プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 筒井康隆「虚航船団」

2014年09月02日 | ◇読んだ本の感想。
いや、これは読むのがなかなかに苦労……。

第一部は宇宙船に乗っている乗組員たちの一人一人の描写。
……乗組員たちは文房具ですけどね。……ってそれもよくわからないけどね(^_^;)。
船長が赤鉛筆で、副船長がメモ用紙、消しゴム、ナンバリング、下敷き、虫ピン、画鋲、
雲形定規(25人一組)……そーさのー、丹念に数えたらキャラクターは30は超すかね。

彼らは皆、狂気に囚われているという設定。
それぞれの狂気を辛抱強くつづって行く。それなりに文房具のそれぞれの特性を生かした狂気になっており、
句点がほぼない文章を辿っていくのは疲れるが(読点はある)、まあその狂気が面白い。
それぞれのキャラクター同士が複雑にからみあって狂いあってるので、軽い地獄図だが。
死人も出るし強姦も出るし。恒例の筒井節。

そんな狂気の乗組員たちに、船団から離脱して惑星クォールに向かって進撃を開始せよという指令が出る……。
ここまでが第一部。



第二部は、惑星クォールに住んでいる鼬族の壮大な歴史叙述。
……ここらへんから読むのが苦労になってくる。
これは中世から現代にかけての世界史のパロディなんだよね。

鼬族と言ったが、イタチやテン、オコジョ、クズリ、イイヅナ、タイラ、グリソン……
第二部のタイトルは「鼬族十種」だから、それを信じれば十種類登場するのかな。
イイヅナって知らなかった!タイラって知らなかった!グリソンってwikiにも出てこないけど
実在する動物なの!?……あ、いた。ゾリラもいた。知らない動物が多すぎる。

その彼ら鼬族が、まあいうたらお馴染みの歴史をなぞる。
これが血沸き肉躍る歴史ロマンじゃなくて、ずらずらと固有名詞と年号と地名が並ぶ年表風の書き方でさー。
「ローマ帝国衰亡史」を思い出した。句読点の少なさがそっくり。
近世になるまではどこまで現実と近づけてパロディにしているかよくわからなかったが、
クズリのクズレオン・ポナクズリ、スカンクの美女スカフィーヌと結婚とかあると、
これは明確にナポレオン。まあナポレオンの生涯を正直に辿るわけでもないけどね。

イイヅナは日本人にある程度擬せられてるが、そこからヒドラ(←ヒトラー)が出てくるのだから、
実際の歴史との一致は、良くて50%くらいか。
オゴディ大統領とジャグリーヌはけっこう登場回数が多い。現代史になってくると
わりと血が通って面白くなる。田中角栄のパロディも登場し、あの角栄節でスピーチするし。
が、とにかく第二部の前半は退屈で仕方なかった。読むの止めようかと思った。



第三部は実際に文房具と鼬との戦闘シーンかといえば……
戦闘シーンというよりはゲリラ戦。隠れている鼬たちや哨戒中の文房具たちの怯えや慄え。
彼らの脳内の思考を延々……まあさすがにちょっと飽きた。
時系列全くごちゃごちゃだし。時々作家・筒井康隆の愚痴も乱入するし。


筒井康隆は、わたしは中学生の時SFをまとめて読んだ。その中の一人。
一番読んだのは星新一だが、その周辺も数冊ずつは読んでいる。筒井は10冊前後かな。
でも軽めのものばっかり。まあやっぱり、「けけ。けけけけ。」の狂気系は
わざわざ求めて読みたい方向とは違う。

なので今回の作品も、力作だなあとは思うし、相変わらず(というか書いたのは当時)とは思うが、
面白いかというと……。いかにも筒井、という意味では読み応えはあったが。
いや、お疲れさまでした、と書いた人にも読んだ自分にも双方に言いたい気分。



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普通に面白い小説とはとても言いかねるので、こってりの狂気を読みたい人向け。
でも意外にこの本がエポック・メイキングになった人も多いようですね、アマゾンの感想によると。
まあそれだけのインパクトはありますからね。






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