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一つの中国は政治的フィクションと見るトランプ次期大統領

2017年01月15日 | 政治
米国大統領選挙で大方の予想を覆して勝利したトランプ次期大統領は、蔡英文台湾総統からの祝電に応えて、昨年12月に蔡英文総統を国家のトップの呼称である president と呼んで謝意を表しました。

一つの中国を主張する中国は、台湾を国家と認めておらず、米国も台湾を国家として認めないことにしてきたので、トランプ次期大統領の president 発言に中国が懸念を表明すると、トランプ次期大統領はテレビのインタービュで「中国と取引して合意しない限り、どうして一つの中国政策に縛られなければならないのか分からない」と答えました。

更に、今年1月ウオール・ストリート・ジャーナルのインタビューで中国との交渉において「一つの中国」を含むすべてが対象だと答えて台湾問題を取引材料に使うつもりだと言いました。中国が核心的利益というものでも、今までのように絶対視せず、柔軟に交渉を進める態度を闡明にしました。

トランプ次期大統領が長年米中間で守られてきた一つの中国政策を取引して合意したものでないと明言したことは、中国が最重要課題としてきた台湾問題で、米中は政治的対決を迫られることになります。

トランプ次期大統領が疑問視した「一つの中国政策」とは、米中が国交回復するに先立って、1972年にニクソン大統領が訪中した際に、キッシンジャーと周恩来の間でまとめられた上海コミュニケの中で米国から中国に対して述べた次の事柄です。

1.中華人民共和国を唯一正当の政府として認め台湾の地位は未定であることは今後表明しない。
2.台湾独立を支持しない。
3.日本が台湾へ進出することがないようにする。
4.台湾問題を平和的に解決して台湾の大陸への武力奪還を支持しない。
5.中華人民共和国との関係正常化を求める。
(上海コミュニケの部分は Wikipediaより)

他方、この米中協議では、台湾に駐留する米軍は最終的には全面撤退することを目標としましたが、米台防衛条約は維持することになりました。(そして米中国交正常化の際には米国議会が台湾関係法を成立させて台湾防衛を続けています。)

要するに、米中の国交正常化では、矛盾した米中双方の主張を認めたまま、大陸・台湾関係の現状を変更しないという合意が成立したのであって、少なくとも米国は台湾を中国に吸収合併することを認めるつもりはないのです。

米中両国が一つの中国を合意してから半世紀弱の時代が経ってみると、その間に台湾は大陸中国とは別個の組織体として成長発展を遂げています。政治体制は独裁体制の大陸中国とは全く違う民主主義であり、経済も自由市場主義です。名称はどうあれ、今や台湾は中国大陸とは別個の存在として国際的に認知されるのは当然となりました。国際政治の経緯に囚われない実業家のトランプ次期大統領には、一つの中国は実体ではなく政治的フィクションにしか見えないのです。

政治的フィクションが見える人々は、それが見えないトランプ次期大統領を政治的音痴と批判しますが、今回の大統領選挙戦でポリティカル・コレクトネスという建前を否定して本音で戦ったトランプ次期大統領に見えるのは、「一つの中国大陸と一つの台湾島」なのであり、これを一つの中国と言う人達は、変化した現実を見ていないのだと言うのです。

政治の世界では、フィクションが現実により置き換えられることは今まで屡々起きてきました。トランプ次期大統領の発言は、その切っ掛けになるかも知れません。とすると政治的音痴はフィクションを信じた人達かも知れません。
(以上)
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