陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

『マリア様がみてる─卒業前小景─』(後)

2008-10-26 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

さて、肝心の山百合会。
わざとらしく落とし物にした黒リボンのおかげで祥子を訊ねてリリアン三千里の旅にでかける祐巳。そんな実時間で数年前に書かれたエピソード誰が覚えとるんじゃあ、と健忘症な管理人がツッコミたくなるぐらい、小道具や人材を使い回しする今野先生、さすがです。遠回しに過去作も買えよなと、無言の圧力をかけていらっしゃるのでございます。

黄薔薇シスターはお約束どおり痴話ゲンカ。ええ、いつもの原因は九割五分五厘由乃さんのせいですのに、令ちゃんが悪い→周囲を盛大に巻き込んで仲直りの黄金パターン。ま、これももうすぐ見られなくなりますのでご愛嬌。由乃は江利子さまほか、先代薔薇さまを召集して卒業式になにやらやらかす様子。これはやはり、有馬菜々と関係が?なにやら報道陣をあつめて電撃入籍をつげる女性タレントのいきおいです。おおきな病気を経験した人ってたとえどんなささいなことでも、大きなイベント仕立てにお祝いしないと気が済まないのでしょうか。三つ編みのシュミはよくわからん(髪型は関係ないだろ)

由乃が聖さまの知恵を借りようとするのもおもしろかったのですが、瞳子が令さまと気持ちを通わすところも新鮮で。なんとなくカップリング幻想にとらわれていると固定化してしまう人間関係を、ほぐそうとしている努力がみられますね。
すこしまえまで敵方であったろう瞳子を、あたたかく迎える志摩子の視点もいい。
祥子へ思考がとんでいる祐巳を気づかう瞳子の思いやりもいいですよね。しかし、できすぎた妹すぎるので、おもしろみに欠けはするんですが。

で、『涼風さつさつ』なみに貴女を探して状態で学園内を徘徊していた祐巳ですが、やっと鬼ごっこも終わり。サッチー(野村の妻ではない)は最後まで追いかける女ではなくて、待たせる女のようです。
ドキュメンタリーを逆再生するように、祐巳の視点でふたりの想い出の場所を訪ねていくさまは、読んでいてなつかしさに涙ほろり。やさしい記憶をたどる旅の終着点は、ふたりのはじめての出会いの場所、薔薇の館。そして奇しくもはじめてをなぞってしまうふたり。

思えば、不意の衝突が出逢い初めの祥子と祐巳。その後、なんど言葉の上で、気持ちのかけ違いでぶつかったことでしょう。最後の涙の抱擁シーンはまさに感動的。小道具を演出するのもうまい…けれど、ちょっと無理がないかと(笑)といいますか、あのシーン、いったいどこの神無月の巫女ですかとつっこみたくなったのは私だけではないはずですが~(笑)
この部分、映像化したらどんな脚色されちゃうんでしょうね。『パラソルをさして』のラストの、祥子祐巳の背後に傘を開くようにわんさか薔薇が咲いていくさまは圧巻でしたが(笑)

そういや、リボン交換イベントって『リリカルなのは』無印ラストにありましたが、『マリみて』インスパイアなのかしらん。

それまで伏せられていた先代三薔薇さま(聖は『いばらの森』ですでに暴かれてましたが)がたの内面に迫った『いとしき歳月』と比べますと、今年の卒業組はいまのところ、姉妹関係のうえで感情の綱引きあいっこをしながら、気持ちの整理をつけているように感じられます。それはある意味、どことなく形骸化しすぎた感情の処理を筆先でおこなっているようにもみえるのですが。
さて、今年の卒業式、去年の感動の渦をさらに超えることができるのでしょうか?

年々歳々、舞台にならべた役者が多すぎて、舞台袖で泣くはめになってしまうキャラがいるのも事実。おさだまりのふたりっきりの甘い夢で今巻をうまく締めた今野先生、つぎではどう捌かれるのかがみものです。

でも、次巻がまた短編集でおあずけとかかもしれない。いや冗談じゃなくて(笑)



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