鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

盗賊団

2010-10-31 23:48:57 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
ウミネコからカタクチイワシを奪うトウゾクカモメ 以下すべて 2010年10月 北海道十勝沖)


 十勝沖15km、水深およそ50mの海域で、イワシまき網船団と出会った。「八戸の船だ」、船頭が教えてくれる。魚群を取り囲んで、その包囲網を徐々に狭めてゆく漁法だが、ちょうど水揚げの最中で、船団を取り巻くように数千羽のカモメ類が海面に空中に犇めいている。少し前までオオセグロカモメとウミネコばかりだったカモメ類も、秋の渡りが本格化した今ではセグロカモメが中心となり、カモメやミツユビカモメの姿も散見される。それにしてもすごい数だ。

イワシまき網船団に群がる海鳥(セグロカモメほか)
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 「ギャー」と叫び声を上げながら、1羽のウミネコが我々の船の方へ飛んで来た。その後方からもう1羽、黒い鳥の影が近付いて来る。サイズはウミネコより少々大きいだろうか。トウゾクカモメだ。ウミネコは小回りを利かせながら、トウゾクカモメの執拗な追撃を交わそうとするが、トウゾクカモメも器用なものでウミネコの背後をぴったりマークして離れない。ウミネコはついに戦利品のカタクチイワシを嘴から放してしまった。次の瞬間、イワシがトウゾクカモメに咥えられていたのは言うまでもない。
 目が慣れてくると、周辺には数十羽のトウゾクカモメがおり、似たような光景がそこかしこで繰り広げられていることに気付いた。攻撃されるカモメ類の大部分は、ウミネコ、ミツユビカモメ、カモメなど、自分と同サイズかそれよりも小さい種類であった。多数派のセグロカモメは、自分よりかなり大ぶりな分、襲いにくいのだろうか。それでも、やはり大型のオオセグロカモメ幼鳥にアタックをかけ、イワシを分捕っている猛者もいた。また、必ずしも1対1の闘いではなく、複数羽で追い回すのも珍しくなく、5羽が寄ってたかって1羽のカモメを追い回す、「集団追い剥ぎ」のようなことまでしていた。奪取に成功したところで、魚は一尾しかないと思うのだが…。


集団強盗!?(トウゾクカモメカモメ
1羽のカモメを、5羽のトウゾクカモメが執拗に追いかける。
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強奪の瞬間(トウゾクカモメオオセグロカモメ

カタクチイワシを咥えたオオセグロカモメ幼鳥を下方から攻撃
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耐えかねて魚を放してしまう
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トウゾクカモメがすかさずキャッチ。
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 トウゾクカモメの攻撃は、中々にしつこい。空中ではカモメ類の旋回や反転をものともせず、後ろや下から追跡と攻撃を続ける。攻撃を避けようと着水すると、今度はその上空でホバリングしながら威嚇、あるいは一緒に着水して自身の翼や体でカモメ類を抑え込むような行動もあった。そして、近距離で観察するトウゾクカモメの脚の爪は非常に鋭かった。よくトウゾクカモメ類はシルエットや飛び方、色彩などがタカやハヤブサといった猛禽類に擬態しており、海鳥はそれらの猛禽類に襲われたと勘違いして獲物を放してしまうと言われるが、眼前の熱い闘いを見ていると、擬態などではなく、攻撃力の非常に高い鳥であることがわかる。


真上からの攻撃(トウゾクカモメウミネコ
着水したウミネコを、真上からホバリングしながら襲い続ける。背後はセグロカモメとカモメ。
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着水してもなお(トウゾクカモメミツユビカモメ
水面に降りて難を逃れようとしたミツユビカモメに、トウゾクカモメがなおもしつこく食い下がる。
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 ミツユビカモメなどカモメ類の南下群とともに北海道近海に現れたこのギャング達は、一部は冬の銚子沖でミツユビカモメを襲っていることもあるが、主群はハシボソミズナギドリやオオミズナギドリに付き従い、ニューギニアやオーストラリア近海まで移動するようである。そこでも追い剥ぎの日々を送り、春、再び太平洋を北上して、北極圏の繁殖地を目指す。まさに世界を股に掛けた「盗賊団」である。


トウゾクカモメ(背後はセグロカモメ
個体や齢による羽色の変異が大きく、それがまた面白い。
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トウゾクカモメの飛翔
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(2010年10月31日   千嶋 淳)



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは。 (Senzaki.M)
2010-11-01 19:25:41
こんばんは。
この光景・写真はすごいですね!羨ましい…。

ところで十勝ではただトウゾクの幼鳥はご覧になったことがあるでしょうか?
実は僕は意識しはじめてから少なくとも道央と道南では一度も見たことがありません。
今年を除くと、ただトウゾクの観察個体数自体たぶんそんない多くはない(多くても年間数十~100くらい)のですが、十勝を中心とした道東ではどうなのかと気になるところだったので質問させていただきました。クロトウの幼鳥はいっぱいいるのですが…。
こんにちは。 (ちしま)
2010-11-02 14:12:39
こんにちは。

トウゾクの幼鳥というと、「Skuas and Jaegers」のPlate5にあるような、雨覆や肩羽の各羽にバフ色の羽縁があって、全体的に一様な感じのヤツですね。トウゾクの年齢識別に真面目に取り組んでいないのではっきりしませんが、確かに見たことない気がしますね。十勝の沖をちゃんと見出したのは今年からで、まだトウゾクの観察数が少ないですが、道東はタイミングが合えば、相当数入るはずです。以前、台風の数日後に海岸に行ったら、スコープで見える範囲に1000羽以上がいて驚いたことがあります(8月下旬だったかな)。

数年前に通年の調査を行った根室海峡では、7~11月に出現し、8,9月には非常に多かったです。当時の写真を少し見返してみましたが、大部分が成鳥かそれに近い羽衣のようで、「幼鳥?」と思った個体も飛翔写真を見ると風切に世代の異なる羽が混在しており、前年以前の生まれでした。

幼鳥は渡りのコースや時期が異なるのでしょうか?興味深いですね。
こんばんは。ご丁寧な回答、ありがとうございます。 (Senzaki.M)
2010-11-02 18:52:33
こんばんは。ご丁寧な回答、ありがとうございます。

やはりご覧になったことがないですか…。とすると北海道の太平洋側ではどこもそのような感じと考えても良さそうですね。
幼鳥は渡りのコースや時期が非幼鳥と異なるんでしょうか…。若い個体の数から考えて幼鳥だけが少ないというのは変な気がするので、おっしゃるように幼鳥は渡りのコースや時期が非幼鳥と異なるんでしょうか…。

道東はトウゾクいっぱいで羨ましいです。スコープで見える範囲で1000羽以上とはどんな感じだったんでしょう!!
一般的には良いことなのかもしれませんが、それにしても良い台風が来ないですね…。
すみません。4文目の「幼鳥は渡りのコースや時期が... (Senzaki.M)
2010-11-02 18:56:12
すみません。4文目の「幼鳥は渡りのコースや時期が非幼鳥と異なるんでしょうか…。」という文はなかったことにしてください。

お恥ずかしい限りです…。

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