれ・・・このきんぴら貰っていい?」

と、ユキノはレイカの弁当に箸を伸ばす。

「どうですか?」

と、レイカは、きんぴらを噛み締めているユキノの顔を素直に伺う。

「うん。いいお味・・・料亭の味みたいだわ。もっともわたし料亭なんて行ったこと無いけど」

と、ユキノは笑いながら話してくれる。

「ユキノさんって、五井物産ですよね。やっぱり、商社のお仕事がよかったんですか?」

と、レイカは興味津々で聞いてみる。

「うん。わたし帰国子女で、英語とフランス語が出来るから、海外を飛びまわれる仕事がしたかったの」

と、ユキノは仕事を選んだ理由を話してくれる。

「女性がどこまで出来るかわからないけれど・・・挑戦してみたかったの。男の世界に」

と、ユキノは人当たりがやわらかい割に強い女性だった。

「わたしも相当厳しいって、聞いてます。女性にとって、商社系は・・・」

と、レイカは真面目に話す。

「わたしは、まだ決めていなくて・・・真面目に考えなきゃいけないんですけど・・・その前にやることがあって・・・」

と、レイカは少し苦笑しながら、話をする。

「やること?なあに?」

と、ユキノはレイカの思う壺に、はまってくれる。

「好きになった男性が出来たんです。とうとう・・・わたしにも・・・」

と、レイカが正直に言うと、

「ふふふ・・・それ、誰だか当てて見せようか!」

と、笑顔になるユキノ。

「え?わかるんですか?」

と、レイカは当惑気味。

「それ、農工大の水野くんでしょ。この間、私達を多いに盛り上げてくれた・・・」

と、一方笑顔のユキノは、ずばり当てて見せる。

「え、なんで、ユキノさんそれを・・・」

と、レイカはポカンとしてしまう。

「わたしもあの時、彼を素敵と感じたもの・・・あんな男性は初めてだったから・・・」

と、ユキノは正直に白状する。

「でも、レイカが・・・目の笑った、とってもいい笑顔をしてたから・・・あなたが彼に恋に落ちたことがすぐわかったの・・・彼はあなたにお似合いよ」

と、ユキノは笑顔でレイカに言う。

「ユキノさん・・・」

と、レイカ。

「それくらい見抜けないわたしだと思った?これでも、美術部の元部長よ。誰がどんな気持ちになってるかくらい、飲み会の席だからこそ、わかるようにしているの」

と、ユキノ。

「あの・・・その件で、お願いがあるんです。ユキノさん」

と、レイカは真面目な目でユキノを見つめる。

「農工大の水野くんと、レイカをつないで欲しい・・・新たに出会うきっかけが欲しい・・・そんなところかしら?レイカ!」

と、ユキノはレイカを見つめる。

「はい。厚かましいお願いだとは思うんですけど、私も本気なんです。本気で彼と恋がしたい。本気でそう思ってるんです」

と、レイカはユキノにそう話す。

「うん。そうね。わたしが、レイカにしてあげられる最後の仕事になるでしょうね。それ・・・」

と、ユキノは言うと、

「わかったわ。わたしが農工大美術部の元部長、倉島チカさんにこの話をしてあげる。彼女はあなたのこと買ってたから、大丈夫だと思うけど・・・」

と、ユキノは言ってくれる。

「合コンはこの間やったばかりだから・・・じゃあ、レイカ、あなたは渉外の仕事をしていることにしましょう。水野くんは農工大の渉外だから」

と、ユキノはさらさらと作戦を立ててくれる。

「今後もうちと農工大さんは密に連携していくとして、その作戦を二人で立てることにしたら・・・」

と、ユキノは、さらさらとシナリオまで考えてくれる。

「ユキノさん、ありがとうございます。そんな作戦・・・わたしには考えられませんでした・・・」

と、レイカがユキノに感激気味で言うと、

「これでも、長年、部長をやってきたのよ。それくらいの頭は回るわ・・・ちょっと待ってて・・・」

と、ユキノは携帯電話を出すと、すぐに農工大美術部の元部長、倉島チカ(22)に電話をかける。

「もしもし、チカさん・・・ユキノです。ええ、この間は本当に楽しくて・・・水野くんのおかげ・・・ほんと、あの子おもしろい子ね・・・」

と、ユキノは話している。

「それでね・・・彼に本気で惚れちゃった子がいるのよ・・・あなたが「美しい!」って、一番に買ってた九条レイカ」

と、ユキノはレイカの名前を出している。

「やっぱり、お互いの大学のエース同士が、恋人になるのかしらねえ・・・え、水野くんは、どうにもなっていない?」

と、ユキノはびっくりした声を出している。

「そうなのよ。彼、そういう恋愛とか、とーーーっても、疎いの。恋愛経験が、ほとんどないらしくて、女性のことなんて、皆目わからないんだから」

と、倉島チカは力説する。

「まあ、でも彼、大学2年生だし、うちは理系の大学だから、2年生は実験実験レポートレポートばかりで、恋愛なんてしてる暇がないのが、現状だから」

と、倉島チカは、水野の擁護を全力でしている。

「そうなの・・・この間の飲み会の盛り上げぶりから、彼、余程、女性の気持ちがわかっている男性なのかと思っていたわ。そういう彼なんだ・・・」

と、ユキノはびっくりしている。

「まあ、いいわ。それは・・・で、ね。レイカがそういうことになってるから・・・水野くんとの仲をつないでやろうと思って。私のこの大学での最後のお仕事」

と、ユキノはそう説明している。

「水野くん渉外担当でしょ?レイカも渉外にしたから、お互いの大学の今後の発展の為に何が出来るか、渉外同士で話を持つって案は、どうかしら?」

と、ユキノが作戦を提案している。

「そう。あのレイカちゃんが、水野くんに恋に落ちたの・・・まあ、水野くんに御茶ノ水美女軍団の接待を頼んだのは、他ならぬ、あたしだから・・・」

と、チカはそう話している。

「わかったわ。ユキノさんのその手で行きましょう。時間と場所はどうする?二人に決めさせた方がいいわね。じゃあ、水野くんにレイカちゃんに電話させるから」

と、チカはそう話している。

「うん。わかったわ。その携帯に水野くんに今日中に電話させるわ・・・レイカちゃんもがんばってねって伝えて・・・水野くん、相当わかってないから、女性のこと・・・」

と、倉島チカはそう話すと電話は切れた。

「ま、そういうことだから・・・あなたは、今日一日、水野くんからの電話をワクワクしながら、待ちなさい」

と、ユキノは笑顔で言った。

「もちろん、次の一手も考えておくのよ」

と、ユキノは言い、いい笑顔で、笑った。

レイカもいい笑顔で、満足そうに笑うのだった。


レイカの恋の歯車が、静かに動き出し始めていた。


つづく

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