第四部 Generalist in ミシガン大学編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、Harvard MHQSを経て 現在ミシガンで奮闘中

研修医の教育で感じること。批評家であってはならず、実践者へ〜松江生協病院でウラ診断学のお話〜

2019-01-18 23:26:03 | 総合診療

みなさまこんにちわ。

島根からドッカン、発射を準備中です。最近は夜21時に大学に戻ってきては24時過ぎまで集中して作業をこなして

帰るという生活をしております。単に、GCSRTの勉強と大学の仕事だけしていればそんなに大変ではないはずなのですが、毎週のように県外での講演やレクチャー、研究費の申請などなど大学教員の仕事もなかなか大変で楽しくやりがいを持って過ごしております。それもこれも破天荒な自分のような人間を伸ばしてくださるボスのおかげなんですね。やはり、与えられた環境とチャンスで結果をしっかりと残していくことが社会人としてはとても大事かと思います(なので環境や人のせいにばかりして何事も他人に責任を押し付けている人をみるととても心が痛い)。

 

さて、今日は松江生協病院の指導医講習会でウラ診断学のお話をしました。

それは、まあ診断エラーの話はいつものことなのでいいとして、松江生協病院のとってもよかった点として、

今年フルマッチで4月からこれまでになく研修医の数が増えるので、その研修医が困っていたりすれば、いつでも話しかけやすいように有志職員(多分100人くらい?)に胸に研修医サポートメンバーのバッチをつけてもらうというのです。まさに病院全体で暖かく研修医を見守りながら育てて行こうという雰囲気に満ちた決起集会に参加させていただきました。いいですねこういうのは、ホント。素晴らしいです!

いや、学生さんもこう言うことを見えないところでしっかりとやっている病院のアットホームな雰囲気などはきっと五感で感じるはずなので、来年以降もこの人気は続くと確信します。

我々国立大学はとかく、学生も、研修医も多いので、本当に一人一人の研修医の需要に我々スタッフや教員が答えようとしているのか?それを考えなければいけないなぁと内省しました。

 

さて、今日は松江でお話でしたが、明日は大阪市大医学部で「研修医に対する効果的な講義と勉強会」と言う内容でお話してきます。新ネタですが、KJ法を用いてまとめてみました。ほんの一部だけこちらに、チラ見せ。

ちなみにこのマンガは自分が監修している総合内科医 十朱先生などのホワイトプレイヤーが活躍する「少女漫画風のイケイケな感じなのでよろしくお願いします。

 

 

医学教育の理論などの学会などでは頭の悪い僕にはわからないような特にむずかしい言葉を使って議論していますが(本当に難しくて高度な内容なんです)、多分僕の直感的には、教育の現場で最も必要なことは【批評家であってはならず、実践者になるべし!】

何事もまず挑戦的に行動して試してみると言う気概が特に大学の教育では必要だと感じています。いや日本全体の構造なのかしらん。

その意味で、この松江生協病院の指導医の先生たちの思いやりや愛情はまさに実践者です。理論も大事なのかもしれませんが、親が良い教育を我が子に施したいという思いきっと同じで、実践が大事なのかと。また想像以上に、大学医学部上層部の忙しい先生たちは中堅教員の意見やエネルギーに富んだ行動力を求めていると感じてきました。

全国の若手教員のみなさま、やるべきことはまず行動(たとえ、前例がない、うまく行かないだろう、などで潰されても)。それが以外とうまく良い結果に結びついていくのではないかと思います。そして、それが一番大事です。

 

 

 

この内容は、とかく我々は自分の知っている全てを教えたがりますし、自分が重要だと思うことは全部伝えたいと思うものですよね。しかしながら、それが

必ずしも研修医が求めているものではないと言うことを指導医は意識しないと行けないのかもしれません。

教えること≠研修医が理解して実践することではないので、研修医の個々のレベルに合わせて指導医は階段をおりて行かねばなりません。

 

 

ブレインストーミングをして、自分が最終目標にしているのだなぁ〜と気づいたことには

第一公式が世の常であり、通常遭遇する研修医教育の現場ですが、自分の目標は常に第三公式を可能な限り目指すと言うこと。

それができれば、きっと効率が良い教育と言うことになるのではないかとまとめてみました。

 

明日、大阪でお話です。好きな街、ミナミで心の友 坂本壮先生と飲みに行こうかしら。

 

 

 

 

 

 


医者こそ、もっと寝せなさい。【人の命を預かる責任重大な】パイロットはたっぷり寝てます。

2019-01-03 21:21:42 | 診断エラー学

こんにちわ

さすらいのホワイトプレーヤー です(嘘)。

年末年始・・基本はこれまで他の病院・医師が休むからこそのジェネラリストの出番のごとく働き詰めでやってまいりました。

インフルエンザ診療、感染症が好きな先生ほど、本当に辟易しているのではないでしょうか?

