備忘録として

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龍樹

2012-12-22 23:09:53 | 仏教

 2~3世紀インドのナーガールジュナ(中国名「龍樹」)は、般若経で述べられ大乗仏教の基本的教説である空の思想を哲学的・理論的に基礎づけた。それゆえに、大乗仏教は彼から始まったと言われ、ブッダ以降もっとも重要な仏教者のひとりとされる。龍樹は、「中論」など多くの著作を残している。

 空の思想をもう一度考えてみようと思い、ナーガールジュナの「中論」を中心に彼の生涯と思想を解説した中村元著「龍樹」をひととおり読んだ。しかし、中村元が噛み砕いた解説でさえ難解だった。否定の否定が繰り返され西洋には詭弁だとする研究者もいるらしいが、中村元は古くからある多くの注釈や研究、サンスクリット原本、その中国語訳を駆使し、ナーガールジュナが中論で言いたかった中身に正面から迫るのである。

中論の中心問題は縁起である

ものは相互依存(相因待)、すなわち縁起でなりたつ。有⇔無、大⇔小、長⇔短など、有は無があってはじめて存在する。ものには自然に存在するものだけでなく、形而上学的な”かた”としてのものである概念(法=ダルマ)も含む。自然に存在するものが有で、”かた”として存在するものは実有とされる。下の否定の論理は、縁起を明らかにするために用いられている。

<不滅>宇宙においては何ものも消滅することなく、<不生>何ものもあらたに生ずることなく、<不断>何ものも終末あることなく、<不常>何ものも常恒(じょうごう)であることなく、<不一義>何ものもそれ自身と同一であることなく、<不異議>何ものもそれ自身において分かれた別のものであることはなく、<不来>何ものも(われらにむかって)来ることもなく、<不出>(われらから)去ることもない

縁起は時間的な因果関係をあらわすものではなく、論理的相関関係をあらわす。すなわち、短があるから長があり、浄があるから不浄がある。双方は独立しては存在しえず、片方がなければ片方は成立しない。このことから、一を知れば一切を知る。微小を知れば全宇宙を知る。という考えさえも導かれる。

中論の説く空の論理は虚無論ではない

空と無は同じではない。だから、中論の説く空は老子の説く無とは異なり虚無論ではない。縁起は有や無から離れた中道であり、これが空である。では空に対抗するものは何かというと、不空である。すなわち縁起しないものが不空である。ところが空を不空と対立してみることはできない。なぜなら空そのものが対立から超越したものであるからであり、不空は存在しないと言える。不空がないなら空もないのであり、それがニルヴァーナである。(注:金谷治「老子」を読む限りでは老子の思想は必ずしも虚無主義とは言えない。)

仏教当初の思想と中論の関係

ブッダは諸行無常を説いた。すべてのものが無常であるということは、概念である法(ダルマ)でさえ無常ということか。さらに、諸行無常という命題さえ確かなもの(常住)でない、すなわち無常だとなれば、ブッダの教える根拠がなくなってしまうことになる。だから、概念や命題は実有であるとするのが小乗仏教である。しかし、中論は概念や命題も無常であるとする。

ブッダは不断不常を説いた。いかなるものも常住でなく(無常)、断滅しない(不断)。ブッダは苦楽は自から作られたものではなく、他のものによって作られたものでもなく、自他の両方からつくられたのでもなく、自作でなく他作でもない無因生(因無くして作られた)ものでもなく、実に縁起せるものと説いたという。原始仏典では、諸事物は自作、他作、自他作、無因作のいずれでもないと述べられている。すなわち、原始仏典ですでに空の思想が語られているのである。

西洋哲学の問題

西洋哲学は突き詰めれば主観と客観の対立であったが、仏教は最初から主観と客観の対立を排除したものである。我思うゆえに我あり(主観)は、無我を説く仏教では排除される。仏教の根底は有と無の対立であり、有でもなく無でもないものが空である。それがニルヴァーナに至る道であるとする。

中論から学べること

原始仏教は、われわれは生存に執着して妄執によりあくせくしてはならない。しかしまた非生存(断滅)にとらわれて、人生を捨てて虚無主義になってはいけない。と説いた。生存=有、死=無と考えると、中論の説くニルヴァーナとは、非有非無、すなわち空そのものである。

人間は迷いながら生きている。そこでニルヴァーナの境地に達したらいいなと思って憧れる。しかし、ニルヴァーナという境地はどこにも存在しないのである。ニルヴァーナにあこがれるということ自体が迷いなのである。では何に頼ればいいのか。ここで以前紹介した”眠ろう眠ろうと努めると、なかなか眠れないが、眠れなくてもいいのだと覚悟を決めると、あっさり眠れるようなものである。”という中村元の解釈でやっとニルヴァーナとは何かがうっすらと理解できるのである。


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