おはようございます、社会保険労務士の山田透です。
労働基準法第39条第5項では、「使用者は、(中略)有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と定めています。このただし書きの部分を年次有給休暇(以下「年休」という。)の「時季変更権」といいます。
今回はこの時季変更権の「事業の正常な運営を妨げる場合」について具体的にみていきます。
「事業の正常な運営を妨げられる場合」にあたるためには、当該労働者の年休を取る日の仕事がその所属する部・課などの業務運営にとって不可欠であり、かつ代わりの労働者を確保することが困難であることが必要とされています。日常的に業務が忙しいことや慢性的に人手不足であることだけでは「事業の正常な運営が妨げられる場合」にあたりません。
この場合の「事業」とは、事業場全体をさすのではなく、課・係など当該労働者の担当業務を含む一定の業務単位および密接に関連する業務組織を含めた範囲で検討します。
また、「代わりの労働者を確保することが困難」というのは、業務命令を出し代替要員を確保するのではなく、通常は個別に代替勤務の同意を求めたが確保できない程度とされています。
■朝の電話で年休の請求は
朝電話があり、いきなり年休の請求があった場合は認めなくてよいかという疑問があります。時季変更権を行使できるかという問題です。
使用者にとって、年休の申し入れが事業の正常な運営を妨げるものであるか考慮する時間的余裕が必要といえます。そのため、他の時季に変更したり代替要員を確保するなどの対応策を講じる時間的な余裕が無い場合は、申し入れを拒否しても差し支えないとされています。しかし、当日の申し入れは本人や家族などの突然の怪我や病気である場合が多く、具体的な事情を考慮して年休として扱うことは問題ありません。
【参考】此花電報電話局事件(S57.3.18最高裁一小判決)
■退職・解雇・事業場閉鎖時に残った年休と時季変更権
年休の権利は、労働関係の存続を前提としたものです。
したがって、退職や解雇、事業場の閉鎖の場合、その日(退職日、解雇効力発生日、閉鎖日)までに年休の権利行使をしない限り、残余の休暇の権利は当然に消滅します。
解雇予定日が20日後である労働者が20日の年休権を有しているとします。この場合、労働者がその年休取得を申し出たときは、「当該20日間の年休の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えない。」(S49.1.11基収第5554号)という通達に基づき、時季変更権は行使できません。
この考え方は、労働者の退職や事業所の閉鎖の場合でも同様で、退職予定日や閉鎖日をこえて時季変更権は行使し得ないこととされます。
このように、年休の時季変更権は簡単には行使できないと考えた方がいいでしょう。請求された有給休暇の変更は難しいですから、話し合いをできる環境を常日頃からつくっていきたいものです。「仕事が一段落してから」とか、「他の部署と調整してから」など、話し合いで解決できれば問題はありません。強制的にならないようにしてください。
著作権:山田 透
労働基準法第39条第5項では、「使用者は、(中略)有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と定めています。このただし書きの部分を年次有給休暇(以下「年休」という。)の「時季変更権」といいます。
今回はこの時季変更権の「事業の正常な運営を妨げる場合」について具体的にみていきます。
「事業の正常な運営を妨げられる場合」にあたるためには、当該労働者の年休を取る日の仕事がその所属する部・課などの業務運営にとって不可欠であり、かつ代わりの労働者を確保することが困難であることが必要とされています。日常的に業務が忙しいことや慢性的に人手不足であることだけでは「事業の正常な運営が妨げられる場合」にあたりません。
この場合の「事業」とは、事業場全体をさすのではなく、課・係など当該労働者の担当業務を含む一定の業務単位および密接に関連する業務組織を含めた範囲で検討します。
また、「代わりの労働者を確保することが困難」というのは、業務命令を出し代替要員を確保するのではなく、通常は個別に代替勤務の同意を求めたが確保できない程度とされています。
■朝の電話で年休の請求は
朝電話があり、いきなり年休の請求があった場合は認めなくてよいかという疑問があります。時季変更権を行使できるかという問題です。
使用者にとって、年休の申し入れが事業の正常な運営を妨げるものであるか考慮する時間的余裕が必要といえます。そのため、他の時季に変更したり代替要員を確保するなどの対応策を講じる時間的な余裕が無い場合は、申し入れを拒否しても差し支えないとされています。しかし、当日の申し入れは本人や家族などの突然の怪我や病気である場合が多く、具体的な事情を考慮して年休として扱うことは問題ありません。
【参考】此花電報電話局事件(S57.3.18最高裁一小判決)
■退職・解雇・事業場閉鎖時に残った年休と時季変更権
年休の権利は、労働関係の存続を前提としたものです。
したがって、退職や解雇、事業場の閉鎖の場合、その日(退職日、解雇効力発生日、閉鎖日)までに年休の権利行使をしない限り、残余の休暇の権利は当然に消滅します。
解雇予定日が20日後である労働者が20日の年休権を有しているとします。この場合、労働者がその年休取得を申し出たときは、「当該20日間の年休の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えない。」(S49.1.11基収第5554号)という通達に基づき、時季変更権は行使できません。
この考え方は、労働者の退職や事業所の閉鎖の場合でも同様で、退職予定日や閉鎖日をこえて時季変更権は行使し得ないこととされます。
このように、年休の時季変更権は簡単には行使できないと考えた方がいいでしょう。請求された有給休暇の変更は難しいですから、話し合いをできる環境を常日頃からつくっていきたいものです。「仕事が一段落してから」とか、「他の部署と調整してから」など、話し合いで解決できれば問題はありません。強制的にならないようにしてください。
著作権:山田 透