世相の潮目  潮 観人

世相はうつろい易く、その底流は見極めにくい。世相の潮目を見つけて、その底流を発見したい。

TPP を小手先で対処してはならない

2013年02月22日 | 政治
日本が長らく参加するか否か逡巡してきた TPP 交渉問題もいよいよ最終段階に入りました。その意味するところは極めて明瞭なことですが、この段階で TPP に参加して交渉で良い条件を勝ちとるのが良いか、TPP には参加しないで後でTPP 参加国と各国別に条件を交渉して良い条件を勝ちとるのが良いかを決断することです。この機会を逃して後で団結し終わった TPP と交渉するのは最悪の選択になります。

振り返れば戦後の日本は、GATT という出来上がった自由化貿易体制に入れて貰い、その後はOECD という出来上がった先進国グループに入れて貰い、世界経済の一員になりました。その結果は、戦後の短期間に戦前では考えられない世界第二位の経済大国になれたのです。

GATT に入るときも貿易の自由化で日本の産業は厳しい国際競争に曝されて敗退する企業もありましたが、却って力強く成長する企業もありました。OECD に入るときも資本の自由化で厳しい外資の資本参入の圧力を受けましたが、やがて多くの日本企業は国際的企業に成長していきました。

貿易の自由化、資本の自由化のいずれの場合でも、当時は国内では激しい反対運動が起きましたが、それを乗り越えて現在の日本経済の繁栄があるのです。

GATT と OECD に共通した根本テーマは自由化でした。TPP も対象と態様に違いはあっても根本テーマは自由化です。この自由化では、いずれも国内に部分的には痛みを与えながらも、全体の国力増進に貢献したのです。

TPP は貿易だけに限らず広く経済社会の自由化を目指しています。国際的な自由化とは、それを通しての国内の自由化でもあります。国内の自由化とは国内の諸規制の緩和です。規制緩和はアベノミクスの三本の矢の一本です。その意味でも、TPP は日本経済が今求めていることに合致しています。

そうは言っても、自由化は一般的に言って先行者が有利ですから、そして自由化では常にアメリカが世界の先行者ですから、アメリカに有利になると判っている TPP に賛成できないと、TPP 反対者は言います。

しかし、先にも述べたように、GATT でも OECD でも既存のメンバー国は自由化の先行国ですから、彼らにとって日本の参加はより有利だと考えていました。日本側でも国際的組織に参加することが果たして好ましいか疑問視する意見もありました。しかし、参加して蓋を開けてみたら、逆に日本経済に好影響をもたらしたのです。

PTT に参加する前から交渉分野、交渉項目を推定して、その損得を小手先で議論するのは、もうやめようではありませんか。広い視野から国力増進に必要なものは何か長期的に考えましょう。

ご参考までに申しますと、ASEAN(東アジア経済統合)が今日まで進展してきたプロセスを見ると、参加各国が社会制度、政治制度、慣習と価値観などを柔軟に調整しながら進めてきたのです。ASEAN のすべての加盟国は、未だ TPP に参加していませんが、そのような交渉を経て、いずれ全ての国は参加するでしょう。

従って、日本は積極的に交渉に参加して、TPP は 成功例の ASEAN 方式に倣って交渉すべきだと提案したら良いのです。即ち「参加国の社会制度、政治制度、慣習と価値観などが多様であるので、TPP の交渉の中心課題は、これらの相違点を話し合いの中で縮める共同作業であると心得て、嘗ての日米構造協議のときのように、いきなり特定の数値を持ち出して YES OR NO の結論を要求するのは控え、時間を掛けて議論しよう」と。
(以上) 
 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

習近平が軍との関係改善に全力を注ぐ理由

2013年02月17日 | 現代
近代国家では軍は国家の所有物ですが、中国軍は共産党の所有物であり、国家の軍ではないのです。そうであれば中国共産党が軍を完全に掌握しているかと言うと、中国では党が軍を統治する法的根拠はなく、党の幹部の実力で軍をコントロールしてきたのだと、中国系日本人の評論家、石 平(せき へい)氏は述べています。

トウ小平は、毛沢東時代に軍の要職(総参謀長)を務めていたこともあり、彼の実力で軍をコントロールしていましたが、江沢民時代になると勲章や給料で軍人を優遇して軍の歓心を買うことによりコントロールしようとし、胡錦濤時代になると軍に企業経営を認めることなどして、軍を党に従わせる努力をしていた、とのことです。

党が軍をコントロールすることには毛沢東自身も腐心していた位ですから、トウ小平に指名されて党首となった江沢民と胡錦濤では、トウ小平の後ろ盾がなければ、軍を実質的にコントロールすることは難しかったのでしょう。