自分は寝ていないとあまりにも不機嫌になり、判断に影響が出やすいことを、救急を断らずに受け続ける戦国無双の修行期間に48時間連続ERなどをやっていて、本当に苦い思いばかりをしました。驕りではなく、8時間勤務だったら絶対にしないような判断ミスもいっぱいしてきたと思います。

当時のヤサ男の考え

頑張って勤務して欲しいという需要に精一杯答えることがカッコいい≠患者さんにとって良いこと

であることを知りました。当時はさらに正義感に燃えていたのですね。

若さゆえの過ちというやつですね。 

さて、今回は診断エラーの観点からの小話を、、

パイロットの知り合いはそれはそれは厳しい厳しい睡眠と健康管理が義務付けられているそうです。

彼曰く、それはなんでも【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】であるからだそうで、当たり前の義務であり権利であると。

確かに飛行機に乗ることが多い自分としてもいつもあの強風と雪の出雲縁結び空港に着陸させてくださり大変感謝しております!!

そこで、気づきました。

 

【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】って・・・

僕らじゃん!! 診断の付いていないド緊急の業務や処置をすることが多い、マジ僕らじゃん。直結しまくってるじゃん!

そこで思う訳です。寝てないことと診断エラーはどうだろうと。

2018年にLancetからオモローな【際どい】論文が出ました。1)

 

34時間以上の連続勤務をしている医師は休みをちゃんととっている医師より460%も診断エラーが多い!!

 

また前日の睡眠時間が6時間に満たない外科医はよく休養をとった外科医の170%もSurgical damageを与える可能性が高いそうです。

 

正気ですか?まじですか!?ここまで多いのですか!!

でも、自分のこれまでの反省や経験とすごく一致する・・・確かにそうかもしれません。

 

2005年当時はまだ医師が患者に与える有害性のことなどの研究ができていなかった時(文化があまりなかった時)に、NEJMから当直と研修医の交通事故の研究が出ていました。患者さんへの有害性は研究できないけど、医師の車の交通事故は研究できますもんね。また医師だって車の運転をするパイロットになる時もありますので、パイロットさんも36時間勤務とか連続勤務したらどうなるかという論文は探せませんでした(飛行機と車一緒にするなと怒られそう)。

これから見てもわかるようにExtended Work shiftの医師は車の衝突事故がOdds 比2.3も高く、ヒヤリハットの事故直前がOdds 比5.9も高くなります。

比較的複雑な思考過程を要しない車の運転ですら、明らかに当直明けはデンジャーな訳でありまして、これが認知バイアスや感情や疲労がもろに影響を受ける臨床と診断であればなおさらなかと感じます。そう、睡眠と診断エラーは必ず直結してます。経験的に、感覚的に、数値的に。

パイロットさんの飲酒や睡眠も大事ですが、本来寝ていない疲弊しまくっている臨床医をたっぷり寝かせる事がより命に直結していると思います。

働き方改革が医療者にとって、国民の皆様にとってどのような展開を見せるか。新しい時代が楽しみでなりません!!

 

こんな内容は、Dr's マガジンの「しまねからこんにちわ」の題材に持ってつけかなと思っています。乞うご期待。

 

1) A sleep prescription for medicine, Lancet. June 8, 2018 http://dx.doi.org/10.1016/ S0140-6736(18)31316-3

2) Extended work shifts and the risk of motor vehicle crashes among interns. N Engl J Med 2005; 352: 125–34


あけましておめでとうございます。Dr's マガジン しまねからこんにちわ 連載をはじめました

2019-01-01 13:53:24 | 総合診療

 みなさまこんにちわ

 

あけましておめでとうございます。

昨年は色々と激流の中ただもがいて終わってしまった様に感じますが、それでも一歩ずつ一歩ずつ目標に向かって進んでいるので良しとします。

今年は、かなり変化がある年になるのは間違いないので(乞うご期待)、今ある環境と助けてくださる周囲の人に感謝して、自分らしくジリジリと

前進して行きたいと思います。

 

さて、島根大学の教員として島根県エナジー爆発運動の一環として発行部数6?8?万のドクターズマガジンに連載をすることにしました。

タイトルは「しまねからこんにちわ」です。偉い敏腕編集者の杉浦さんとお話してこれだけは譲れません!!とお願いしました

 

下記よろしければお読みください。

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みなさま、初めまして。憧れに憧れた!?地方国立大学医学部教員として、ココしまねから医師にとって「ちょっとだけ為になる」何らかのtipsを毎回ご提供させて頂くことになりました。なんで、しまね?(島根)というかと言いますと、「鳥根」(漢字識別能力高い人のみ理解可能)と言われたり、「砂丘がある方だっけ?」皮肉を言われたり、手のひらに爪が突き刺さる程の悔しい思いを(中島みゆき風)してきましたので、どうせだったら島根をタイトルにして日本の最先端(高齢化社会で高齢者すら減少しだした)島根県を盛り上げていこうという魂胆です。この場を借りて関係者皆様、読者の皆様に感謝です!

