陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「禁じられた遊び」

2011-05-03 | 映画──社会派・青春・恋愛
子どものころは純粋だったのに、大きくなると心が汚れちまった、なんていうのは悲しい大人の常套句なのだが、果たして人間の本質はそれほど変わるものだろうか。大量虐殺をおこなったヒトラーにも、美しいものを愛する多感な幼少期があった。どのような凶悪な犯罪者も、子供から成長した。
社会が逼迫し、生活の苦しさ故に犯罪に手を染めてしまう事例はあるだろう。だが、犯罪者が子供だとしたら、社会から守られる。しかし、子供であろうと大人であろうと、人を困らせるのに長けているのは変わりがない。分別が求められるか、否かだけだ。

ルネ・クレマン監督の有名な「禁じられた遊び」(1952年作)は、「戦時中の子供の残酷な遊びを描くことで、戦争の恐怖を告発した」と謳われていただが、観終わってみると拍子抜けしてしまった。

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これは、じつはちょっと大人に叱られるようないたずらを、恋心からしでかした少年と少女の甘いロマンスに過ぎないのではなかろうか。
このふたりが直接、誰かを死に至らしめるようなことをしかけるわけでもない。ただ、あるものを盗みつづけ、それが死者を冒涜することを知らずにいるだけだ。信仰心に厚いが癇癪持ちの父親の怒りに触れ、かつかねてから犬猿の仲の隣人たちの喧嘩の種を増やしてしまう。ただ、それだけ。この程度のいたずらなら、やっているだろうなんて思ってしまうのは、昨今の少年犯罪の増加のせいだろうか。たとえば、平気で他人に死ねという言葉を送りつけても平然としているような小中学生に比べたら、ずいぶんとこの子たちの所業は緩いと思ってしまう。
しかし、こういう残酷さが自分の幼少期になかったかといえば嘘になる。どうしても嫌いな相手がいて、消えてくれればいいのにと呪ったことはないとはいいきれない。

ふたりの少年少女のしでかしたお遊びよりも、なお周囲の大人のほうが残酷に思える。
戦災孤児で農家にやっかいになった少女ポレットは、死のなんたるかをも知らない幸福な家庭で育ったのだろう。ポレットに首ったけのミシェル少年は、貧しい農家の末っ子だが、あまりいい扱いをうけていない。そして、彼のついた嘘が、父親が隣人の墓を荒らしてしまうという暴挙をうみだす。
最後に隠した十字架の在処とひきかえに、ポレットの在住をみとめるはずだったのに、約束やぶりでミシェルと引き離されてしまうポレット。この父親は酷い、そういえるだろうか。

本作は、1952年度ヴェネチア国際映画祭サンマルコ金獅子賞、アカデミー外国語映画賞、英国アカデミー最優秀作品賞受賞。
フランス映画の名作とされるが、どうもあまりピンとこない。とくになにかを訴えるわけでもなし。ただ、ラストで駅で置き去りにされたポレットのその後を想像すると、悲しさはこみ上げてはくるが。いいところといえば、冒頭に流れる哀切なギターの音色だろう。

これに限らず、主演が年端もみたない子役をつかっている映画はたいがい賞賛されるが、子役の熱演だけに引っ張られているような気がしないでもない。大人が凝ったように子供の声を演じているアニメの見すぎなのかもしれない(苦笑)

(〇八年八月二十日)

禁じられた遊び(1952) - goo 映画

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