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ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】第25話 第三秘書 エリカ

2023-12-28 06:55:10 | 日記

 ネット内閣組織に副大臣や副長官という『副』とつくポストは基本無い。

 それは旧組織のようなお飾りのポストで、議員たちの出世欲や名誉欲を満たす必要が無いためである。

 議員当選一回目だの二回目、三回目だのという選挙の度に生まれる長期にわたる特権制を廃し、一律任期一年限り、一度だけポストを経験すれば充分だからという理由もあるから。

 

 但し例外もある。

 ある一定の部署に業務が輻輳ふくそうする事が予想される場合や、新設の業務を省内に設ける場合などがこれにあたる。

 そんな時どうするか?

 

 急な業務増に大臣ひとりでは対応できない場合などに、副大臣や副長官を設けるような仕組みを作っているのだ。

 だがネット政府応募組の人員はそれぞれ決まっていて、1年の養成期間を要する。

 だから急な補充に対応し、宛てられるのが公設秘書たちである。

 秘書というが、政変以降の組織では大臣の小間使いではない。

 全員参加の総力戦であり、誰もが活躍する事を求められる立派な控え要員なのである。

 

 また全く別の起用パターンもある。

 

旧体制と違い応募制行政ポストなら、適任の人材を必ずしも配置できるのか?という懸念の場合がそう。

 例えば平助が任期1年の間に、何かやらかして総理大臣失格のレッテルを貼られたらどうする?

 例えばカエデと一緒のプライベートな時同様に場をわきまえず、そのまま公的な場所でも変わらず恥ずかしいお馬鹿な会話を晒し続けていたら?

 助平で変態で軽薄で、[いけず]な本性丸出しのままだったら?

(誰が『助平で変態で軽薄で[いけず]な本性丸出し』じゃい!!と平助が聞いたら抗議するだろう。例えだから!あくまで【た・と・え】・・・ね。)

 

 そんな時はどうするの?

 

 平助が不適任と判断され辞任する時、代わりは?

 

 そんな時のリリーフとして秘書が居る。

 平助や田之上官房長官たちには第三秘書まで宛がわれているが、前述通り彼らはタダの秘書ではない。

 主役ポストがコケた時、直ちに代替人事で埋められるよう、同じだけ研修を受け、いつでも配置できるよう措置された仕組みなのだ。

 第一秘書がコケたら第二秘書の出番、それもダメなら第三秘書。

 幾重にもリスク管理が成され、一年間の任期を全うさせる。それがネット政府運営委員会の考えであり、組織運営の考え方であるから。

 

 ただ、その順番が第一、第二、第三とは限らない。

 その時おかれた政治的状況に於ける適材が誰なのか?とか、ネットアンケートでの意見による推薦が影響する場合もある。

 だから平助が辞任させられたら、第一、第二秘書を差し置いて、第三秘書のエリカが首相に選任されるケースも考えられるのだ。

 

 

 

 そのエリカ(28)だが、彼女も壮絶な生い立ちを潜り抜けて来た強者つわものである。

 

 小学校に入学して直ぐ、両親が離婚。

 母方に引き取られたが、エリカには三歳年下の妹カオリがいる。その妹は当初父方に引き取られていたが、育児放棄のためエリカと一緒の母方に。

 その母もネグレクトで他の男に走り、見かねた親戚が姉妹を引き取る。

 やがてエリカが小学3年の時、カオリが病死した。

 「お姉ちゃん・・・・。」

 最後に姉のカエデの名を弱々しく呼ぶカオリ。

 涙が止めどもなく溢れ、はらはらと泣き続けた。

 その情景が大人になってもエリカの脳裏から離れない。

 

 天蓋孤独になったエリカは、妹の病死の責任が姉の自分にあると思い込んでいた。

 養育してくれる親戚に遠慮し続けた結果、妹を死に追いやってしまったのだと。

 エリカは親戚に負担をかけまいとして、高校生活はできる限りのバイト三昧。

 それでも高校での成績は優秀で、有名な大学に推薦入学する。

 大学に進学しても奨学金とバイトで何とか自力で卒業できた。

 

 妹の死の影を終生胸に抱きながら。

 

 エリカの容姿は、よく目立つ美人である。

 その特性を生かし、大学在学中からクラブのホステスとして生活費を稼いでいた。

 卒業後も大手有名企業への就職を蹴って、引き続きホステスとして身を立てる。

 やがて銀座の超高級クラブにスカウトされ、議員や高級官僚の対応を任されるようになった。

 元々エリカは頭が切れ、プライドが高いだけの高慢オジサンの手玉をとるのは簡単。

 政治の世界の話題の勉強も完璧で、オジサンの話について行けないなんて事は全くない。

 むしろ彼女なりの身の程をわきまえた、可愛げのあるアドバイスがさりげなくできる程。

 そのスキルの高さを当時政府高官公設秘書だった板倉に見初められ、平助政権の第三秘書として抜擢されたのだった。

 苦労人の板倉は、苦労人のエリカに同じ匂いを感じたのだろう。

 そんな経緯でボーっと生きる平助には、気が置けないけど油断ならない存在となったのは言うまでもない。

 

