麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

ゆうぐれは

2017-03-03 20:04:36 | 短歌

 

ゆうぐれは約束どおりにやってきてわれは電車に運ばれるひと

わが知らぬうぐいす谷というところ過ぎゆくときはこころ騒ぐも

台東区浅草一丁目一番地 日本のへそと言ってもよいか

黒系のスーツ姿のひと多し神谷バーなる酒場の二階

普通よりひとまわりでかい中ジョッキ ひとは大きなものをよろこぶ

たけのこのようなかたちの食べ物のチーズの味のそれがよろしき

よく冷えた電気ブランを飲み干せばくすりくさきをわれは好めり

わが降りるべき久喜駅は終点で乗り過ごすことなきのしあわせ

借家なるいわば一世のかりそめの宿のわが家の鍵を開けたり


_/_/_/ 未来3月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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茂吉へのとびら

2017-03-03 20:00:38 | 短歌記事

 

未来3月号に歌書評を載せていただきました。
大島史洋さんの『斎藤茂吉の百首』という本の書評です。
未来会員以外の方も読めるよう。ここに載せておきます。

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歌集歌書評----未来会員近刊

大島史洋著『斎藤茂吉の百首』(ふらんす堂)

茂吉へのとびら    鈴木麦太朗

 本書はその書名が端的に示すとおり、斎藤茂吉が生涯に詠んだ歌から百首を選び、その一首一首に二百五十字ほどの鑑賞文を添えた選集である。新書より少し大きいサイズで、持ち運んで折々に読むのに都合が良い。
 表紙にはふくろうが大きく描かれている。ふくろうは古来より知性・賢者の象徴として親しまれており、保守・堅実のイメージもある。まさに茂吉をあらわすのにふさわしい絵柄である。著者である大島史洋さんの歌集『ふくろう』も少し思わせる。
 本を開く。右ページに一首大きく歌が置かれ、左ページに鑑賞文が添えられている。とても読みやすい。一ページに一首というのは紙の無駄のようにも思われるが、歌をじっくり味わうにはこのくらいの物理的な余白は大切だと思う。ふらんす堂の「歌人入門」シリーズの第二弾として出版されている本書は、読者に短歌の初学者を想定して書かれているのであろう。その鑑賞文は簡潔にして平明である。
 どの歌から読んでも良いような体裁ではあるが、一度は初めから終わりまで通して読むべきであろう。歌は歌集単位で年代順に配されており、茂吉の歩んできた人生を追体験することができる。また、巻末には各歌集の年代と特徴が簡潔にまとめられた解説文があり、鑑賞の助けとなる。
 掲載歌の歌集ごとの内訳は、『赤光』十一首、『あらたま』七首、『つゆじも』三首、『遠遊』三首、『遍歴』三首、『ともしび』五首、『たかはら』四首、『連山』三首、『石泉』四首、『白桃』六首、『暁紅』十一首、『寒雲』四首、『のぼり路』四首、『霜』六首、『小園』十一首、『白き山』九首、『つきかげ』六首となっている。名歌集と言われている『赤光』『白き山』などに重きを置きつつ、十七ある全ての歌集を網羅しており、絶妙のバランスと言えよう。
 一首のみ、歌と鑑賞文の一部を引用する。雰囲気はつかんでいただけると思う。

  ただひとつ惜しみて置きし白桃のゆたけきを吾は食ひをはりけり『白桃』
  歌集名ともなっている、よく知られた 歌である。一つ残っていた白桃を
 食い終わったという、ただそれだけの歌だが、「惜しみて置きし」とか「白
 桃のゆたけきを」とかいった言葉の斡旋がいかにも茂吉らしく巧みであり、
 なんでもない些事が、それこそ豊かなふくらみとなって一首に漂っている。
  茂吉は食べ物などの物惜しみもよくし たので、そうした執着心も一首に
 粘りを 与えている。

 選ばれている歌の多くは良く知られたものであるが、《鼠の巣片づけながらいふこゑは「ああそれなのにそれなのにねえ」》《税務署へ届けに行かむ道すがら馬に逢ひたりあゝ馬のかほ》など、ちょっと変わっていて滑稽な味わいのある歌も織り交ぜてあり、初学者には茂吉への親しみが持てるような仕掛けとなっている。ベテランの方は少し物足りないと感じるかもしれないが、大島さんの茂吉への愛にあふれた文章を味わうだけでも十分に落掌に値する本であると思うのだが、いかがだろうか。

