世相の潮目  潮 観人

世相はうつろい易く、その底流は見極めにくい。世相の潮目を見つけて、その底流を発見したい。

アメリカのアジア重視は本物か

2014年03月23日 | 現代
最近米国が発表した4年ごとの国防戦略見直し(QDR 2014)では、国防予算の削減にも拘わらず、アジア重視で2020年までに艦船の60%を太平洋へ充てると述べています。

オバマ政権は、米軍の中東地域からの撤退とともに、ピボット、リバランスと言う言葉で、軍事力の配置換えを謳っていましたから、それが計画という形で示されたことになります。

しかし、軍事力の地理的配置換えは行っても、それを行使する意志についてはオバマ政権は、よく言えば慎重であり、悪く言えば臆病です。その原因はアメリカ国民が血を流すことを嫌い、アメリカ議会も国民の意向を受けて国外での戦争に慎重だからです。

シリアのアサド政権を懲罰する軍事介入には、英国議会が否決してキャメロン首相がいち早く反対し、オバマ大統領は議会に決定権を丸投げしている間にシリアを支持するプーチン大統領に主導権をにぎられました。

そこへウクライナ問題が発生しました。プーチンによるクリミアのロシアへの編入は、明らかに国連憲章違反であるにも拘わらず、欧米諸国は反対を唱えて経済制裁を示唆するだけで、軍事介入はできない状況です。

プーチン大統領は、欧米が「軍事介入の権利を留保する」ということすら言えない状況を見越して、クリミアを手中に収めました。こうしてアメリカが世界の警察官を辞めたことが明になった以上、軍事的にはアメリカのアジア重視には疑問が残るのです。

皮肉な言い方をすれば、アメリカのアジア重視はむしろ経済面にあります。特にアメリカ経済は中国経済との相互依存関係が深くなり、その維持拡大を図るために中国との軍事的対立は避けたいという意向が強いのです。

勿論、アメリカが貿易、金融面での中国からの経済的利益を重視するといっても、領土、領海に拘わる安全保障についてまで中国に譲歩することはないでしょうが、アメリカのアジア重視は、あくまでもアメリカの国益から判断されたものになります。

国防予算の削減が予想されるアメリカは、アジア重視と言いながら、実は軍事面で日本への依存を考えているのでしょう。中国から領土、領海への脅威を感じる日本は、そのアメリカの期待にどう応えるか、腹を固める時期にきています。
(以上)
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南シナ海の支配権は経済的にも軍事的にも中國に決定的に重要

2014年03月08日 | 政治

 南シナ海の支配権を独占して中國の内海(うちうみ)にすることに中国は強い欲望を持っています。それは経済的にも軍事的にも南シナ海の支配が中國の存立に欠かせない存在だからです。

 中国が南シナ海を経済的に重視する理由は、南シナ海に海底資源が多くあるので分かりますが、それ以上に重要なのは、南シナ海がアフリカ、中近東との海上航路の要衝だからです。南シナ海はマラッカ海峡を経てインド洋への商業航路の一部であり、改革開放で海外依存を高めた中国経済を維持する生命線の一部だからです。人体に譬えるならば南シナ海は西太平洋とインド洋を繋ぐ「喉」に当たります。ロバート・D・カプランは、その著書「南シナ海 中国海洋覇権の野望」でその点を明快に説いています。

 中国が人民公社農業の時代に留まっていれば海上航路の確保など必要としなかったでしょうが、世界の工場となって世界経済に組み込まれた以上、13億の国民を飢えさせないためには中国にとって海外貿易は不可欠となり、海上航路の確保も不可欠となったのです。

 次に中国が南シナ海を軍事的に重視する理由ですが、中國が米国と対等に対決するには大陸間弾道ミサイル搭載の潜水艦の保有が不可欠です。そしてその潜水艦は戦闘態勢で何時でも出動出来るように海中深く遊泳させておく海域が必要です。東シナ海は浅い海域なので潜水艦の動きは空から容易に把握されてしまいますから、中國海軍にとって水深の深い南シナ海を支配下に置くことが必要なのです。

