世相の潮目  潮 観人

世相はうつろい易く、その底流は見極めにくい。世相の潮目を見つけて、その底流を発見したい。

パリのテロで文明の対立を考える

2015年11月24日 | 歴史
ニューヨークで起きたアメリカ同時多発テロ事件(2001.9.11)から14年経た今年の11月13日、パリ市街の中心部で起きたフランス同時多発テロ事件は、今世紀の人類が抱える難病が如何に深刻かを知ることになりました。

「イスラム国」からのテロ攻撃は、現在のところ軍事攻撃をしている米国、フランス、ロシアに向けられてますが、「イスラム国」はキリスト教圏に敵対しているので、攻撃目標は、これら三国に限りません。更にキリスト教圏に友好関係の国々をも攻撃対象としています。

パリのテロ襲撃があった時に、偶々開催されていた経済金融のG20会議が真っ先にパリのテロを強く非難する声明が発したことで、その可能性は高まりました。加えてこの事件で「イスラム国」はシリアで戦うよりは、パリ市街地をターゲットにしたゲリラ的なテロの方が効果的と理解しましたので、テロ戦線は全世界に広まる可能性が高まりました。

大量の難民がシリアから流出して止まらないので「イスラム国」は強力で勢力を拡大していると誤解されていますが、実情は有志連合とロシアの空爆で「イスラム国」は指導者要人を次々殺害されて、彼等はいま劣勢に立たされています。しかし、窮鼠猫を噛むの喩えで大したことは無いと考えるのは間違いです。

9.11はニューヨークの心臓部を狙い、11.13はパリの中心部を狙いました。アルカイダもISも用意周到に準備して相手の核心部を衝いたのです。当時のブッシュ大統領も今のオランド大統領もテロ攻撃を「戦争」と言いました。メディアはテロを戦争というのは大げさだという態度ですが、核心部を衝くのは脅しではなく本気で勝負を挑んでいる証拠です。

パリの同時多発テロは、シリア難民が大量に押し寄せて難渋している欧州に、更に追い打ちを掛けることになりました。この二重苦は原因と結果が結びついたもので、シリアの戦闘が難民のルートを伝わって飛び火したようなものです。

シリアからの難民流出を最終的に止めるには、シリア人が安心して暮らせる状態に戻さねばなりませんが、現段階では、取り敢えず内乱を治める手段が爆撃の強化だけであり、その目処は立ちません。

ここで思い出すのは、米国の歴史家ハンティントンが20世紀はイデオロギーの衝突だったが、21世紀は文明の衝突になると言ったことです。その意味は西欧文明の膨張に対して非西欧化という反逆が始まるというものでした。

反逆の一つはイスラム文明から、もう一つは非西欧の旗手を目指す中国からですが、最初の頃はハンティントンはイスラム世界からの反逆を警戒していましたが、後になると中国からの反逆を警戒するようになりました。

しかしながら、中国からの反逆は近世西欧社会が築いた自由資本主義体制の変革を求めるものであって、イスラム世界との対立のように宗教対立を含むものではないので、政治経済のリアリズムで解決可能ですが、イスラム文明との対立は宗教の対決があるので、妥協は極めて難しいものがあります。

文明は種々の文化を含みます。どのような文化でも、その中核をなすのは宗教です。とすれば文明の衝突とは、宗教の衝突ということになります。人類は、宗教的対立を政治の場ではなく、心の世界で妥協する知恵を働かせねばなりません。
(以上)
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消費増税も軽減税制も誤った政策だ

2015年11月14日 | 政治
メディアは消費増税に軽減税制を導入する話題を賑やかに報道していますが、大事なことをわざと忘れたか、或いは大事なことを隠しているのか、何か不純な動機が働いているようです。

昨年の消費増税が今年の消費需要にも重くのしかかっていて、二期連続のマイナス成長に落ち込む可能性が高いのですが、政府も景気後退と判定される懸念を隠すかのように、軽減税制議論を続けさせているように思います。

