陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「ゆれる」

2015-07-21 | 映画───サスペンス・ホラー
2006年の映画「ゆれる」は、女性の転落死をめぐって、兄への愛情か、真実の追及かで揺れうごく弟の心理に迫った法廷サスペンス。
きまじめな兄とアウトローな弟との絆が破綻していく過程はまさに「エデンの東」や「インディアンランナー」など、過去に類作は見られます。カンヌ国際映画祭の出品作ということで話題を読んだ邦画。

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東京で暮らす人気カメラマン、早川猛(たける)は母の法事のため久方ぶりに帰省する。田舎の山梨を飛び出して肩身の狭い猛の依りどころは、老父をささえて家業のガソリンスタンドを経営する、こころ優しい兄の稔(みのる)だけだった。

兄の店で働く幼なじみの智恵子と再会した猛は、彼女から羨望の気持ちを打ち明けられる。
ある日、兄弟の想い出の渓谷へ三人で出かけることに。急流にかかる古い吊り橋から智恵子が転落し、稔に殺人容疑がかけられてしまう…。

たったひとりの兄を救うべく、伯父の弁護士を手配し、無実を信じ続ける弟。しかし、遠巻きに転落の直前のやりとりを目撃していたと思われる猛はなにか後ろめたい気持ちをかかえたまま。部下に慕われ、父の信望も厚く、人当たりのいい稔がはたして智恵子を殺めるはずがない。しかし、法廷の証言台に立つ兄と、二人だけの面会席で、兄が積年の恨みつらみを吐き出されたのを境にして、猛の気持ちは傾いていってしまいます。

危ない綱渡りをしているかのように、右へ左へとぶれていく主人公の心情が、ラスト十分前ほどになって、また揺り戻される。筋書きとしてはあまり大きなことを扱ってはいませんが、エピソードの折り込み方に工夫があるようで、そこそこ魅せてくれます。

兄弟縁の復活を思わせる終わり方でしたが、よくよく考えてみれば、本能のままに生きる主人公が、実直な兄貴の生き方を狂わせたともとれるわけで。過去のフィルムを再生して落涙するシーンを観ても、まったくもって同情できませんでした。
兄弟と女性の運命を狂わせたのは、田舎で地道な生活をする苦しさからくる都会への憧れ。功名心が人間の優しさを失わせるというのは、なにか特別な存在でないと人間でない、という現代日本人らしい精神病ではないかと思います。芸術家がでてくる映画はたいがいこういうパターンが多いですね。いくら有名になろうと、ふつうに暮らす人を蔑ろにする風潮のある作品は好きになれません。自分は選ばれた才能ある人間だと嘯く、自称クリエイターのマスターベーションですよね。

主演は弟の猛に、オダギリジョー。彼はこういう役が多いですね。
兄の稔には、実力派の香川照之。
智恵子役に真木よう子。
稔の部下の新井浩文が猛に言いわたして改心をうながす言葉が利いていますね。
最近は監督としても話題をふりまいている、ヤクザ顔の木村祐一の検察官は、蟹江敬三演じる弁護士ともども不気味な存在感があります。

監督は西川美和。2009年の「ディアドクター」で芸術選奨文部科学大臣新人賞などを受賞。

(2010年7月11日)



ゆれる(2006) - goo 映画

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