麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

木の花の

2017-12-29 15:10:10 | 短歌

 

木の花のぽたんと落ちて脇をゆくわれにいやしき詩ごころ起こる

オシロイバナ、キバナコスモス、桜木の下にあらそい咲きてうるさき

むきだしの蘂の黄色はみだらなりキク科の草のちいさき花の

枯れ花をあたまにつけてヒガンバナ待ち人来ずの姿に立てり

川沿いのコンクリートの遊歩道 川のかたちにゆらりと曲がる

六弁のましろき花のうつくしき君の名前を知りたしわれは

通り雨、どうしようかという顔に鷺立てりけり刈田の真中

カーラジオつけっぱなしのゆうぐれのそして九月の竹内まりや

ゆうやみは日光街道沿いにたつはちみつ屋さんに灯りをともす

霜のごとましろき花と葉を持てる銀竜草をむかし見たりき


  ※ ルビ  真中(まなか)


_/_/_/ 未来1月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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絹ごしの

2017-12-03 14:04:52 | 短歌

 

絹ごしの豆腐のすがたしずかにて遠くにあれば引き寄せる皿

ほろよいのわがにのうでに飛んでくるいっぴきにひき蚊の姉妹かも

ゆくりなくうなりをあげる冷蔵庫ふかきねむりをさまたげんとて

ビニル傘おき忘れたる海岸にみずくらげたちあふれるばかり

「けらしも」と「けらずや」道に相まみえ互いを見てはけらけら笑う

たそがれの草間彌生のありがとうななほしてんとう集まってきて

嘘ついた私の白いティーシャツにあんずのジャムがぺったりとつく

にんげんは何度言っても言うことをきかない鳥であると思えり

ゆうやみのせまるゆうゆう窓口に真黒き猫がいればおどろく

もう寝てもいいよという声きこえくる夏の終わりのオリオン座から


_/_/_/ 未来12月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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やさしいまなざし

2017-12-03 14:00:46 | 短歌記事


未来誌12月号に歌集の書評を
書かせていただきましたので
ブログにも載せておきます。


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歌集歌書評----未来会員近刊

阪野優歌集『いとし子』書評

やさしいまなざし    鈴木麦太朗

  天空へ富士は静かにそばだちて
   運動会のかんせいあがる
 巻頭の歌。上の句で勇壮な富士の姿を描
写し、下の句で運動会の様子を端的に表し
てしている。「かんせい」は「歓声」と思
われるが、あえて平仮名表記することで作
者のやさしいまなざしが伝わってくる。
 引用のように、本歌集の歌はすべて一行
目に上の句、二行目に一字をあけて下の句
というスタイルで記されている。さらに一
ページに一首のみを配し、厳選の百首にて
編まれている。歌集を通して一貫して感じ
られる定型意識、分かりやすく伝えようと
する配慮、さらには先にも述べた「やさし
いまなざし」は、表記上の工夫と相まって
読む者に鮮やかな、それでいて柔らかな印
象を与えている。
  父さんと私は同じ旅好きと
   さらりと言ひし子どもいとしき
 書名『いとし子』の元となった歌。上の
句はお子様の語りであろう。それを受けて
「子どもいとしき」と自身の思いをストレ
ートに表現している。仮にそう思っていた
としても気恥ずかしくて普通は文字に起こ
そうとは思わないのではないだろうか。作
者の実直な姿勢がここに現れている。
  縁側で娘の髪をときし妻
   ただなんとなくわれはながめつ
 説明の必要は無いだろう。あたたかな春
の日差しの中、母と娘のおだやかな所作が
見えてくる。それをただ見ている作者。何
ということのない歌ではあるが深く印象に
残る。このような歌を私は好む。
  天国の父のもとへと母は逝く
   私は一人猫抱き寄せる
  父恋し母なお恋し山の中
   鳥の鳴く声胸を突き刺す
 あとがきには「平成二十八年(二〇一六
年)母が亡くなりました。母は父と農業を
営み、私を大学まで進学させてくれた。両
親への感謝の気持ちをこめて、歌集を出版
することとしました。」とある。おおむね
時系列で並べられた歌の中に、作者の人生
の節目は際やかに刻まれている。猫や鳥と
いった生き物に自らの思いを寄せるという
手法は巧みである。
  謹慎の処分をうけし子どもらが
   卒業式に握手もとめる
  先生と声かけられし電車内
   幼児を抱きし教へ子に会ふ
  退職をわれはゴールと思はねど
   教へ子達のあの顔あの声
 著者プロフィールには「元高校教諭」と
ある。教え子とのほのぼのとした関係は作
者の歩んできた道のりをおだやかなうねり
として感じさせてくれる。
  蓮根を掘らんと沼田にはひりしに
   足がぬけずに破蓮ゆれる
  自販機に話しかけられ買ふコーヒー
   凍えし体あたたかくなる
  秋晴れの雲ひとつない大空を
   飛びし飛行機パリへ行きたし
 巻末の数首を引いた。ユーモアの感じら
れる一群である。一首目、視点の工夫。二
首目、意味の重層性。三首目、唐突な展開。
近作であろうか。何気ない歌に寄り添うさ
り気ない技巧に惹かれる。

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