陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「菊次郎の夏」

2010-03-11 | 映画──社会派・青春・恋愛
北野武監督がフランスの芸術文化勲章の最高章コマンドゥールを授与されるということで、その代表作1999年の映画「菊次郎の夏」のレヴューをお送りします。

この映画は、てっきり自分の父親の人生を自伝的に語った映画だと思っていましたが、主人公の中年男は架空の人物なんですね。といっても、自己投影像にすぎないような。
あいかわらず、ビートたけしは何を演じてもビートたけしにしかなれず、演技力のへったくれもないと感じます(失礼)
「座頭市」は農村舞台でのダンスパートは取り合わせの妙もあってたしかに圧巻なんですが、ああいうミュージカルパートは洋画でよく観たシーンでしたし。盲人役での殺陣は難しかったとは思いますが。

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父親がおらず、母親は出稼ぎ。祖母とふたり暮らしの正男は、夏休み、母親探しの旅に出る。
近所の親切なおばさんの旦那、菊次郎がついてくることに(連れていく、とあるが、男のほうがついて行くといったほうが正しい(笑))

しかし、この男、根っからの遊び人。渡された交通費は競輪ですってしまい、一文無しのふたりはヒッチハイクしたり、寄り道したりしながら、ようやっと正男の母のいる家に辿り着く。だが、そこで見たのは…。

筋書きとしてはそう大して珍しくもないのですが、ひとえにときたま斬新な表現と、ゲストキャラのアクの強い演技力に支えられている作品。わざわざ映画にしなくても、二時間ドラマでよかったという出来にしか思えません。

菊次郎本人の母親探しでもあるこの旅、そして菊次郎自体が少年との旅路を通じて父性を発揮させていくエピソードはなんとなく微笑ましい。
ですが、終盤の井手らっきょ、グレート義太夫とのおふざけシーンはあってもなくてもいいような。たけし軍団売り込みのためにつくったシーンとしか思えない。
そして、作品に芸術性を加味させるために、現代舞踊的な妖艶なダンスシーンを混ぜ込んだりしてますが、そこだけ妙に浮いています。
シリアスにつくりこむなら、ビートたけしがいつもやってるコントの延長戦でしかないお笑いパートを除いたほうがよかったのでは。

少年のひと夏の冒険を描いていますが、中年のおじさんの目線を感じてしまう。
ただ、この菊次郎氏、憎めないキャラクターではあります。こち亀の両さんに近いですね。

久石譲の音楽だけはさらりと耳に心地よいすばらしさ。
ほかの北野作品は暴力描写が多くて観たくはないですが、これはまだまともといえるかな。

しかし、欧米の文化人は、過剰なバイオレンスとエロスだとか、大人になれきれないどこか子どもじみたはみ出し者の中年とかが主役の映画が好きなんですかね。

北野武監督はとにかくフランスでは大人気で、ルーブルで絵画展も開いたほどなんですが、私はこの人はなによりコメディアンとして偉大な文化人だという認識しかないですね。
東国原宮崎県知事をけしかけたりとか、チベット問題で北京五輪の聖火ランナーに対する迫害を後押しする発言とか、不用意な発言が多い方でもあります。女性関係で悪い噂がなかったり、巨額の脱税をしたり、暴力団との癒着がないあたりは好感度が高いんですけど、正直、過去に暴力事件起こした身の上で芸術大学の教授におさまっているのはあまり解せませんね。アウトローな立場をとった文化人が、地位を餌に権力に巻かれたという印象がなきにしもあらず。小沢幹事長を褒めるような発言もしてましたし。
いつだったか忘れましたが、民放のドラマで東条英機を演じたときも、滑舌の悪い台詞回しと顔の痙攣のせいで、見られたものではありませんでした。
やっぱり人を泣かせるよりも、笑わせる方がうまい役者ではないでしょうかね。こういう毒舌家はどちらかというと、社会諷刺的な作風でつくりこんでほしいです。まちがっても政治家(最近の国会議員や首長は、知名度は高いがピークを過ぎた芸人・タレント・才能の枯渇した作家の再就職先としか思えない)に転身してほしくはない。

(〇九年九月三日)

菊次郎の夏(1999) - goo 映画

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