陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「おとうと」(2010)

2012-09-12 | 映画──社会派・青春・恋愛
山田洋次監督の作品は、その昔「学校」を観て泣いてしまったことがあるのですが、今となってはいったいどんな部分で涙腺が脆くなったのか思い出せません。
2010年の映画「おとうと」は、監督の話題作ですが、どうしても主演の風来坊の弟が「男はつらいよ」シリーズの寅さんを思わせますね。

おとうと <通常版> [DVD]
おとうと> [DVD]SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D) 2010-08-04売り上げランキング : 5067Amazonで詳しく見る by G-Tools


夫を亡くして以来、下町の薬局を切り盛りしながら女手ひとつで娘を育て上げた吟子。彼女の一人娘である小春の結婚式に、音信不通だった弟がひょっこり帰ってきます。アル中の弟のせいで、式はめちゃくちゃになって。

役者志望だったのに落ちぶれて何かと金の無心にくる弟を演じる笑福亭鶴瓶は、落語家だけあってか、やはりこういう剽軽なキャラが似合いますね。とはいえ、親戚にいたら、ぜったいに嫌なタイプ。
迷惑を蒙ることが分かりきっているのに、弟を突き放せない堅実派の姉に扮する吉永小百合は、「母べぇ」でもそうであったように、典型的な日本女性の理想像。

だめでだめで仕方がない弟の人生を、最期を看取るというかたちで救い上げたのはよくあるパターンではあります。小日向文世や石田ゆり子のいる、身寄りのない末期患者をひきとるホスピスの存在について知らしめた点はよかったのだろうけれど、そこに蒼井優との新婚生活が暗礁に乗り上げるエリート医師の存在や、姉が薬剤師である意義が生かされていたのかどうかが疑問形。

弟が姪っ子に命名する際のいきさつにはほろりとさせられ、大工と娘との恋愛パートが清涼剤になってはいるけれども、全体的に筋書きが凡庸であり過ぎて、途中でなんどか飛ばし見してしまいました。姉がなぜそこまで弟を大切にするのか、幼い頃のエピソードなどの理由が描かれていれば、もっと引き込まれていたかもしれないですが。

こう言っちゃ悪いのですが、他人を振り回しているのに優しい姉や母親に抱きとめられたいという男性の願望が透けて見えるのですよね。寅さんだったらば、駄目男でも男気が感じられるのだけれども。それとも、これはこういうだらしない男性に悩まされている女性に送るエールなのでしょうか。

立場を変えて、まっとうな家庭と職業を持って暮らしている兄に押しかける身持ちの悪い妹だったらどうでしょう。ぜったい感動的には描かれず、あばずれ女の扱いにされて同情すら呼びそうもないですね。それが二十代前後の兄妹のお話だったらば、お兄ちゃん妹萌えアニメの格好の題材になるのですが。

幸田文の自伝的小説を市川崑監督が映像化した「おとうと」と方向性が似てるのですが、オマージュだったのでしょうか。

(2011年5月8日)

おとうと - goo 映画

Comments (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« こころの体温計 | TOP |  *・*・*・* 創 作 小 説... »
最新の画像もっと見る

2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (けん)
2012-09-13 09:50:06
TBさせていただきました。
またよろしくです♪
返信する
トラバありがとうございます。 (万葉樹)
2012-09-13 19:45:36
鶴瓶さん演じた弟は、小さな子どもにはモテそうですよね。

またお越しくださいね。
返信する

Recent Entries | 映画──社会派・青春・恋愛