uparupapapa 日記

ようやく年金をいただける歳に。
でも完全年金生活に移行できるのはもう少し先。

こりゃ!退助!!~自由死すとも退助死せず~(30)

2021-02-25 03:45:46 | 日記











このイラストは私のblogの読者様であり、
イラストレーターでもあられる
snowdrop様に描いていただいた作品です。


#13イラストのリクエスト〜『板垣退助』 - snow drop~ 喜怒哀楽 そこから見えてくるもの…
 (snowdrop様のblogリンク先)

Snowdrop様
素晴らしいイラストをありがとうございました。
心から感謝いたします。










    第30話 我が子


 1869年版籍奉還の勅許が下されると
廃藩置県の準備段階として
国民皆兵制度確立のため、人民平均の理を布告した。
 その後退助は新政府の参与として
重要案件に次々と関わる。
1871年(明治4)8月29日、廃藩置県断行。
 その始末が済まないうちに政府要人を中心とした
洋行使節団派遣の計画が持ち上がった。
即ち『岩倉使節団』である。
 彼らの目的は西洋諸国の諸制度の研究、
及び不平等条約の改正にあった。

 使節団の政府要人の主なメンバーは
正使岩倉具視、副使に大久保利通、
木戸孝允、伊藤博文などであり、
その他、各分野の専門家育成に適した人物、
女子高等教育を見据えた人物などが選定されている。

 当時のアメリカ、ヨーロッパの情勢を見ると、
1865年アメリカ南北戦争終結、
1867年プロシアを中心にした北ドイツ連邦成立。
(封建的に分断された地方分立から国家統一へ)
1870年普仏戦争、フランス第三共和政宣言、
南ドイツ諸邦プロシアへ合邦、翌年ドイツ帝国成立。
ドイツと同じ封建分断国家のイタリア統一など、
激動と混乱の時期であった。

 日本が他のアジア諸国が次々と侵略されても
無事だったのは、巨大国家である
隣国『清国』があまりに広く、
侵略にてこずり時間がかかったのと、欧米諸国が
そうした力の微妙な均衡の上に辛うじて保つ
時期だったせいもある。

 しかしそれでも不平等条約や、
神戸・堺事件に見られる列強の横暴、
金銀交換レートの違いからくる経済混乱など、
すでに目を覆うばかりの弊害を被っている。

 列強侵略の脅威阻止と、殖産興業・富国強兵の
早期達成のための
制度・技術習得は待ったなしの状態であり、
極めて緊張感の高い時期とも言えた。

 岩倉使節団の洋行前、
残留組の西郷隆盛、板垣退助、井上馨、大隈重信
江藤新平との間に、重要な人事変更、
新制度の積極的導入は控える事
など、釘を刺される。

 しかしそれでも地租改正、学制新設、太陽暦採用、
徴兵令、断髪令など、矢継ぎ早に発布された。
 退助はそういう明治維新草創期に
多くの重要案件に関わった人物なのである。

 そんな重要な時期、
東京千住の板垣家に大きな出来事があった。
 

 お鈴に待望の嫡男が誕生した。
名を鉾太郎と命名。


 後に鉾太郎は従四位となり、
教育家となっている。


 「鈴、でかした。
よく無事に産んでくれたの。
これでワシもようやく父になれた。
 心から礼を云うぞ。」

そこに生まれたてで、まだ目も見えず、
耳も聞こえぬ我が子に「ベロベロバ~!」
と何度も何度も繰り返す親パカがいた。

 「旦那様に喜んでいただけて
私もホッとしました。
嬉しいのは分かりますが、
そんなに顔を近づけ声をかけたら、
赤ちゃんを起こしてしまいます。
 せっかく眠りについたばかり故
起こさないでくだされ。」
(分かっておる。分かっておるが、
目を覚ましてこの父を見てほしいのよ。)
そんな気持ちを口に出しては言わないが、
そのかわり
「おお、そうか。
でもこんなに可愛くては
声を掛けずにいられまい。
この子はきっと、ワシに似て
良き男子(おのこ)になろうぞ。」
「よしてくだされ!
この子が旦那様に似てしまったら、
将来ろくな子になりませぬ。
 暴れん坊で、勉強嫌いで、女泣かせで、
むこうみずの男になってしまうなんて、
この子の将来が可愛そ過ぎます。」
「こりゃ!鈴!!
それはあまりに言い過ぎではないか?
失敬にも程がある。」
そう言いながら、退助の目は笑っている。
「あら、そうでございましょうか?
私の認識の何処か間違っていましたかしら?
え?え?え?」
こんなめでたいときでも、
容赦なく退助を追い込む鈴。
でもそう言いながらも心の中では、
多分人生で一番幸せなひと時だったのかもしれない。
そんな鈴の心を知ってか知らずか、
「分かった、分かった。
お鈴大権現様、大魔神様。
私めが悪うございました。」
脛に傷持つ退助は、
こんな時に地雷を踏むのは何としても避けたい。
大魔神様の顔が怒りの面相に変わる前に、
早々と平伏するのだった。