 

 

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日当たりの

2017-02-02 22:51:24 | 短歌


日当たりのすこぶるわるい家がある二千八百万円の札をかかげて

さくら葉が土の上にて濡れているやがては土になる定めにて

雨多き夏は終わりて河原には葦の繁りのすさまじきこと

何となく懐かしければ道の辺のおしろいばなの種あつめたり

ふたたびを柴犬連れてゆくひととすれ違いたり川沿いの道

用あれば真昼ケーヨーD2にシャンプーいっぽん買いて帰りぬ

少年とその母親と庭にいて庭には咲けり秋の黄の花

川沿いを走るひとには抜かされて歩くひとには抜かされずゆく

ときどきはサディスティックになるこころ抑えおさえてただ歩くのみ

夕闇の自動車修理工場はわがゆく道をほのぼの照らす


_/_/_/ 未来2月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 (未来広場)_/_/_/

※ 9首目、結社誌では「サディステック」となっていましたが、
  正しくは「サディスティック」です。

 

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灰色で

2017-01-04 14:31:29 | 短歌


灰色でしっぽの長い生き物が畳の上を歩けばこわい

その生き物ヤモリと書けばややこわい家守と書けばややありがたい

爬虫類ヤモリは家に棲んでいて両生類イモリは水辺を好む

爬虫類ヤモリは畳の上を這う人類タモリはときに床這う

そのヤモリ体長2センチ程なればその父母もこの家にいるかも

わが家を守ってくれてるヤモリかと思えばこころやさしくなりぬ

軒下に棲んでおくれよヤモリの子 畳の上には来ないでおくれ


_/_/_/ 未来1月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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夕暮れの

2016-12-08 19:33:26 | 短歌

 

夕暮れの歩道に横たわる猫の色黒ければあやしかりけり

黒猫にあらざる茄子が竹かごに盛られてあれば動くことなし

家娘のすこし巻き毛の黒髪が真青き色に変わりゆくまで

焼酎を親にかくれて舐めしこと鈴木雅之黒かりしころ

ごく普通のガラスのコップうつくしくその外側にしずくをむすぶ

ガラスコップと氷のなせる空間に芋焼酎をとろとろそそぐ

ピーナッツのナッツは豆で良いとしてピーは何かな飲みつつ思う

茫洋としたる心地の夏の夜に芋焼酎をとろとろそそぐ


_/_/_/ 未来12月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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一時間

2016-11-03 15:34:26 | 短歌


一時間時計の針を進めたり日本の夏からグアムの夏へ

クーラーが効きすぎている部屋なれば薄いふとんにもそもそもぐる

とつぜんの雨に続いてとつぜんの晴れは来たりぬなまこの海に

グアム島の恋人岬の売店にマンゴースムージーのひえひえ

お迎えの八人乗りのワゴン車に十人乗って肉食いにゆく

肉でありまた肉であり肉である出てくる肉を食べるしかない

しゃらしゃらと腰ふりおどる踊り子の上半身のゆるぎなきこと

ほしいまま陽のひかりさすグアムにてテニスをするは過ちならん

少年が両手でかかえて飲んでいるコーラのラージがめちゃめちゃラージ

おみやげに買ったドライマンゴーに Made in the Philippines と書かれていたり


  ※ ルビ Made in the Philippines (フィリピン産)


_/_/_/ 未来11月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

 

 

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にんげんの

2016-10-08 17:51:05 | 短歌


にんげんの列つらつらと連なってわれの後ろも前もおばさん

おばさんとおばさんに挟まれていて二十三時の白ぼけた空

東口でバス待ちながら西口でバス待つひとをたまゆら思う

きみどりのカードのなかのペンギンが氷の上をすいすいすべる

デイパック背負ったままで座る席屈葬めいているわが体躯

屈強な外国人の男性におんなのひとがしなだれている

日本人みたいなひとが日本語でも英語でもない言葉を話す

終バスに間に合いましたと呟いた誰もいいねをしないけれども


_/_/_/ 未来10月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

 

