陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「第三の男」

2010-08-03 | 映画───サスペンス・ホラー
淀川長治をして「映画の教科書」と言わしめた傑作ミステリーが、1949年の映画「第三の男」
フィルム・ノワールの傑作中の傑作といわれる作品。

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舞台は、第二次大戦後、連合国に占領された古都ウィーン。
三流の西部劇作家のホリー・マーティンスは親友のハリー・ライムの慈善事業の手伝いの誘いを受けて、ここを訪れる。が、頼りのホリー本人が自動車事故死。ホリーが闇の商売人をしていたという嫌疑をかけた警察からも事情聴取をうける。
ハリーの無実を疑わないホリーは、推理作家の本分を生かしてハリーの死に立ち会ったという男たちに取材。しかし、警察に届け出た事実と彼らの証言は食い違っていることに気づく。ハリーの遺体を運んだという第三の男がいたというのだ。
いっぽう、英国警察のキャロウェイ少佐は、ハリーと顔見知りだったという軍病院の看護人の行方を追っていた。

ネタバレをすると、ハリー本人は生きていて、しかも大罪を犯し警察に追われる身の上。
ハリーの恋人であった舞台女優のアンナはハリーを信じて帰りを待っている。いつの間にか恋心を寄せてしまったホリーはなんとか振り向かせようとするも、つれない態度。ハリーとの関係に加え、チェコの移民でパスポートを偽造して亡命していたために少佐の厳しい取り調べに遭う彼女を何とか救おうと画策するホリー。

見どころは、再会したハリーとホリーとの観覧者での、息詰まるやりとり。ハリーが永世中立国スイスの博愛主義を時計にひっかけて皮肉った台詞が印象的。戦後連合国に支配されて、下町のドイツ訛りの住人が虐げられている不穏な世相を映しだしたものといえる。
そして、終盤の地下下水道での捕物劇。モノクロだけに夜の底知れぬ深さと、影の濃さがサスペンス色を強くさせてくれる。

親友を慕いつづけるアンナの気持ちを汲んでハリーを逃がしてやるべきか、それとも悪びれもせずに多くの人命を奪ったハリーに引導を渡すために行動すべきか。悩んだ末にホリーが選んだ選択は苦しいもの。ラストの銀杏並木で彼がアンナにそっぽを向かれたシーンで、なんともいえない虚しさが訪れる。

映像のシャープさとは裏腹に、殺人シーンですらのどかなリズムが流れる音楽は、チター演奏家アントン・カラスが担当。「未来世紀ブラジル」と同様にミスマッチすぎるあまりにインパクトがある。

主演はジョゼフ・コットン。イングリッド・バーグマン主演の「ガス燈」でヒロインを救う若い探偵を好演。
アンナ役は、アリダ・ヴァリ。
そして謎の男ハリーを演じたのは、「市民ケーン」の主演・監督で知られる怪男優オーソン・ウェルズ。本作でも悪魔的な魅力を放ちつつ、どこか憎めないミステリアスさをまとって登場、後半では主人公を喰ってしまうほどのオーラが感じられる。

監督はキャロル・リード。本作でカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。
製作は「白昼の決闘」のデイヴィッド・O・セルズニックと、「ホフマン物語」のアレクサンダー・コルダ。
原作は英国の作家グラハム・グリーンの書き下ろし小説。

ちなみに赤木圭一郎が主演した「霧笛が俺を呼んでいる」という映画は、本作を観ていると開始から十分で展開がおおよそ読めてしまうので興ざめだった。

(2010年1月9日)

第三の男(1949) - goo 映画


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