麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

さえざえと

2024-03-02 20:21:14 | 短歌

 

さえざえとしたる真冬の蒼穹に個人情報漏れ出ずるかも

もういちど湯を注ぐとき紅茶葉は最後の力をふり絞るのだ

モノクロの映画はいいねいきり立つ山田五十鈴の白目がいいね

裏側の世界はここにあるだろか三面鏡のすきまを覗く

使用期限とうに過ぎたる風邪ぐすり振ればざらざら音が楽しい

落ちてたら拾い集めることだろうレースクイーンたちのほほえみ

いつの日か蹴り飛ばしたいモアイ像ぼくはおそらく脚を傷める

パスワードを記憶の底から取り戻しぼくの脳内は盛り上がる

例えれば叶姉妹と十姉妹くらいの違いと言えばわかるか

いつのまにか獲得してたポイントがいつのまにかに消えている夜


_/_/_/ 未来3月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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老酒に

2024-02-04 18:54:58 | 短歌

 

老酒にゆらゆらとける角砂糖世界の終わりを見ているみたい

からころと振れば音する角缶のサクマドロップスそのハッカ味

そこここにころがっている幸せのきれいに焼けているパンケーキ

三十年がんばっている冷蔵庫ときどき変な音たてながら

たましいの停留所には屋根があるたやすく蒸発しないようにと

ほそぼそとことば遊びをしてる間にああ還暦が近づいてくる

「柿の実よ甘~くな~れ」と唱えればわずかながらに渋抜けるかも

今はもうそうなっているのかもしれず核のボタンをダブルクリック

美術室のとなりは美術準備室閉じ込められている空がある

しまむらのワゴンにごろごろ置かれたる狂いたいのよの靴下の束


_/_/_/ 未来2月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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退屈な

2023-12-30 10:29:56 | 短歌

 

退屈な郵便受けに「がん保険見直しませんか」の手紙が届く

世界中のありとあらゆる手続きが無くなるならばそこは天国

火の海を渡れと言われているようでプラス思考の本はおそろし

有線であればマウスはぶら下がる無線であれば行方は知れず

梅干しをふたつに分けてそれぞれのごはんに乗せる秋のひと日よ

しぶとくも瓶の内面にへばりつく海苔の佃煮かき出すあわれ

真逆なるいて座やぎ座の命運よ星占いを疑いやまず

てきとーな時間にとび出す鳩さんよ滝に打たれに行ってください

綿菓子のあまい香りの縁日の銀のピストル欲しくて泣いた

細き枝に真珠のごとき実をむすび何を告げんとする白式部


_/_/_/ 未来1月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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開くとき

2023-12-04 23:49:01 | 短歌

 

開くとき雨のにおいがするという村にひとつのグランドピアノ

いっぽんの傘にふたりが入るときどうあがいても濡れる半身

乾電池のぎっしり詰まった冷蔵庫ある信仰のゆきつく果てに

香りたつ蚊取り線香のぐるぐるをまるく納めて缶静かなり

犬だけがうろつくことはまずなくて橋を渡ってゆくひとと犬

面白き雑誌であれば時わすれ立ち読みのひとみな石になる

誰も彼も一度は思っていただろうとっとと変身すればいいのに

何らかの後ろめたさのあるごとしエンドロールがすこぶる速い

マヨネーズと唐辛子って神ですね夜の夜中に噛むするめいか

ややこしき国交のこと思うときあれだけひどき耳鳴りは消ゆ


_/_/_/ 未来12月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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はちみつと

2023-11-04 17:46:08 | 短歌

 

はちみつとチーズをたっぷり練り込んだクッキーを買うサユリのために

黒豆を甘く煮たのが入ってるマドレーヌ買うマリコのために

関東では買えないカールのうすあじをひと袋買うイズミのために

面白い恋人と名をつけられたゴーフレット買うレイコのために

大阪名物たこ焼きの味がするというせんべいを買うチエミのために

朝出かけみやげを買って夜戻る 面談ふたつすき間にいれて

気がつけば昭和のしっぽを振っているさみしがり屋の小犬のように

加賀まりこ 雪村いづみ 江利チエミ 吉永小百合 大原麗子

かとうれいこ 国生さゆり 堀ちえみ 稲森いずみ 石原真理子

大阪へ行きて戻りしいちにちをまぶたのようにぱしゃんと閉じる


_/_/_/ 未来11月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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