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食堂で隣り合わせに座った男は、" I'm Jim, nice to meet you! " ( 僕はジムと言います、よろしく! )と言った。
グレッグも、 " I'm Greg, nice to meet you, too! " ( 僕はグレッグです、僕の方こそよろしく! )と言って、手を差し出した。
ジムは、以前テレビでアパラチアン・トレイルの番組を見たことがあって、そのことが頭の中にあったようで、どこかで自分を見つめ直したいと思ったとき、このトレイルのことが、真っ先に胸に浮かんだようだ。
自分のことを、会社ではキャリアだと思っていた。ヨーロッパに出張で行く時など超音速旅客機コンコルドに乗っていた。いろんなプロジェクトを生みだし、会社の業績に貢献していた。
仕事はやり甲斐があったし、自分には天職に思えた。何より仕事が気に入っていたし、毎日が楽しかったのである。
会社の経営がうまくいっていないのは知っていた。
それだからと言って、他の人がクビになっても、自分は最後まで残れると思っていたのである。
クビになってみて、人格のすべてが否定されたような気がした。彼の能力からして、他の会社が声をかけることはあり得ることだった。ヨーロッパの会社でも、彼を招んでくれるはずだ。
人生で初めてと思える挫折感を味わっていたのである。気が滅入って何もできなかった。当然家の中でも、荒れた気持ちでいた。このままでは、すべてが崩壊に向かう気がして、何もかにもがわからなくなる前の今だったら、自分を取り返せるかもしれないと、とにかく外に出て考えようと家を後にしたのである。
妻と話しあって、しばらく何処かに行ってみたいと言ったとき、妻の方も、それがいいかもしれないと賛成してくれた。 目指す方向は、アパラチアン・トレイルだったのである。
バックパックに、必要だと思えるものをコンパクトに詰め込んだ。テント、シート、寝袋、衣類、雨具、食品、救急医療品などを荷造りして家を出た。
" I knew the hardest, steepest part of the trail is up north, in Maine, so I wanted to get the hardest part out of the way first. " ( トレイルの最も厳しい、そして険しいところは北のメインだということを知って、最も厳しいところから始めようと思ったのです ) と言った。
一応のルートは妻にも知らせていて、一ヵ月後にはどこそこの街に立ち寄るとかの至ってあいまいな旅程 ( itinerary )を家に残してきた。
家を出るときには、世間から区切りをしたい気持から携帯電話やカメラを持って出なかった。唯一妻と連絡をとる方法は、家から送られて来るかもしれない郵便局止めの手紙だけだったのである。何月何日ごろに、その街に着くだろうという極めて当てにならないような旅程だったのである。
手紙が来なければ、それはそれで仕方がないと彼は思っていた。
メインで山に入ってから、約一か月、ようやく最初に休養を取ることになっていた町にたどり着いた。それがこの町だったのである。
妻から分厚い手紙が局留めで着いていた。彼の体を気遣う内容で、家のことは心配ないこと、何か困ったことがあったら知らせてほしいことなどが書かれていた。それにお守りが入っていた。それをバッグの中から取り出しグレッグに見せたとき、初めて笑った。
" I wanna stay overnight here. " ( この町で今夜は泊るつもりです )と言った。
食事を終えたらホテルかホステルか民宿を探してみますと言っていた。この町は、ハイカーたちが、一時立ち寄ることで有名な町のようで、ガイドブックにも載っているとのことである。
何より風呂に入りたい、伸びきったひげを剃り落とし、下着を変え、カサカサ音を立て潜りこんでくるネズミたち、それを狙ってやってくるヘビの恐怖に脅えないで、ぐっすり眠りたいと言った。
町ですることはたくさんあった。
そんな人がたくさんいました
街に降りて来た時に待ち合わせして、家族とモーテルに泊まり
絆を強めて また山に戻って行ってました
色んな人がいました
思い出します
いい番組でした
文明的なことは何もありません。
過酷な状況の中で、なんとかサーバイブしようとする人間がここにいます。
何か共感しますね。
再放送があれば見てみたいですね。
「リストラ」とは無縁だったジムさんの気持ち
世の中の厳しさを感じます。
昔の日本は年功序列でしたが
今ではそんな神話は通用しなくなりました。
生きていくのが困難になりました。
物質的には裕福になったけれど精神的に豊かになったかは疑問です。
山を超え、激流を渡り、熊に追われ、毒蛇に脅かされて皆さん歩いています。
時に食べ物がなくなりキノコを採ったり、野草を食べたりしながら凌いでいます。
ここにやってくる人たちは、人生の何かにチャレンジしているようです。