これまで日本の不況脱出に助言をしてきたポール・クルーグマン教授は、最近の発言で「日本はもはやひどい不況にはないが、まだデフレは続いている」と診断しています。そして、良くない財政状態を改善するのは、緊縮財政ではなく、高いインフレ率を目指した積極的な金融政策であり、財政政策も拡張せよと言っています。

そもそも民主党政権下で消費増税が決められたとき、その理由が社会保障財源を確保すると言うことでしたが、社会保障を消費増税を結びつけることは論理的に矛盾していました。というのは消費増税は、社会保障で救済される人達の収入を直撃する逆進税だからです。

その悪い逆進性を緩和するための消費税の軽減税制にも問題があります。食料品の消費税を軽減する軽減税制は、消費税の逆進性を緩和するかのように見えますが、少しもその効果はありません。軽減税率は高額所得者にも平等に適用されるので、より多く得するのは消費額が多い高額所得者だからです。

更に軽減税制には、消費税を徴収する手続きの課程で、二つの困難があります。
一つは、消費税軽減商品とその他の商品を区分する複雑な経理を、消費財の取引をする業者に課する問題です。特に経営規模の小さな中小企業にとっては、かなり煩雑な経理処理の負担を強いられるます。軽減税制には逆進性を緩和する効果が乏しいのに、徴収課程で追加のコストが掛かるというマイナスがあり、国民経済的に見て失敗なのです。

二つ目は、消費税軽減の対象となる業界にとって消費税は補助金になるとの疑念が出ています。と言いますのは、軽減税率によって軽く課税された価格分が最終消費者に届かずに、軽減の対象となった業界内に滞留する可能性が高く、それを確認する方法がないとのことです。これでは軽減税制は、軽減品目を取り扱う業界への補助金になってしまうと、ドイツでは廃止論まで出ています。日本のメディアは、このことを先刻ご承知なのでしょう。

そうであれば、消費税軽減税制より、先に財務省主導で提案された代替案、「消費税還付金制度」の方が優れていました。消費税で徴収した税金の一部を低所得者層に還付するのですから、消費税の逆進性は確実に緩和されますし、また税徴収のための複雑な手続きも省略できるので官民あわせた徴税コストも節約できて、一石二鳥の良案です。

財務省主導の還付金制度が不評だったのは、消費税収の目減りを無くして、少額の還付額で事を済まそうした、ケチな提案だったからです。十分多額の還付金を低所得者層に交付することは消費需要拡大に貢献することになり、景気対策としても優れています。

今からでも遅くはありません。財務省に頑張って頂いて、軽減税制度に代わる改善された消費税還付金制度を提案して欲しいものです。

国際通貨基金(IMF)では、既に(2010年)消費税の軽減税率制度は実施コストが高いうえに、所得の再分配効果は限定的だから廃止して、低所得者の手当を増やす制度が良いと指摘しているそうです。
(以上)
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Jリーグ・ナビスコカップ決勝戦を観戦して

2015年11月03日 | Weblog
今までテレビで観るだけだったサッカーを初めて埼玉スタジアムで観戦しました。それも今年のナビスコカップ決勝戦でした。

対戦チームは鹿島アントラーズとガンバ大阪でして、ご案内の通り3対0で鹿島アントラーズが勝ち、決勝戦にしては競り合う試合ではありませんでしたが、スタジアムの競技場で観るのは、テレビで観るのとは違い興奮する度合いは格段に高いものがありました。

先ず、絶えず発せられる応援の声援は場内の空気を熱くします。試合が始まりゴールの周辺で選手達が競り合いとなり、固唾をのんで見つめていると、見事ゴールすれば応援者達は喜びの歓声をあげ、惜しいチャンスを逃せば大きな溜息が流れます。

歓声も溜息も、右に左に走る選手よりも速くスタジアム内を駆け巡ります。埼玉スタジアムはサッカー専用なのでピッチが観覧席から近く、臨場感があります。観覧席では5万人を越える観衆が終始盛り上がり、燃え上がります。

日本では国民的スポーツの野球に比べて、規模ではサッカーは未だ発展途上ですが、野球のように最初から特定の企業に結びつかずに、地方に根付いて成長してきた経緯があるので、将来の発展が楽しみです。
(以上)


























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