麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

ダンボール

2023-07-05 18:47:29 | 短歌

 

ダンボール箱に収めた本たちにひかり与える一日ぞよろし

すいすいと国境線を越えたいな皇帝ペンギンのガム噛みながら

オリジナルオリジナルってつぶやいた振られたる日の遠い夜中に

きびだんごあれば与えるかもしれず産業道路に雉わたる見ゆ

風の律正しからざる規則にて届くを聞けり夜の入り口

食器棚の奥の奥には棲んでいる闇を好めるどんぶりばちが

弦楽器のfの穴からふらふらと出てくるひとの襟よれている

思い出はモノクロならず盗まれた自転車の色ことごとく青

どんな口だったか思い出せなくてただ妄想は乱れるばかり

折からの雨をたっぷり吸い込んでもう飛ぶことはない羽根布団


  ※ ルビ  一日(ひとひ)      1首目
  ※ ルビ  襟(えり)        7首目


_/_/_/ 未来7月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦4月号

2023-07-05 18:40:18 | 短歌記事

 

未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦4月号    鈴木麦太朗

  いいなあとつぶやく今朝の陽のひかり一
  月二日の庭の山茶花   西城 燁子 
 新春の朝の清やかな陽射しが「いいなあ」
とつぶやいている、と読んだ。輝くような山
茶花の花が見えてくるようだ。
  バサバサと葉を手放して梧桐は眠りには
  いる体勢となる     藤田 正代 
 梧桐のまるく大きな葉の落ちる様はバサバ
サという擬態語がピタリとはまる。「眠りに
はいる」という認識は新鮮だった。
  みちくさをたくさん食おう笑うたび泣く
  たび青さが匂い立つように
            しま・しましま 
 こころ勇気づけられる歌だ。結句の効果に
より「みちくさを食う」という慣用句が文字
どおり食物を食べているように感じられるの
が面白い。
  デイサービスへ夫送り出し部屋の窓開け
  放ちたり掃除だ掃除   松原 槇子 
 いきいきとした生活の断片がよく伝わって
くる。言うまでもなく結句の駆り立てるよう
な台詞が効いている。
  よるべなき夢を育てる少年のこよい寡黙
  に本を見ており     立原  唯 
 三句目の格助詞「の」の使い方に注目した。
「が」や「は」の方が自然であるがいかにも
散文的になる。「の」は上句と下句の付かず
離れずの事象をやわらかくつなげる役割も果
たしている。
  用向きといふ佳きことば見つけたり「用
  向きありて」と使ひたき日よ 布宮慈子
  かがみこみ「未来」をひらく隅から隅ま
  で新しき言葉を探す   柏原惠美子 
 新しい言葉を見つけてそれを使おうとして
いる布宮さん、未来誌を隅々まで読んで新し
い言葉を探している柏原さん、ともにすばら
しい。
  僕は僕のままで良いと笑ふ時からつぽな
  んだ君の瞳は      酒匂 瑞貴 
 話者の本心を見通している作者。かみ合わ
ない言葉と心が切ない。あるいは話者イコー
ル作者なのではないかとも思った。
  肉汁っていい言葉だな牛豚の命を忘れ口
  に運べば        高幡めぐみ 
 グルメレポートなどで普通に使われている
「肉汁」という言葉も牛や豚の命を意識する
とまた違った感慨がわいてくる。
  寒いなら毛布を持って痒いなら塗り薬持
  って持ってくるから   篠田 理恵 
 入院中の父を詠んだ一連のなかの一首。具
体的な事物と入れ子になったリフレインが効
いていて胸にせまるものがある。
  三年ぶりに箱根に向かう 有観客、有観
  客とリュック揺らして  紺野ちあき 
 「有観客」をオノマトペのように使ってい
るのが面白い。箱根駅伝観覧を詠んだ一連の
なかの一首ではあるがこの一首だけでもその
目的やよろこびの感情は伝わる。
  ごく薄い桜色、でも十六本骨があるから
  じょうぶなんです    氏橋奈津子 
 「ごく薄い桜色」と三句目以降とを逆接で
つないだところに引っかかりがあっていい。
後半のひらがな表記も効いている。
  ぼくの影を車に轢かせて驚いた轢いた車
  に影乗り移る      赤木  恵 
 佐藤佐太郎の《秋分の日の電車にて床にさ
す光もともに運ばれて行く》をすこし思った。
佐太郎の歌はある意味理にかなっているがこ
の歌はその斜め上をいく発想だ。

 

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