陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「真夜中のピアニスト」

2011-09-29 | 映画──社会派・青春・恋愛
2005年のフランス映画「真夜中のピアニスト」(原題:De battre mon cœur s'est arrêté,英語版タイトルThe Beat That My Heart Skipped) は、若者がいちどは諦めかけたピアニストの夢に挑戦するお話。タイトルからロマンチックな内容を想起させるのですが、芸術ものというよりは、クライムムービーに近いです。

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28歳のトム・セールスは、同業の父親とともに不動産ブローカーで生計を立てています。その仕事ぶりは、賃料の払えない貧しい移民たちを力づくで追い出すなど悪質なもの。しかし、ピアニストであった亡き母の血をひいた彼には、かつて習っていたピアノへの想いがくすぶっていました。

ある日、母のマネージャーであった男と再会したトムは、オーディションの受験を勧められます。十年ぶりに鍵盤に触れた彼はプロの演奏家になる決意を固めます。

パリに留学中のベトナム人女性ミャオリンにレッスンを依頼します。
しかし、ブランクがある上、フランス語がろくに喋れないミャオリンとは意思疎通が図れないこともあり苦労します。しかも、本業のブローカー業の合間に時間をやりくりしながら。

…と、こう書くと世知辛い世の中を生き抜きながら夢に向かって邁進している希望ある若者のように思えますが、いまいち、この主人公に共感できません。企業勤めといったって、友人三人と興した会社で法外な金を動かしているわけだから、時間はいくらでも自由にできるわけですから。

薄汚れ多裏世界から足を洗おうとする気配は感じられない。浮気をしている同僚にそそのかされて、その妻と関係をもってしまうし。当然ながら、仕事もおそろかになってきます。そして不倫関係がこじれてくると、まじめに稽古をつけてくれるミャオリンにも当たり散らすわ、父親の契約金を踏み倒したやくざに囲われた女をたぶらかすわ。父親の一件は同情を引けなくもないですが、自分の行いが起こした結果なのでいかんともしがたく。

後半では、主人公はけっきょく、別のかたちで音楽に携わってるのですが、それがあまりに唐突すぎて、何を訴えたいのかわかりませんでした。ピアノの教師がアジア人である必然性もまったくないし。

ピアノという高尚な趣味ではなく、他の趣味だったらば、思い入れなんてないでしょう。道楽に入れこみすぎた若者を、皮肉たっぷりにとことん虐め抜いて描いているようにしか思えませんでした。
役者がピアノを弾いている演技が、音楽とまったく合っていないのも、やや気にかかるところ。とくにオーディションの時、鍵盤を見せないのは分かりますが、緊迫感がありません。


主演はロマン・デュリス。
監督はジャック・オーディアール。

2006年のセザール賞最優秀作品賞、2005年ベルリン映画祭銀熊賞(音楽賞)受賞作。なお、1978年のアメリカ映画「マッド・フィンガーズ」のリメイクだそうです。
バイオレンスとエロスさえあれば、感情の機微は細かく追わなくていいいのか、と鼻白んでしまいます。芸術で飯食ってる奴も、うさんくさい商売も元を正せばおなじと言いたかったのかもしれませんね。

主人公が父親や友人の課した汚い生業に激しく抗いながらも、ピアノの美しさに惹かれて浄化されていくといったような過程をもっと綿密につくりこんでいけばよかったのではと思うのですが。それがありきたりだから、しなかったのでしょう。
良作のピアノ映画に期待していたものをここに求めると、ひどくがっかりしてしまう一作です。

(2011年2月28日)

真夜中のピアニスト - goo 映画


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