 

 エリカは要所々々でさりげなく平助にアドバイスを送る。

 特に政策発表や演説、記者会見の場でのコメントについての注意点などには。

 平助は首相としてその場の空気を読み、発言を忖度する力と、全体を見渡す能力を備えている。

 だが、まだ政治の世界での問題点を正確に把握し、適切に対処するには未熟であった。

 その欠点を補完したのがエリカ。

 失言などの致命的失点を防ぐ役割をこなしていた。

 

 だから平助にとって秘書エリカは、カエデや鯖江さばえと並び、頭の上がらない存在である。

 

 ある会見の際、平助が返答に困った時も、エリカが人知れず助け舟を出した。

 記者たちの目に触れないよう工夫したディスプレイに、素早く模範解答を送りその場を切り抜けてきた。

 平助はその都度、

りぃ!」と目で合図する。

 

 その息の合った連係プレイを横目で見ていたひとりの男がいた。

 田之上官房長官である。

 彼は平助を羨ましく思っていた。何故なら田之上の秘書立ちは皆、男であったから。

 学生時代からの友人であり、確かに人間関係は良好であった。だが無骨な男同士。

 それに対し、平助の秘書エリカは人目を引く美人であり、いつも凛としている。

 官房長官という職務は首相を助ける、いわば女房役。平助とは行動を共にする機会が公私供に多いのだ。

 田之上はいつしか一方的にエリカに恋心を抱くようになる。

 だが田之上は平助と同じ角刈り三人衆のひとり。

 女性の受けはすこぶる悪い。

 

 その現実を感じないわけがない田之上。いつまでも片思いのままだった。

 

 一方平助にとってエリカは恋愛の対象にはなっていない。

 カエデの厳しい目があるし、いつも助けられているばかりでは立つ瀬が無いから。

 でも最近のエリカは平助が業績を挙げる度、好感度も上がっているみたいな目で見てくる。気のせいか、好意を持ってくれている?なんて不敵にも己惚れ心が芽生えた。

 まんざらでもない平助。

 

 この事が平助・田之上とエリカの奇妙な三角関係、いや、カエデを交えた四角関係に発展しそうな不穏な雰囲気を産む。

 

 

「ねぇ平助首相、昨夜の会見で私に助け舟を求めて何度も目で合図してくるの、止めてくれる?あれじゃぁ、取材の記者たちにバレバレじゃない!」とエリカ。

「そうですよ!平助さん、いくらエリカさんが有能な美人秘書だからと云って、頼り過ぎ。

 過重な他力本願は良くないですよ!少しは自分で調べておくとか、勉強してください!」と嫉妬交じりの田之上。

「勉強?それは僕の一番嫌いな言葉!

それに(田之上)憲治さんがいつもボクを飲みに誘うから、勉強の暇なんてないじゃないか!」

「アッ!またそうやって人のせいにする!良くないなぁ~。ねぇエリカさん。」

 田之上がエリカに同調を求めた。

 そこにカエデがシャシャリ込む。

「平助!いつまで人に頼ってんの?いい加減、自立しなさい、バカ!!」とカエデ。

 この頃はエリカの他、カエデも平助の傍から離れようとしない。

 そして平助に対した時だけのカエデの口癖の「バカ!」は、その部分だけ囁くような妙な色気がある。

「バカバカ言うな!傷つくだろ!」

 カエデの前では特にいつも自立できない平助。段々二人のおバカな世界に入ってゆく。

「大体平助は感謝が足りないのよ。忙しい中私が晩御飯を作ってあげても、『美味しい』とか、『世界一だね、』とか『ありがとうございます、カエデ様』とかの言葉が足りないのよ。」

「カエデ様ぁ?カエデはカエデだろ?

 味は美味しいけど、世界一かどうかと云ったら、それはねぇ~どうかと思うぞ!

 (蚊の鳴くような小さな声で)でも、感謝はしてるサ。」

「エッ?聞こえない!なんだって?」

「感謝はしてるって言ったんだよ!」ヤケクソの平助。

「それじゃぁ、その気持ちを態度で見せなきゃ。平助は冷た過ぎるのよ!そんな事じゃ人の上に立つ総理大臣なんて務まらないからね!」

「別に人の上になんて立ってないし!今までも何とかやってこれたし。」

「そんな風に突っ張ってると、もうご飯作ってあげないよ。」

「お、お代官様、それだけはお許しください。もうしませんから。」

 

「あなたたち、お熱いことね。そんなに当てつけないでくれる?」

 呆れ果てたエリカが言う。

 「そうだぞ!平助さん、カエデさん!ボクとエリカさんの前でイチャつくのは、どうかと思うぞ!目や耳のやり場に困るだろ? ね、エリカさん?」

 

 この人、何で私にいつも同調を求めてくるんだろ?そう訝しく思うエリカであった。

 

 もう間もなく任期が終わろうとしているのに、この不穏(?)な予感は何だろ?

 その場に居た四人は、無意識に今後の波乱を感じた。

 

 

 

 

 

       つづく