「大魔神様?
大権現様と云うのも不遜すぎてどうかと思うけど、
大魔神様とは何ですか?
誰の事を言っているのですか?
私を何だと思っているのですか?」
「大魔神様を知らぬのか?
知らぬならもうよい。
要するにソチは偉いお方ぞ。
ワシは只々ひたすら平伏するのみ。
ワシの子を産んで下された神様仏様ということだ。」
「私を神様と思召すなら、
もう一寸(ちょっと)大事にしてくだされ。」
「大切にしとるがな。」
「何故急に関西弁?」
「あわわわ、大事にしちょるじゃき。」
「なんだか土佐弁もおかしくない?変な人!」
と指をさしながらケタケタ笑う。

 退助は思った。
(本当にこの子の母が
こんなに気の強い鈴で良かったのだろうか?
ウン、きっと良かったのじゃろ。)
と自らを納得させながらも、
未熟な父に過ぎない自分の事を棚に上げ、
疑問が頭をよぎる父であった。

 鉾太郎が将来教育家になれたのは、
実は奇跡だったのかもしれない。

 でもやっぱり自分の子は可愛い。
口を窄(すぼ)め微(かす)かに
「ポッ、ポッ、ポッ、」
と口吸いをするような声を出し、
鉾太郎の顔に近づける父。
「あら嫌だ、旦那さまったら、
私に迫るときと同じ仕草をするのですね。」
「何を言う!
ワシがソチとこの子を一緒にしていると申すか?
この子は食べてしまいたいくらい可愛いが、
ソチは神仏に差し出したいくらい可愛い。
その差は大きいぞ。」
「何を言っているのか分かりませぬ。
神仏に差し出すとはどいう言う意味でしょう?」
「あまり深く考えるな。
それほどソチは神々しいとの言葉の綾じゃ。」
「そうでございましょうか?
何だか都合よく言包(いいくる)められて
いるような気がしますが。」
「そんな事はありはせぬ。
ソチは可愛い可愛いワシの嫁ぞ。
一番の宝物じゃ。」

 眉間に皴(しわ)を寄せ、目を細めながら
疑いの目を退助に注ぐお鈴。

 ああ、こんな時お里や、展子や、
菊の事は、鈴の頭を過(よぎ)らないで欲しい。
そう心から願う退助であった。

 いつまでも、いつまでも、
この幸せが長く続いて欲しい。

 いつの世も、誰もがこんな時感じる幸せ。
大切にしたい、守りたい退助であった。



 だがこの直ぐ後、
退助を巡る政治環境に暗い
「李氏朝鮮」の影が覆い始める。

 世に言う『征韓論』の始まりであった。


   つづく



*史実では鉾太郎が生まれたのはもう少し前ですが、
物語の構成上、こうなりました。悪しからず。


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2 コメント

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Unknown (snowdrop)
2021-02-25 21:29:32
こんばんは😃

楽しく読ませて頂きました😆🎵🌸✨

退助と、今度は鈴との、やり取り😆🎵

退助の親パカぶりも、いいし🎵
「ワシに似て良き男の子に、なろうぞ!」
鈴は、旦那様に似て良かったじゃなくて
「旦那様に似てしまったら、
将来ろくな子になりませぬ。」とか😆
その後の退助の、言い訳というか🎵
ごまかす ところも
あるある🎵って感じで😆

情景が浮かんできて
微笑ましい、やり取りで🎵🌸
ほんと
退助と鈴
幸せを感じながら
このまま続けばいいな~🎵
私も、そういう思いに なりました😆🌸✨🎵


西郷隆盛、伊藤博文
私は歴史好きだけど、細かいことは
全然覚えてないので😅
次々と有名な著名人が登場してくる
凄い時代だったんだなぁ~
というのと🎵

次の話も興味深い
政治環境の暗雲
『征韓論』また楽しみにしています😆🎵🌸☀️
Unknown (uparupapapa)
2021-02-26 04:59:41
@snowdrop おはようございます🌞😃
いつも温かいコメントありがとうございます😊
物語中の具体的なセリフを引用してのご感想は、今後の展開のヒントになります。
史実はかえられませんが、登場人物に厚みを持たせる描写は欠かせません。
今後の展開は、征韓論から下野、自由民権運動へと進みます。
人間「板垣退助」をどのように描いていくかは毎回悩みの種ですが、
毎回が真剣勝負のつもりで臨んでいます。
自分の力量の限界を感じ乍らも、自己ベストの作品を残したい。
読者の皆様のうち、ひとりでも楽しんでいただけたらとの想いで、
最終話まで進めていきたいと思います。
今後もお付き合い頂けたら幸いです。

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