陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「アパートの鍵貸します」

2014-04-05 | 映画──社会派・青春・恋愛
1960年の映画「アパートの鍵貸します」(原題 : The Apartment)は、大企業の平社員の青年が出世を夢見た奇策を思いつくも、そのために恋の痛手をこうむってしまうというオフィスラブ・コメディ。しかし、いっけんロマンチックコメディを装いつつも、じつはしたたかな企業社会を諷刺した社会派ドラマといえそうです。会社のために私生活を犠牲にし、上司に誠心誠意尽くすサラリーマンの悲しい性に苦笑する視聴者もさぞや多かろうと思われます。

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ニューヨークの大手保険会社の若手社員バクスター、愛称バディはうだつのあがらなそうな風体。しかし、競争相手の多い社内でも上司の覚えめでたく、出世頭。なにを隠そう、彼は自宅のアパートを四人の課長に臨時に貸しつけていていました。課長たちはバディ宅に行きずりの女を連れ込んでは逢い引きを楽しみ、ひきかえにバディは便宜を図ってもらえます。
間貸しの相手に、どこから噂を聞きつけたのか人事部長のシェルドレイクも加わって、バディには念願の係長のポストが転がり込んできます。

しかし、シェルドレイクの愛人は、かねてからバディが想いを寄せていたエレベーターガールのフラン嬢。失意のバディは片想いよりも、出世の道を選ぶのですが…。

前半は野望のためなら好きな女すら諦めてしまう、卑屈な三枚目にみえたバディが、失恋で騒ぎを起こしたフランを介抱していくことで、頼りがいのある男に成長していく。上司の体裁と内約を隠すためにアパートの隣人についた嘘も、フランの名誉と傷ついたこころを守るものに変わっていきます。

そんなバディの優しさに包まれつつも、ホワイトカラーの職種に就けなかったために、人事部長の都合のいい情人にされてしまったフラン。浮気が露見して離婚沙汰になったシェルドレイクの求めに応じてしまうのですが、最後に真実の愛がどこにあるかをはっきりと悟ります。

この手のロマンチックコメディは、たいが最終的に惹かれあうふたりに、不幸な既成関係の恋人がいても、なんらかの出来ごとで縁が切れてしまうので先が読めるといえば読めます。しかし、ただの恋の成就だけではなく、鼻持ちならない企業マンに冷や水浴びせてやれるあたりが爽快感。
バディはけっして男前ではないのですが、フランに洩らしたささやかな過去の痛手が彼女のこころを揺さぶり、ラストのちょっとしたミスリードを招いているあたりが巧妙。

主演は「お熱いのがお好き」の喜劇俳優ジャック・レモン。1989年の「」では、末期がんの老いた父親を熱演。お相手は「ハリーの災難」でデヴューしたシャーリー・マクレーン。本作ではなかなかコケティッシュで愛らしい女の子ですが、「マグノリアの花たち」では、白州正子みたいな気難し屋の老女を演じているのが印象深いですね。
監督・脚本は「深夜の告白」「麗しのサブリナ」のビリー・ワイルダー。
本作は1960年のアカデミー賞で、作品賞・監督賞・脚本賞などを受賞。

(2010年2月22日)

アパートの鍵貸します - goo 映画

アパートの鍵貸します(1960) - goo 映画

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