陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画『ホワイトナイツ 白夜』

2008-12-03 | 映画──社会派・青春・恋愛


住めば都という言葉があるけれど、遠くで望めば楽園、いざ住んでみれば地獄というような場所もあるでしょう。政治の空気がふつうの国を鬼ヶ島のように歪めて報じている場合も。深夜に放映されていたアメリカの芸術映画を観てそう感じたのです。


映画『ホワイトナイツ』は、一九八五年の作で、米国とソビエト連邦がまさに冷戦状態であった緊張感をかいま見せてくれた名作。芸術性が高い映画って物語に派手な山場がなくて眠たくなってしまうものなのですが、この映画は終盤のストーリー展開があざやかで拍手をおくりたくなるほど。


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天才バレエダンサー、ニコライ・ロドチェンコを乗せた航空機が、機内事故によりロシアに緊急着陸。ロドチェンコはじつは八年前に祖国ソビエトから米国に亡命した踊り手だったのでした。KGBの幹部大佐によって軟禁された彼は、黒人の監視役をつけられます。その黒人レイモンドはタップダンサー。母国の人種差別、ベトナム戦争での陰惨な体験から米国社会に失望、脱走してソ連へ逃げた人物でした。ソ連の広告塔として利用されるも、ロシア人の妻ダーリャとともに穏やかな暮らしをしていたレイモンドの日常は、この突然の任務によって一変。気位の高いニコライとは衝突をくりかえし、しかもニコライがたびたび脱走するので、妻を逮捕されてしまいます。

ニコライも、亡命前の恋人であっ女性と再会。現在はキーロフの芸術監督も務める彼女にロシアに留まることを切に訴えられますが、自由な表現を求めてやまないニコライは聞く耳持たず。
舞台で共演することでしだいに意気投合してゆくニコライとレイモンド。レイモンドにとってもこの国は生活を録音されるなど窮屈で、おまけに黒人差別は根強くありました。大佐に逆らえば、いつ収容所に送られるかわからないのです。
友情を深めた二人の男は、お腹に子を宿したダーリャと三人での逃亡を企てます。そこからの展開がかなりサスペンスタッチで終始はらはらしっぱなし。最後、逃避を幇助すべく残ってしまったレイモンドがどうなるかと冷や冷やしましたが…。

この映画、なんといいましても見どころはダンスシーン。バレエと聞きますとついついクラシックバレエを思い起こすのですが、ニコライが踊るのは前衛的なダンスです。しかも、場面に応じてジャンルの異なる音楽を背景に踊るさまはみごと。レイモンドのくりだすタップダンスとのデュエットも興味深いです。バレエというのは薄氷を踏むようにつま先柔らかく歩くもの。いっぽう、タップは足の裏全体、とくにかかとに軸をおいて床を叩きつけるものです。そんなの踊りのテンポの違うふたりが、呼吸をあわせて似たような舞をしつつ、微妙に足捌きのニュアンスが異なっているのがよくみてとれました。

主演のふたりは実は双方ともその道の実力者。しかも演じ役の人生と重なる部分があります。
ニコライ役のミハイル・バリシニコフは、ソ連(現ラトヴィア)生まれで七四年に米国に亡命した元キーロフ劇場バレエ団のダンサー。渡米後はコンテンポラリーダンス、映画、演劇と活動の幅を広げています。坂東玉三郎と共演したことでも話題を呼びました。
グレゴリー・ハインズは、タップダンス界の世界的トップスター。三歳でタップの舞台を踏んだのち、ブロードウェイミュージカルで俳優デヴュー。歌手、監督の顔ももっています。残念ながら〇三年に癌で他界。

タイトルのホワイトナイツは太陽の沈まない現象、白夜のことですが、二人の男の肌の対比でもあるのかと思われました。大使館に逃げ込めた者と囚われてしまった者、命運をわけたふたり。残ったほうが最後連行された場所はおそろしく深い闇が降りていて、恐怖心をかりたててくれます。レニングラートの不気味な明るい夜は日がな監視されているようで落ち着かなかった。最後に白い光を背負ってあらわれた人物は、彼にとっての太陽だったのでしょう。

ソ連をあたかも非人道的国家として描いていますが、ベトナム戦争への異議申し立てや人種差別もとりあげており、アメリカの自己批判的な政治ドラマともいえそうです。劇中にも触れられていましたが、米国に逃げても明るい生活があるわけではないという苦言が、それを物語っているようですね。



【画像】
エドガー・ドガ「14歳の小さな踊り子」
1878‐81年にロウで制作、1922年以降にブロンズで鋳造、フィラデルフィア美術館所蔵



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