陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「サイコ」

2015-05-03 | 映画───サスペンス・ホラー
1960年の映画「サイコ」(原題 : Psycho)は、私がはじめて観たヒッチコック作品です。観たといっても学生時代、映像美学の特別講義の教材として、あの有名なシャワーシーンのみを目にさせられただけですが。このシーンは「チャーリーとチョコレート工場」でパロディにされていましたっけ。
あの警報機のような、急き立てる音楽はなんとも恐怖心を募らせてくれますね。

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アリゾナ州の小さな町。
不動産会社の事務員をしているマリオンは年の頃三十近く。恋人のサムとはいい仲ですが、店の経営が苦しいうえに離婚した妻への慰謝料を払っている彼は、なかなか結婚に踏み切れないまま。
ある日、魔が差して、会社の資金4万ドルを横領してしまったマリオンは、隣町のカリフォルニアまで車で逃亡。
夜に強い雨に降られたたため、旧街道沿いの寂びれたモーテルに宿泊。宿のオーナーは一見好青年そうなノーマン・ベイツで、離れに住む病気の母親と二人暮らしだった。

しゅっぱなから、恋人のベッドシーンではじまるという、ヒッチコック映画らしからぬロマンス。観客はてっきり、このマリオンとサムを軸に物語が進んでいくものと勘違い。ところが、前半で早くも主人公と目されたマリオンが、シャワー中に何者かに刺殺されてしまいます。ヒロインと思しき女性がいきなり亡くなってしまう構成は「めまい」でもありましたが、本作では、マリオンの出番はそこまで。
その後は、主人公が交代し、殺人の起こったモーテルを舞台に、第二、第三の恐怖が生み出されていきます。

流血シーンはさほどなく、死体が残虐な見せ場もないのですが、やはり恐い。
不安を煽り立てるように、ゆっくりと室内を這っていくようなカメラワークと、表情の影を深めるモノクロ映像、そしてサスペンフルな音楽のせいで、なんともおぞましい気分にさせられてしまいます。

サイコとは、精神異常者のこと。
マリオンを殺した真犯人については、視聴者がアタリをつけてはいるが、裏切られてしまうような微妙な存在の人物。あえていえば、「第三の男」と「ストレンジャー」のトリックに近いのですが、現実にこんなことがありえるのでしょうか。

ノーマン青年がマリオンに話した鳥の剥製の話が種明かしになっているのですが、それに勘づくのは視聴者側だけ。ラストの「この世にありえない人物」の台詞が流れたシーンで、ノーマンを演じるアンソニー・パーキンスが浮かべた気味の悪い表情がなんともいえないですね。
前半にでてくる、執拗にマリオンの後をつける警官も端役ながら、薄気味悪い存在感をもっています。

血を吸う排気口が瞳孔の開いた死人の瞳のアップに変わるシーンは、サルバドール・ダリが客演した実験映画「アンダルシアの犬」を彷彿とさせます。

この映画は現在はヒッチコック作品の代表格として名高いですが、公開当時は批評家に酷評されました。ネタバレを恐れて批評家専用の試写会を設けなかったのが原因ではありますが、観客にはおおむね好評を得て大ヒット。
当時としては百万ドル以下の低予算で製作したにもかかわらず、好評を得たことはヒッチコックの名を高めました。

出演は、ノーマン・ベイツにアンソニー・パーキンス。オードリー・ヘプバーンと「緑の館」で共演、「審判」では不条理な裁判にかけられて精神不安定になる繊細な青年を演じています。
絶叫がすばらしい(笑)マリオン役に、1949年の「若草物語」でメグを演じたジャネット・リー。
マリオンの妹ライラに、「めまい」でヒロインに推されながら降板したヴェラ・マイルズ。

原作はロバート・ブロックによる同名のスリラー小説。
音楽を担当したのは「市民ケーン」「キリマンジャロの雪」「めまい」など多くの名作映画に音を添えたバーナード・ハーマン。「サイコ」の一部の曲は、「スターウォーズ」に転用されています。

1998年にガス・ヴァン・サント監督によってリメイクされました。
劇場版で二編、テレビ映画で第四作めの続編もあり。

(2010年2月25日)

サイコ(1960) - goo 映画

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