 現在、中國は戦略弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦(SSBN)を保有しています。この潜水艦には射程距離7200キロの核弾道ミサイルを搭載していますから、南シナ海を中國が支配することは米国にとって深刻な脅威になります。そのことは米国の核の傘が有効で無くなることを意味するので、同時に日本にとっても重大な脅威になるのです。
(以上)
写真:横須賀海軍基地に停泊するアメリカ第7艦隊

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中国の海洋進出の意図

2014年03月01日 | Weblog
中国は米国に対して東アジアと太平洋の西半分の覇権を割譲するよう求めていますが、その背景には何があるのでしょうか?

古来、中国はアジアで覇を唱えてきましたが、海洋への進出は限られていました。それは内陸の背後から常に異民族の圧迫を受けていたこと、および自給自足経済であったため海外との貿易を必要としなかったためでした。

第2次大戦後、中国は清王朝時代の版図を確保しました。ソ連崩壊により北からの軍事的圧力は消えました。今や内陸の背後からの圧力は無くなりましたが、その代わり、今まで存在しなかった深刻な問題が発生しました。それは経済の改革開放を推進した結果、中国経済は自給自足が出来なくなったことです。

毛沢東の自力更生からトウ小平の改革開放へ方針を変更したことで、大陸中国は海外に依存しなければ生きていけなことを初めて経験したのです。そして海洋航路の確保が死活問題であることに気付いたのです。そして更に気付いたのです。第2次大戦後はアジア太平洋はアメリカの覇権下にあると。そして東シナ海も南シナ海もアメリカの覇権下にあると。

アメリカの覇権下と言っても公海は航行自由の原則が支配する海ですから、アメリカが軍事的に支配可能だからと言って、平時には航海に何ら制約は無く、少しも心配することはないのです。しかし、大陸国家の中国は海洋国家としての経験が浅いので、要らぬ不安を抱えて大陸国家の論理を海洋にも押し通そうとしています。

振り返って見ると、近世において似たような戦いがシナ海で行われていました。それは欧州列強による中国侵略戦争でして、清国は中華思想の朝貢秩序を主張したのに対して、欧州列強が近代国際法の公法秩序を主張した戦いでした。ですから中国の大陸国家の論理とは、中華思想の現代版なのです。

南シナ海でベトナム、フィリッピンとの間で進行中の島嶼争奪戦は、資源の確保もありますが、実質的には中国が海洋航路の独占的支配を狙ったものです。大陸国の論理で臨む中国の海洋支配の方針は、第1列島線、第2列島線の主張になって現れています。

第1列島線は、シナ海の内海化を意図したものです。第1次列島線の完成には台湾を支配下に置くことが不可欠です。中国が台湾を手中に収めた時にシナ海の内海化は完成しますが、その真の狙いは対米戦争に際して核戦争での相互確証破壊の実行力を確保するためなのです。

中国は既に米国に到達する核兵器(核弾頭付き大陸間弾道弾)を所有していますが、米国から核攻撃を受けた後でも反撃できる核兵器をシナ海の潜水艦に搭載して温存したいのです。こうして初めて冷戦時のソ連が米国と対等に渡り合えた軍事的立場と同じになると中国は考えています。

台湾を支配下に置いた中国は、次は第2列島線の完成に向かうでしょう。その意味で、台湾の帰属問題は米中の太平洋支配権を左右する最重要課題です。

既に中国の潜水艦は太平洋を遊弋していますが、中国が第2列島線を確保すれば、日本の存続にも影響する深刻な事態になります。そのことは太平洋戦争でアメリカの潜水艦に太平洋の制海権を奪われた日本が、手も足も出なくなったことで想像すればよいのです。
(以上)


註:
第一列島線は、九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるラインを指す。
第二列島線は、伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインを指す。 
 
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