 

前述した通り、私は憧れに憧れた!?大学教員になるため縁もゆかりもない島根にきてもうすぐ3年です。時にはスマホで熱心に何かを調べながら、時には流行りの集団瞑想をしているとても好意的な態度の医学生さん達と日々対峙しながら、どうすれば古典的医学部教員達とニュータイプであるいわゆる「ゆとり世代」の医学生との狭間で、双方にとって効果的かつ効率的な医学教育が提供できるか?日々苦悶苦闘しております。

 

そうそう日々苦闘しているといえば、研究の方もありまして、私が行っている研究テーマは医師の診断エラー学です。診断エラー!?って聞きなれない言葉ですね。以前より日本で使われてきた誤診という一般的な言葉では説明できない広範囲の定義が作成されつつあります。現在、医学的には診断エラーは「診断の遅れDelay診断の誤りWrong診断の見逃しMiss」であるとするものが主でありましたが1)、2018年国際学会DEM*でもあったように、発展途上国のUnder diagnosis(検査することができない環境)や先進国諸国でのOverdiagnosis(検査をしすぎてその解釈の問題)すらも含まれている概念になっていくかもしれません。

 

この分野の研究はどんどんと進んでおり、米国での調査では驚くべきことに、重症患者が次々と来院する救急の現場では初診時に最大10%ほどの診断エラーが起きている可能性や、限られた医療資源と複雑な情報や幅広い症状から診断を絞りこむ必要があるプライマリケア領域では最大15%程度に診断エラーに遭遇している可能性が指摘されています。また上記の定義から結果的に年間4万~12万人(米国内のみ)が診断エラーによって死亡していると見積もられました2)。愛すべきわが国の医療水準が米国よりも高いレベルであったと自画自賛しても、日本で診断エラーを原因として亡くなられている方は年間で少なくて1万人以上おられるかもしれないと推測しています。さらには、医療経済学的な側面からも日本の診断エラー研究の今後は興味深いですね。

 

「なんだこいつは同じ医師のくせに、危ない奴だ!けしからん!」、「ゲゲッ、ドキっ!」と頻拍になられた先生方、安心してください。決してこの内容をネガティブに捉えられる必要はありません。これまで本邦ではアンタッチャブルな領域として研究テーマにされてこなかっただけなのですが、2018年現在すでに世界中で確立された学問としてますます盛んになっております。そう、診断エラー学は毎日のように臨床医が必ず遭遇する診断エラーを我々はどのように対策し乗り越えて行くかという極めてポジティブかつ壮大な研究テーマなのであります。

 

自分を例にあげると卒後10年目位までは、いかに効率よく、最短で診断するか?ということを目指して実践してきたように感じます。しかし、これはいわば臨床医が行っている診断プロセスの光が当たるカッコイイ表側に興味を持っていたにすぎません。丁寧な病歴聴取とレーザービームのような身体所見の技を繰り出して診断をして行くことこそが全てのように鼻息荒く信じておりました。

臨床家としてベテランの先生方になればなるほど、辛酸をなめた経験も数多くお持ちであると思います。そしてこれは、診断のウラ側になります。これまでそれらを声を大にして自らがアピールし、省察する場も無かったと思いますが、実は我々臨床家にとってこの辛酸こそが臨床力を上げる絶好の糧となりえます。自らの診療を振り返り、学び、明日からの成長につなげるという過程がこの診断エラー学のポジティブかつ重要な考え方になるのですね。これだけ医師の日常に直結した表裏一体の重要なテーマではありますが、比較的自由な、しまね大学を除いて正式に授業で教えているところはあまり無いかもしれません。孫子の兵法書にある「敵を知り、己をしれば百戦危うからず。」の言葉通り、そろそろ敵(表側の診断学)だけでなく、己(裏側の診断エラー学)についても教えるべき時なのではないのかなと、そんな事を夢描いております。 

 

■参考文献

1) Graber ML, Franklin N, Gordon R. Diagnostic Error in Internal Medicine. Arch Intern Med. 2005;165(13):1493–1499. doi:10.1001/archinte.165.13.1493

 

2) National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. 2015. Improving Diagnosis in Health Care. Washington, DC: The National Academies Press.

 

*Diagnostic Error in Medicine (診断エラーの国際学会の略です:https://www.improvediagnosis.org/page/Diagnosis)