陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「夕凪の街 桜の国」

2009-08-14 | 映画──社会派・青春・恋愛
この時期になると、かならず戦争を扱ったドラマや報道番組が多いものですね。でも、それを伝えるのは当たり前だと思います。
昔、なんの映画か忘れましたが、テレビで原爆を題材にした古い映画を観ました。その頃は原爆の何たるかも知らなくて、さっきまで楽しそうにはしゃいでいた子どもたちが、いきなり強い光りを浴びたかと思うと、次の瞬間焼け野原になった街に裸同然で佇んでいて。子供心にひじょうに恐ろしいものを見たという記憶の残滓があります。

本日の映画「夕凪の街 桜の国」(2007年作)は、二部構成で、被爆後の広島を舞台に三世代に渡る被爆者そしてその遺族の懊悩を描いたもの。
いくら経済が豊かになっても、この街には「戦争を忘れた戦後」は訪れることはないのかもしれません。

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「夕凪の街」
昭和三十三年、広島。
母親のフジミとふたり暮らしの会社員平野皆実は、同僚から求婚をされる。しかし、母親と共に被爆者であった皆実は、すなおに承諾することができないでいた。自分だけが生き残って、幸せになっていいのか。そんな自虐心に苛まれていた胸の内を、婚約者に吐露し、受け入れられる。だが、あの日から十三年も経って、病が彼女を蝕みつつあった…。
夕凪の河原に寝そべってつぶやく皆実の最期の台詞が、被爆者の怨念めいていますね。

「桜の国」
平成十九年、東京。
OLの石川七波は、退職した父旭、弟の研修医凪生と一軒家で暮らしている。
ある休日の夜、不審な行動をとる父を尾行した七波は、友人の東子といっしょに父の向かう広島に降り立った。そこはかつて、石川家が暮らしていた場所だった。満開の桜並木をきっかけに、七波は祖母、そして亡き母にまつわる記憶を辿っていく。

後半部のほうは現代女性向けのドラマらしくいささか軽いノリがしないでもないのですが、原爆二世への世間からの風当たりをさりげなく描いています。
苦しみを背負わされたのは、あの日、被爆地にいた者だけではない。戦後十数年を後悔に取り憑かれ、生きる意欲、幸せになる精力を削がれ殺されてしまった人、そしてその苦悩が子や孫の代まで引き継がれてしまうという悲劇。

軽度の原爆被害であったために、発症が数年遅れたために、そして非被爆地からの偏見が恐くて症状があっても隠しとおしてきたために、原爆の救済措置を受けられない人の問題は、訴訟問題となっています。

筋書きは安易ではありますが、原爆を考える映画としては、ぜひ観てもらいたい映画でもあります。
原作は、こうの史代の第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第9回手塚治虫文化賞新生賞受賞作の同名漫画。
作者の傾向なのか、映画には百合っぽいシーンがあります。

監督は、佐々部清。
主演は、儚げな印象の漂う皆実に麻生久美子。どこか男勝りな現代人女性の七波を田中麗奈。


(〇九年八月十二日)

夕凪の街 桜の国(2007) - goo 映画


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