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快速は

2016-10-08 17:45:35 | 短歌

 

    ほほえみの遺伝子


快速はちいさな駅をとばします ちいさな駅はかわいそうです

単三の電池のなかに棲んでいるゲンジボタルのために小窓を

ほほえみの遺伝子を持つ猿だろうフウセンカズラに触れようとして

ぬすびとの家のとびらをひらいたらはみ出してくる春の花ふさ

さらさらと空から塩が降ってきてゆっくり溶けるぼくの友だち

背がひらきまた怪獣が出てきたら脱皮をうたがってもいいだろう

もういちど手を振るきみがあらわれて木馬とともにゆれながらゆく

放たれてまっすぐ昇る竹とんぼ どこまでいっても空のうちがわ


_/_/_/ 未来10月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 777号記念特集 _/_/_/

 

 

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二本とも

2016-09-02 20:42:58 | 短歌


二本とも二階に置いてあったこと忘れかけてた赤いラケット

ラケットに貼りっぱなしのシールからテニスガールが「がんばれ」と言う

くるりんと回してぎゅっと握ったらわがてのひらに馴染むグリップ

六年を経てよみがえるこの感じテニスシューズに足を入れれば

「見た目だけは超上手い人みたいだな」なーんて言われて悪い気はせず

断末魔の声こそあらめ絶好のチャンスボールを打ちのがすとき

お遊びのテニスとはいえ勝ちたしとおもうこころはゆるぎなきもの

ゆうぐれのテニスコートは砂だらけやがて四人の足砂まみれ


_/_/_/ 未来9月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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春たけて

2016-07-31 10:29:34 | 短歌


春たけて神保町へ行かんとすむらさき色の電車に乗って

それなりのお金を払えば運びますむらさき色の電車は言うも

全地面完全免震構造の水天宮におののきやまず

日本橋人形町から出す手紙鞠の絵柄の切手を貼って

かのひとに人形町の消印の押された手紙は届くであろう

七階建ての茶色いビルの一階に松島神社が嵌まっているよ

そのむかし小島であったというところ七百年ののち雑居ビル

十四の神鎮座してありがたや松島神社の由緒を読めば

幾許かのお金を入れて手を合わすわたしにとって幾許は五円


  ※ ルビ   幾許(いくばく)


_/_/_/ 未来8月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

 

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雪がとけると

2016-07-03 13:29:29 | 短歌


「雪がとけると水になります」感性のゆたかならざるひとは言うとか

「雪がとけると春になります」昨年も同じ法話を聞いた気がする

この星のすべての雪がとけたなら春になりますとこしえの春

とこしえの春をよろこぶ千年の後の子供の幸を想うよ

桃ちゃんがまっすぐ並んだ座蒲団にダイビングして祖母三回忌

なめくじの他にかえるも出てくるとうれしい顔で母は言いたり

  本川克幸さんへ

会おうって思えば会えたはずなのに四月の雨が降りやまないよ


_/_/_/ 未来7月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 ※ 諸事象により未来誌掲載分から二首外しております。 

 

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南天の

2016-07-03 13:25:58 | 短歌


谷じゃこさんが運営する短歌であそぶフリーペーパー
『バッテラ』3号(2016年3月発行)にゲストで
呼んでいただいたときの歌を載せておきます。

既発表歌と新作が混ざっています。


  連作七首「めまいをおこす」

南天の花ふさ空を指している(いつのまにかに)ではないんだよ

父というかなしきものはゆくりなく逆立ちをしてめまいをおこす

たくましいひとはたくましいねえと言う声を聞きつつ早足でゆく

早足で派手なおばさん抜かすときあまい香りを嗅いでしまった

桜えびはチクチクチクと刺してくる釜あげしらすは口にやさしい

「みかん食べすぎで手のひらまっきいろ」自慢のように聞こえてくるよ

玄関に黒いブーツが折れている自分の家のにおい知らない

 

