陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「巴里の空の下セーヌは流れる」

2012-09-28 | 映画──社会派・青春・恋愛
1951年作のフランス映画「巴里の空の下セーヌは流れる」は、花の都パリを舞台に見ず知らずの住人たちがつながったり離れたりする、秀逸な群像劇。おなじような構成を狙ったものに99年作のロサンゼルスを舞台にした「マグノリア」があるが、あちらのまとめ方よりは、良心的で古典的。
パリ二千年祭にちなむ大作で一級の観光映画でもあり、かつ第二次大戦で祖国フランスを追われたジュリアン・デュヴィヴィエ監督の復活作としても有名。

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南フランスから上京してきた娘ドゥニーズは、富と名声と恋が一夜にして、手に入るという占いを信じて浮き足立つ。その友人のマリー=テレーズの恋人、医学生のジョルジュはあがり症で落第続き、三度めの試験に臨もうとしていた。
芸術家がつどうモンパルナスのアパルトマン、その屋根裏部屋のアトリエ。孤独癖のある暗い彫刻家マチアスは、奇怪な女の顔ばかりつくっているが、彼には恐ろしい顔がある。そのアパルトマンの七階に住む老女は、飼い猫の餌のために、みずからも空腹ながら街を訪ね歩く。老女の近所に住む少女は、母にお使いを頼まれたにも関わらず、男の子に誘われてセーヌ川で船乗りに興じてしまう。
そして、その日、工場の労働者がストライキを起こし、仕事を休んで中年男エルムノー。彼はその夜、とんでもない災難の巻き添えに…。

最後に、およそこの六人の一日がふしぎに結びあわされていくさまが、巧みとしかいいようがない。
主役格といえるドゥニーズはお気の毒さまとしか言い様がないが、なんとも皮肉な巡り合わせで人生が暗転した例だろう。いっぽう、ジョルジュが最後に報われたのは、溜飲が下がる思い。
猫可愛がりの老婆は、とちゅう、もしや…という死の予感を匂わせながらこころ温まる結末が用意されているのが、心憎い。人の良心が信じられるエピソード。

巴里の空の下、複数名の悲喜こもごもの人生がひとつの川のように寄り集まって流れていく。
劇中、挿入される主題歌「巴里の空の下」が、サスペンスタッチの事件の後味を和らげている。シャンソンのヒット曲になり、今でも愛されている名歌。

巴里の空の下セーヌは流れる(1951) - goo 映画

(〇九年八月二十七日)

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