陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「風の丘を越えて─西便制─」

2010-10-30 | 映画──社会派・青春・恋愛
1983年の韓国映画「風の丘を越えて─西便制─」は、韓国で一大ムーブメントを巻き起こした話題作。
旅芸人の男とその娘、息子の愛憎を描く悲劇的なドラマ。主演の女性が、伝統歌唱パンソリの現役歌手だけあって、美しい歌声が響く音楽映画でもあります。ただ、筋書きとしては、おなじく芸に生きる女性の覚悟を壮大なスケールで描いた「ファン・ジニ」のおもしろさにはやや劣りますよね。

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1950年代、パンソリの歌い手ユボンは、養女のソンファ、そして旅先で恋に落ちた未亡人の遺児トンホを連れて、旅回りしている。ユボンの教えによって、太鼓の名手、美声の歌い手のコンビとして名を知られることになったソンファとトンホの姉弟。しかし、パンソリは時代遅れとなり、生活が苦しくなるなかで、厳しい訓練に耐えかねたトンホは家出。
遺されたソンファは、父の言いつけどおり芸に精進するが…。

ヒロインのソンファが、自分勝手な父親のいいようにされて、かわいそうという印象しか持ちえませんでした。
このあと、ユボンは芸の真髄を究めるために必要な”恨(ハン)”の感情を抱かせるためと称し、薬を過剰に与えてソンファを失明させてしまいます。そのことによって、ソンファは達人の域に達しはするが、ユボンは晩年、自分の犯した過ちを悔いながら死んでしまいます。
いくらなんでも酷い父親としかいいようがありません。一生食べるの困らない芸ならよいのですが、落ち目の芸道を磨くために娘の両目の光りを失わせるなんて正気の沙汰としか思えない。半死に状態にさせたも同然です。途上国などで乞食の親がお金がとれるからと、生まれた赤ん坊の手足を折る理屈と同じです。子どもの人生をなんだと思っているんでしょうか。

韓国では多くの受賞となり、海外でもそれなりに評価されたようですが、現在ならこの父親は、児童虐待、傷害罪で捕まってもおかしくないです。
あの姉弟が、抱いた”恨(ハン)”というのは、父への愛情とも憎しみともつかぬ複雑な感情だったのでしょうか。

終盤、逃げたトンホがソンファを探し当てて、ふたたび太鼓を鳴らし、歌いあって、気持ちを交わす。しかし、ふたりはそのまま無言で別れてしまいます。
このラストはまだしも救われはしますが、でもこの弟も目の不自由な姉を見捨てたのでは、という気がしないでもないですね。

監督は、林權澤(イム・グォンテク)

風の丘を越えて―西便制―(1993) - goo 映画

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