  企画:いつもの電車の行く風景

久喜に住むわれは思えりどんづまり中央林間いかな地の果て

地の果ての中央林間に住むひとは久喜はまぼろしと思いいるらん

まぼろしの久喜の街には久喜クッキーなるものありて胡麻の香ぞする

 

 

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神の名を

2016-06-04 08:24:01 | 短歌


神の名を呼ぶをはばかるごとくにてGと呼ぶなり黒きあいつを

この星に四億年を生きているGはあるいは神かもしれぬ

黒きものましろき壁にしゃかしゃかと動いておれば騒ぐこころぞ

あるときは背にたたみしうすき翅ひろげてとぶは嗚呼おぞましき

Gを見るだけでもだめなひとといてわれはもっぱらGつぶすひと

のちの世はみずすましに生まれ変わりたしとつぶれる刹那にGおもうかも

一瞬でGを凍らすスプレーのあるとし聞かば試してみたし

一瞬にして凍りたるGあらば溶けたるときは動きだすかも

厚紙を組んで作られたる家に入らんとするGのそののち

蜂は刺す蛇はかみつくはてGは何するものぞ何もせぬのに

 

  ※ ルビ   背(せな)


_/_/_/ 未来6月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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発言の断片

2016-05-05 13:54:40 | 短歌記事


5月3日に行われた未来短歌会春の作品批評会における
評者の発言の断片を覚え書きとして記しておきます。
クローズドの歌会なので評に対応する歌は明示いたしません。

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・歌は勝手に解釈していい。比喩的にとらえるのもいい。読者はわがまま。(岡井隆)

・概念で歌をつくってはいけない。対象をよく見ること。(大島史洋)

・定番の言葉はどうにかしたいもの。(佐伯裕子)

・一字空けは必要かどうか。注意を。(さいとうなおこ)

・具体を示すと歌は活きる。(加藤治郎)

・すべてを言ってしまわないで、抑える。(岡井隆)

・助詞が無いと意味がとりにくい。読者にストレスをかけぬように。(大辻隆弘)

・辞書を引きましょう。ぼくはすごく引いているよ。(岡井隆)

・説明的なところはムダ。半分損をしている。(大島史洋)

・読者は作者のことを知らない。伝えるための配慮を。(加藤治郎)

・三行書きの現代詩と捉えて読んだ。面白い詩。(岡井隆)

・ああそうですか、という感じの歌はつまらない。(笹公人)

・若くて羨ましい。良いではないか。(岡井隆)

・受けねらいの歌はいかがなものか。(大辻隆弘)

・カレンダーの歌だとしたら面白くない。「見ていた」は修辞があまい。(岡井隆)

・《私》を出した方が良い。(加藤治郎)

・言葉が荒い。言葉を変えてごらん。歌は変わるよ。言葉の方からね。(岡井隆)

・ものを細かく見たらどうかな。(岡井隆)

・ぼくはハグはできないなあ。(岡井隆)

・型にはまった歌。ほんとうの心が見えてこない。(中川佐和子)

・言葉だけでつくっている。実が無い。歌が軽い。(大島史洋)

・漢語はどうか。和語でやわらかく。工夫して。(大島史洋)

・下の句はいらない。下の句は無意味なことばを入れればいいんですよ。(加藤治郎)

・ひらがなの記述がオノマトペのように効いている。(笹公人)

・この歌を批評会に出してきたことに意味がある。(岡井隆)

・こころみの歌。考えてみたいと思う。(岡井隆)

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新発売の

2016-05-05 08:42:35 | 短歌


新発売のアイスクリームはだめでしょう柔軟剤の香りがしたら

春の日の映画館からあふれだすクリームパンのようなやさしさ

東京はうすぼんやりと暮れてゆく半分くらいは眼鏡をかけて

飲むほどに話したくなる物語オリーブの実はグラスにのこす

ホチキスの針もろともに浸けることいぶかしみつつ淹れる紅茶は

くたびれたポルノ雑誌は資源ごみビニールひもが食い込んでいる

平成は風の速さで過ぎてゆく知念侑李の声を変えつつ

おおよそは無臭のなかに百合の香をさがしておりき十代のころ

幻をとかしたような夕映えに「よそ見するな」と君はとなりで


_/_/_/ 未来5月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 (未来広場)_/_/_/

 

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