それに対して、党中央軍事委員会主席に就任した習近平は、積極的に軍の各機関に出向いて士気を鼓舞していますが、これは従来の党指導者とは違う行動です。軍への影響力を発揮するのに、従来の歓心を買う方針から、軍が本来求める軍事行動の強化の方針へ変更したと見られます。

習近平のこの方針変更には、二つの背景があると考えます。

一つは、軍がトウ小平が始めた改革開放に批判的になっていることです。富める者から先に富めというトウ小平の先富論が現在の格差と汚職を産み失敗だったと軍は見ているのです。習近平自身も、このままでは政権維持は難しいと懸念して、軍の支持をテコにして政権基盤の強化を図ろうとしています。近年、習近平の発言に微妙な変化が現れています。それは「発展」よりも「主権」を強調していることです。

もう一つは、軍は潤沢な資金を得て軍隊の近代化を進めてきましたが、ヴェトナム戦争以降、実戦の経験がありません。軍事予算に匹敵する予算を持つと言われる武装警察は、国内治安で大活躍しているのに、軍は力を振う所がないと言うのです。習近平が軍の各機関に出向いて士気を鼓舞している意図には、軍の本来的要求に応えようとの思惑があるのです。「主権」を強調して見せているのも、その延長線上にあります。

しかし、党が軍をコントロールするのに軍の士気を鼓舞するのは、矛盾を含む極めて危険な方向です。その結果の一端が、尖閣の領海、領空への侵犯であり、火気管制レーダーの放射に現れたとすれば、習近平の党主席就任前にも事態はかなり深刻になっていると見なければなりまえん。
(以上)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国が尖閣を欲しがる理由

2013年02月11日 | 政治
中国が尖閣の領有権を主張し始めたのは近海に海底資源があると国連が報告した後であり、資源欲しさに尖閣の領有権を主張していると、日本人は観ていますが、果たしてそれだけでしょうか? 中国は口に出して言えませんが、もっと重大な欲望を秘めていると思います。

中国は台湾を獲得する意志を隠しませんが、それは太平洋への自由な海洋進出が悲願だからです。台湾を獲得するには、台湾攻略の足場として尖閣諸島は欠かせない位置にあります。それで中国は是非とも尖閣を入手したくなったと推測してみては如何ですか? 

そうだとすると、海底資源への欲から中国が尖閣を欲しがっているというのは、本音をカモフラージュする中国の作戦に乗せられた間抜けな議論になります。

いま中国は南シナ海と東シナ海の覇権を握るため激しく周辺諸国と争っていますが、その終局の狙いは、南・東シナ海の覇権を確保して台湾を獲得するためなのです。両シナ海の海底資源は付け足しであって、台湾を獲得する作戦のためにも、また獲得した後のためのも、南シナ海と東シナ海の覇権が欲しいのです。

しかし、中国が両シナ海を覇権下に置くと、台湾が中国のものにならなくても、航海の自由が脅かされるので大きな脅威になります。この点は、昨年末、首相就任前の安倍首相が海外ウェブサイトに発表したセキュリティ・ダイヤモンド構想ではっきり述べています。南シナ海が北京の湖になっても良いのですかと。

尖閣は、台湾の北東に位置し、沖縄の与那国、石垣、宮古の北方にあり、台湾攻略の際の要衝になります。これが日本、従って米国の支配下にあると、中国の台湾攻略作戦の大きな障害になります。

多くの日本人は、この中国の本音を知りませんが、米国軍当局は百も承知であり、米議会も理解しています。ですから、米議会は尖閣について日本の立場を擁護し、行政府のクリントン長官も辞任直前に中国に釘を刺したのです。

この3月に政権交代する習近平は、党中央軍事委員会主席に就任以来、共産軍への影響力を高めようと東奔西走して軍関係機関の士気を鼓舞しています。その狙いは党の軍への影響力を高めることにありますが、結果において、周辺国との軍事緊張を高めることになっています。

海上自衛隊の護衛艦に対する射撃管制用レーダー事件は、このような習近平の最近の指導体制の中で起きたことを銘記すべきです。事件発生を党中央が知っていたとか、中国海軍の独走であったとかはが問題なのではありません。

尖閣諸島については、中国は領土問題があることを世界にアピールしたいのですから、事件が発生することを望んでいます。従って、射撃管制用レーダー事件は、中国の外交戦略の一部として実行されたことに疑いはありません。

それ故、中国艦の照射に対して海上自衛隊の護衛艦が慎重に対処し、政府が冷静に分析し事実確認をした後で、国際社会向けに発表したことは適切な対応でした。日本側の発表に対する中国の反応は、日本の指摘はでっちあげと言うのですが、そのような反応こそ中国の意図に図星を指された者の言い分です。

その後、日本の発表は「中国の名前を貶めるため」と言うに至っては、正に中国の意図が見抜かれたことを自ら語る言葉です。語るに落つるとは、このことです。
(以上)  
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする