【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
身近な疑問の解説と役立つ情報の提供をさせていただきます。

「個人成り」したら税金が激増した!

2022-03-26 21:00:00 | 廃業、会社清算
「個人成り」とは会社形態で営んでいた事業を個人事業者へと転換することをいいます。個人成りをする理由は、会社(法人)の税務申告は複雑で多大な労力と費用(会計ソフト、税理士報酬)を要するのでそれを削減するためです。

「発作的な!」個人成りが後を絶ちません。しかし、個人成りしてから税金が「激増!」するケースも多いですので十分な注意が必要です。

◆会社では税金が均等割(最低で年間7万円)だけになるケースも多い

会社の場合、年額(事業年度単位)の税金が均等割の7万円だけというケースも十分ありえます。しかし、個人事業者でこの税額で収まることはまずはありえません。

◆繰越欠損金

数年にわたって会社の税金が均等割のみになり、利益に課税される法人税がゼロになるという「からくり」は繰越欠損金というものにあります。会社の赤字は繰越欠損金として翌年以降10年間繰り越して、翌年以降の利益と相殺することができます。それによって法人税の課税対象である利益がゼロになるのです。

◆役員報酬をゼロにする(社長個人の税金はゼロ)

繰越欠損金が多額にある会社は過去に役員報酬を多額に取りすぎていたということがほとんどです。そこで、繰越欠損金が使えるうちは役員報酬をゼロあるいは極端に少なくします。そうすれば、社長個人の税金(役員報酬から徴収される所得税と住民税)はゼロになります。

◆社長(役員)借入金の返済は無税

「役員報酬をゼロにすれば生活費が!?」、そのとおりです。そこで活用するのは社長借入金です。社長借入金の返済は役員報酬のように社長個人への課税はされません。会社に貸している資金(会社からすれば借りている)の返済だからです。

繰越欠損金が多額にある会社は単年度の利益が出ても法人税が課税されませんので、費用になる役員報酬に替えて社長借入金(負債の返済なので利益に影響しない)の返済という手段を選択することができるのです。

◆個人成りすれば税金が激増する理由(からくりが消える)

個人成りをすれば、上記の会社の税金が均等割7万円だけになるという「からくり」が消えてしまいます。個人事業者の税金が年額7万円ということはまずはありえません。あるとすれば、事業者が単身者や夫婦共稼ぎで、しかも低コストで安定した住居も確保されていて最低限の生活費や小遣いを稼げば十分生活ができるという場合のみです。

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★健康保険料についても同じようなことが
会社形態の場合の健康保険料は役員報酬に比例しますので、役員報酬をゼロにすれば保険料はゼロになります。一方、個人事業者の健康保険料は事業所得に比例しますが「事業所得ゼロ」はありえませんので、保険料は相応の額になります。特に、個人事業者が加入する国民健康保険は保険料額が「年額で通知」されることからその負担感に驚愕する人が多いです。

★税理士との話し合いが必要
個人成りをする人のほとんどが、税理士との関係が良好でありません。税理士とのコミュニケーションもほとんどないことから上記のような税金や健康保険料について無知です。個人成りが頭をよぎった場合にはまずは税理士に相談することです。そうすれば、会社形態で生き延びる術が見つかるケースも多いです。

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会社清算と社長借入金(最後は債務免除を受ける)

2022-01-20 18:31:00 | 廃業、会社清算
「会社を清算すると、私が会社に貸している資金はどうなるのですか?」

会社を清算するに先立って、社長借入金(役員借入金)の扱いについて疑問を持つ人が多いです。社長借入金といえども負債ですので、金融機関からの借入金同様返済をしなければなりません。しかし、返済できないこともあります。

◆社長借入金の返済は後回しにするしかない

「まずは社長借入金の返済をして、残った資金で」と考える人もいますが、そんなことはできません。

金融機関からの借入金については、社長が「個人保証」をしていることが通常ですので、結局は社長借入金の返済で得た(社長個人へ移動させた)資金を金融機関への返済に充てなければなりません。事務所や店舗を借りている場合の賃料も同じです(社長が個人保証をしていると思います)。

仕入代金や従業員の給料については個人保証のような縛りはありませんが、仕入先や従業員はいち早く会社の危機を察知して機敏に反応しますので、気がつけば支払うしかないという状況に追い込まれています。

◆返済できない社長借入金は債務免除

債務免除とは、社長の同意を得て社長借入金の返済を免除してもらうことです(社長個人からすれば債権放棄)。会社を清算するには債務をゼロにしなければなりませんので、このようにするしかないのです。債務免除が行われるのは破産などの法的整理に限定されますが、社長借入金については通常の清算においてもこのような扱いになるのです。

◆債務免除に対する法人税の課税に注意

債務免除を受けると、社長借入金が減って同額の収益(利益のプラス要素)が生じます。わかりにくいかもしれませんが、返済義務がなくなるということは借入額相当の資金をもらったということですから収益になるのは当然です。

収益ですので結果として利益が生じれば法人税の課税対象になります。ただし、債務免除の結果、利益が生じても過去の赤字と相殺できますので、債務免除した年度の利益が過去の赤字よりも少ない場合には法人税は課税されません。

◆債務免除をするタイミング

社長借入金の債務免除をするのは清算作業をしている年度、解散した年度の次年度以降になります。そこまでいかないと債務免除すべき額が判明しないのは当然として、このタイミングでないと繰越欠損金(過去の赤字)の「全額」を債務免除による利益と相殺できないという法人税のルールとの関係もあります。

◆株主との関係

株主への残余財産の分配は、全ての債務(借入金や仕入代金など)の弁済が済んでからです。社長借入金を免除しなければならない状況であれば、株主への残余財産の分配はできません。債務全額の弁済さえできないからです。

ただし、株主に社長以外の人がいてどうしても残余財産を分配しなければならない事情がある場合には、社長借入金を返済するだけの資金があっても債務免除をすることができます。

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休眠会社に必要な諸手続(繰越欠損金を生かす)

2021-10-07 19:01:00 | 廃業、会社清算
会社は休眠をしても法律上は存在しているわけですから(法務局で登記されている)、様々な義務を果たさなければなりません。この義務を怠っていると、活動再開がスムーズに行えないだけでなく、活動再開に際して不利な条件を背負ってしまうこともあります。

◆休眠中も期限内申告を遵守する(青色申告を継続する)

休眠中は課税が一切されないことから、期限に遅れて申告をしても無申告加算税も延滞税も課税されません。しかし、期限後申告が2年続くと青色申告(様々な税務上の特典がある)は取り消されます。

青色申告が取り消されても再度青色申告の申請はできます。しかし、その申請は一定期間制限されることから、活動再開時に白色申告(青色申告よりも税務上の扱いが不利)でスタートをしなければならないことがあります。

◆繰越欠損金は正確に申告する

休眠しても繰越欠損金は消えません。繰越欠損金とは過去の赤字のことで、10年間繰り越して利益の出た年度の利益と相殺することができます。会社を清算してしまえば繰越欠損金は消滅してしまいます。清算ではなく休眠を選択する理由のひとつが、この繰越欠損金を生かしておくということです。

繰越欠損金を正確に記録しておくという意味においても、休眠中も繰越欠損金は正確に申告書に記載して申告しなければなりません。

◆休眠中の決算書(損益計算書はない)

休眠中の会社の決算書には損益計算書がありません(実際には売上、仕入、諸費用がゼロのものを形式上作成します)。決算書は貸借対照表と株主資本等変動計算書だけです。また、貸借対照表と株主資本等変動計算書は毎事業年度同じ勘定科目と金額になります。休眠中は損益が生じず、資産と負債も変動しないからです。

休眠中の会社の決算書は簡単ですので会計ソフトも不要です。ワープロか表計算ソフトで作成できます。

◆役員変更登記

休眠中に役員の任期が満了した場合には、たとえ再選の場合であっても役員変更登記をしなければなりません。

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★休眠する事業年度の事務処理
休眠する事業年度は、事業年度の途中から入出金がストップすることになります。納税は、活動していた期間中の均等割(月割り計算)のほか、法人税や消費税も納税が必要となる場合があります。預金口座の解約、本店の移転が必要な場合の登記は休眠と同時にしなければなりません。

★活動再開の手続
税務署など税務関係の役所に「活動を再開した」という異動届を提出します。登記は不要です。あとは会社を設立したときと同じように、事業所を開設して設備を整え営業活動をすればいいです。

★休眠から清算
休眠から清算へと進むこともできます。清算を決めた時点で解散登記をして清算事務を行い、最終的には清算結了登記をしなければなりません。

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休眠会社に必要な諸手続(休眠中の本店)

2021-10-07 19:00:00 | 廃業、会社清算
会社を休眠させるには法務局での登記も不要で、会社を設立したときのような費用は一切かかりません。税務署などの税務関係の役所には異動届の用紙1枚を提出すればいいだけです(添付書類は不要)。こうしておけばもう法人税も消費税も課税されません。赤字でも納税が必要な均等割も課税されません。あとは事業年度ごとに形式的な申告書(所得はゼロ、添付書類は貸借対照表のみ)を提出すればいいだけです。

しかし、これだけでは済まないことがあるのです。

◆取引先への連絡

休眠に先立って取引先へ連絡をしておかなければなりません。その要点は、休眠開始日以降は休眠をする会社の名義では一切取引ができない旨を取引先に認識してもらうということです。

取引先がこのことを認識してくれない、あるいはしばらくは休眠する会社との取引を必要としている場合には休眠することはできません。

◆休眠中の本店(役所からの郵便物が届くようにしておく)

休眠中といえども役所からは郵便物が送られてきます。しかし、休眠とともに事業所は消滅することから郵便物が届かなくなります。そこで休眠中は本店を代表者の自宅など、郵便物の受取が可能な場所に移転しそこを本店として登記しなければなりません(当初から本店と代表者の自宅などが同一である場合は不要)。

税務署など税務関係の役所には本店の移転登記をしたという届けが必要です。本店の移転により管轄の役所が変わる場合には、今後の税務申告は新たな本店の所在地を管轄する役所にすることになります。

以上の手続をしておかないと役所からの郵便物が届かず、休眠中も必要な役所関係の手続を失念してしまい、活動再開がスムーズにできません。

◆預金口座は解約する(休眠中は資金の出入りは一切ストップ)

休眠会社は資金を一切動かすことができません。当然、預金口座は不要ですので解約しなければなりません。預金口座が1円でも動けば活動していることになります。「うっかりしていて!」、例えば口座引落を停止する手続を忘れていたとならないようにするためにも、休眠するとなったら預金口座は速やかに解約しなければなりません。

休眠会社は現金(硬貨と紙幣)を持つこともできませんので、休眠するまでに以後の入出金が一切ストップするようにしておかなければなりません。

◆看板は下して名刺も使用しない

看板があるということは「PR活動」をしているということですから休眠とはなりません。名刺も同じです。休眠をするとなったら、看板は下して、名刺の使用も止めなければなりません。

◆サイトは閉鎖してドメインは手放す

休眠と同時にサイトは閉鎖し、使用していた会社名義のドメインは手放さなければなりません。ドメインを保有していると関連費用が生じるからです。どうしてもドメインを維持したい場合には休眠はせずに均等割は納付し続けることです。

◆バーチャルオフィスは解約する

いわゆるバーチャルオフィスは休眠にあたって解約しなければなりません。バーチャルオフィスを契約しているということは「活動拠点」があるということで(賃料も支払っている)、売上がゼロでも均等割が課税されてしまいます。

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★金融機関からの借入金がある場合
借入金の返済も会社の活動に他なりませんので、借入金があれば休眠はできないということです。ただし、代表者がその借入金の債務引受をして、個人の資金で返済をすれば会社の資金は動きませんので会社を休眠させることができます。

★役員(社長)借入金は休眠する前に返済を受けておく
休眠会社は資金を一切動かすことができませんので、役員(社長)借入金がある場合には休眠する前に可能な限り返済をしておくことです。

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会社を休眠する場合の条件

2021-08-28 20:30:00 | 廃業、会社清算
会社には休眠という状態があります。休眠とは、仕入れて売るという会社の本来的な活動だけでなく、資金の動きも一切ストップし、事業活動の拠点も存在しない状態をいいます。会社が物理的にも機能的にも存在しないけれども、法務局で「登記されているだけ」という状態ということです。

パーパーカンパニーと休眠会社は違います。ペーパーカンパニーは一般的には目に見えませんが、特定の者が行う取引には現れる会社です。休眠会社は取引をしませんので、法務局の登記以外どこにも現れることはありません。

休眠とは会社にとって特殊な状態ですので、特別な条件が揃わなければ休眠とは認められません。

◆活動再開が予定されている

休眠というからには活動再開が予定されていなければなりません。再開予定としては次のようなケースが考えられます。

〇企業グループ内の会社を休眠させる
複数の会社からなる企業グループに属する特定の会社が、事情により機能を失ったけれども、近い将来その機能が復活する、あるいは機能を変えてグループ内で存在価値を取り戻すことが確実な場合には休眠としておきます。

〇後継者が見つかるまで休眠させておく
現経営者では会社活動を継続することはできないけれども、後継者が現れれば活動再開が可能な場合は休眠にしておきます。このケースでは、活動を再開するにあたっては事業内容が変わることが多いです。

〇若すぎた起業(会社設立)
起業するのが若すぎて失敗するというケースがあります。しかし、若いので再起が十分可能な場合には会社を休眠させておくのがいいです。

最近では比較的会社の設立も簡単で、しかも手続に関する諸費用も安価になってきたとはいうものの、やはり会社の新規設立は相応の手間と費用が掛かります。そこで、活動再開が見込まれる場合には休眠という選択するのです。

◆税務署への届けと税務申告をする

会社を休眠する場合には「税務署」「都道府県税事務所」「市役所(町村役場)」へ届けをしなければなりません。休眠中の会社は通常の会社とは扱いが異なる場合があるからです。

事業年度ごとの税務申告(法人税、都道府県民税、市町村民税)も必要です。会社(法人)は個人と違って税額がゼロでも税務申告が必要なのです。

◆登記も必要

休眠をしたという登記は不要です。しかし、役員の任期満了に伴う改選の登記は、役員の顔ぶれに変わりがなくてもしなければなりません。これをしていないと過料(反則金のようなもの)が代表者個人に科されます。

◆活動の再開

活動を再開する場合の登記は不要ですが、税務署への届けは必要です。当然、税務申告も必要で活動再開後は課税もされます。

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★ほとんどの休眠会社は「清算手続をしていない会社」

世の中には休眠会社が数多くありますが、そのほとんどが本当の意味での休眠会社ではなく清算手続をしていないだけです。活動再開の見込みはまったくなく、所定の税務申告と登記もしていません。

清算手続や税務申告を長期間していない場合にどのようなことが起こるかは、このブログで再三説明しているとおりです。法律を守らない会社が、法律を論拠に攻められても、法律は守ってはくれません。

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