陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

日本映画「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」

2017-05-12 | 社会派・人生映画
題名だけ知っていてなんとなく筋書きも予想できそうな名作ってありますよね。1973年作の日本映画「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」は、2010年にデジタルリマイスター版で復元されて劇場公開され、話題を呼びました。北海道を舞台にした、行きずりの若い男女と訳あり中年男性との道中を描いたロードームービー。

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失恋の痛手から逃避すべく、はるばる東京から北海道まで愛車でドライブ中の青年・花田欽也。帯広駅前でガールハントして拾ったのは、国鉄の売り子をしている小川朱美だった。朱美も彼氏に浮気されて傷心旅行の身の上。海岸に立ち寄った二人は、そこで寡黙な佇まいでいる中年男と知り合って…。

開始してまず驚いたことは、冒頭から主演の高倉健演ずる男が出てこないこと。ナンパな花田青年と、どこか陰気な娘の朱美とのふたりの珍道中なのかと思いきや、孤高の男・島勇作が乗りあわせてくることに。で、この三人の微妙な間柄がおもしろい。といっても、三角関係とかではないのですが。

欽也は朱美に惚れているのでなんとかアプローチするわけですが、勇作が紳士ぶりを発揮して女の貞操を救い、男たるものこうだと説教してみたり。朱美が車を暴走させて、とんでもない寄り道をしてしまったり。お調子者の欽也がヤクザに絡まれているのを勇作が救ったり。高倉健らしい侠気あふれるシーンの連続ですが、やがて、ハンドルを握った勇作が検問に引っかかったことで事態が急転。

なんと、勇作は殺人の前科がある出所者。しかも、離縁した妻があるといいます。ここで回想される勇作と、倍賞千恵子演ずる美しい妻・光枝との初々しい邂逅と新婚生活、そしてその破綻。青年の落ち度をくどくどと親父のように説いた、その男こそ人生の落伍者で身勝手な男でした。

勇作が明かすところによれば、夕張にあるかつての住まいに光枝がいるはず。もし、彼女が独り身を貫き六年の歳月を経て、待っていてくれたならば、外に黄色いハンカチが掲げられているに違いない。現場が近づくと不意に臆病になってしまう勇作の背中を押すのが、欽也と朱美のへっぽこコンビなのだから面白い。勇作がかつての家庭ある場に見出したのは、なんと、何重にも連なって風におおきくはためく黄色いハンカチでした。

若気の至りで過ちを犯し、無理矢理夫婦になったものの、幸せにはしてやれなかった後悔が、中年男を若い男女への訓戒へと走らせたのか。しかし、それとは逆に若者たちからも激励されて、いちどは別離を決意した元妻のもとへ進む男。高倉健の横になんで、こんなギャグめいたカップルを置くのかといぶかしがったのですが、後半になるにつれて、この二人の成長ぶりがいいんですよね。なぜ青年の視点から描きはじめたのか、意図がよくわかります。

仁侠映画で人気を博した高倉健にとっては、一般作で善良な人間を演じることになったターニングポイントの映画。しかも、このロードームービーという構図、彼の最晩年の出演作となった2012年の「あなたへ」と似ていますね。あちらは囚人ではなく刑務所所長、そして待っている妻がいなくて、安寧の地へと送るべき妻のよすがを携えたドライブ旅行。そこで出逢うひとびととの物語。

主演の高倉の脇を固める若い男女に、映画初出演ながら奇妙なおかしみある演技の武田鉄矢と桃井かおり。倍賞千恵子の健気さが光り、山田洋次監督の「寅さん」シリーズでおなじみの渥美清が、勇作にとっての理解ある警察官に。モブを除けば、ひじょうに少ないメンバーで構成された、単純な筋書きの映画ではありますが、涙を誘われますね。

男の人生の重さと女の哀しみを織り交ぜながら、好きな相手を幸せにできないからできることは相手にしがみつかないこと、という言うにいわれぬペーソス。女の限られた若さにとっては、たとえ数年でもひとりの男を待つのは厳しい。だからこそ、やり直しのきく若いうちに素敵な伴侶と廻り会ってほしいという制作者のメッセージを感じますね。

(2016年9月1日)




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