All Photos by Chishima,J.
(クマゲラ・メス 以下すべて 2009年9~10月 北海道河東郡音更町)
(日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」168号(2009年10月発行)より転載 一部を加筆・修正)
一大パノラマを堪能したら、折りたたみ椅子を広げ、コーヒーでも飲みながら優雅にタカの飛来を待とう。タカはどの方向からもやって来るが、展望台の北西にあるUHBの赤と白のテレビ塔辺りで上昇気流を掴んで旋回・上昇し、南~南西方向に流れて行くことが多い。上昇気流の発生している場所ではたいてい数羽のトビが旋回しているので、それを目印にすると良い。時間帯については不明な点も多いが、8~10時くらいの午前中の早い時間に動きが活発なようだ。また、この時間帯だと上昇気流が不十分なのか低空を飛ぶ個体が多く、近距離で観察できる。テレビ塔の方ばかり気にしていると、いつの間にか南側斜面から上昇してきたタカが目線の高さを飛んでいることもあるので、注意したい。種類と季節性は調査中だが、ノスリとハイタカが多く、ハチクマは9月下旬、チゴハヤブサは10月上旬まで観察され、ノスリやハイタカ属の渡りはそれ以降も続くようである。
ハイタカ・幼鳥
周囲の林にはカラ類やエナガ、ヒヨドリ、カケスなどの姿も多い。一年中見られる留鳥たちだが、普段は専ら針葉樹を好むヒガラが数羽、カシワの枝先に集まってから南に飛び出して行くのを見たりすると、「留鳥」といえど渡っているのだなと実感させられる。セキレイ類やツバメ類、ヒバリなど、明らかに渡り途中の鳥が上空を通過して行くこともある。何が出るかわからないのが渡り観察の魅力。クマゲラが目線の高さを飛び過ぎた数時間後に、タンチョウのつがいが眼下を飛翔した朝もあった。鳥ではないが、冬のための貯食に忙しないエゾリスの姿も目立つ。
エナガ(亜種シマエナガ)
カケス(亜種ミヤマカケス)の飛翔
繁殖期(5~6月)についても簡単に触れておく。展望台から奥に進むと未舗装の林道となり、筒井ホテルの方に抜ける道と長流枝方面へ続く道があるが、そのいずれもセンダイムシクイやキビタキ、ヤブサメ、コルリなど森林性の小鳥が多く、観察に適している。十勝では少ないイカルが、ここでは比較的多く生息している。「キキココキー」の朗らかな囀りや、アカゲラを弱くしたような「キョッ」という地鳴きが聞こえたら、梢を注意深く探してみよう。所々にある伐採地やカラマツ幼齢林などの明るい環境では、ホオジロやビンズイが見られるだろう。数は非常に少ないがエゾライチョウも生息しており、運が良ければ、ばったり出会うこともある。一帯はチョウ類をはじめ昆虫の豊富な場所でもあるので、鳥の活動が一段落した日中には、それらの姿を追い求めるのもまた楽しい。
繁殖期の鳥で特筆すべきは、展望台からのヤマシギ観察である。日没前後、「キチッ、ブーブー」と素っ頓狂な声で鳴きながら飛ぶヤマシギは、十勝のあちこちで見ることができるが、この場所で面白いのは、ヤマシギが眼下の山麓から斜面沿いに飛んできて目線の高さを越え、山側へ飛んで行くことである。その迫力は、5月の広尾ツアー(2回目)に参加された方は体験いただけたと思う。夜明け前後には林道に降りて採餌している姿を見ることもある。
周辺には十勝川白鳥護岸、エコロジーパーク、千代田新水路など良好な探鳥地も多い。季節や目的に応じて、それらと組み合わせての探鳥も良いだろう。十勝川温泉で日帰り入浴や足湯(無料)に浸かるのも一興だ。
繰り返しになるが、当地でのタカの渡りは小規模なもので、時間をかけても出会えない日があるかもしれない。しかし、十勝平野の眺望を楽しみながらコーヒーやお茶を飲み、静かに渡り行くタカとの一期一会をゆったりと待つ「スローな鳥見」の時間を持てることは、ある意味最高の贅沢ではないだろうか。そして、このような贅沢を享受できる場所は、十勝管内にまだ何か所もあるはずである。
メジロ
<アクセス>
帯広から自家用車で20分、または帯広駅バスターミナルから十勝川温泉線のバスで約30分。バスの場合は十勝川温泉から更に徒歩約20分。
<おすすめの時期と鳥>
9~10月(タカの渡り) 5~6月(森林性の小鳥、夜のヤマシギ) 6~8月(チョウほか昆虫類)
<注意事項>
①トイレは山麓の十勝ヶ丘公園、または温泉街の公衆トイレやコンビニで利用可能。
②食糧は温泉街にコンビニや飲食店があるほか、木野や札内、帯広市街も近い。
③宿泊施設は温泉街周辺に多数あり。
④展望台は好天の日や週末には観光客が多い。見晴らしの良い場所を占拠しないように。
⑤林道には走り屋の車が多い。走行時、駐停車時には十分な注意を(特に後者)。
(完)
(2009年10月2日 千嶋 淳)
10月19日の追記:上記原稿執筆後は、あまり頻繁に観察に行けていないこともあって、タカは種、個体数とも少ない状況が続いている。展望台増設の工事が始まったことも影響しているかもしれない。それでも、早朝を中心にアトリやカワラヒワ、オオハクチョウなどが群れをなして渡るのが観察され、当地がやはり鳥の渡りのルート上にあることを示唆している。
オオハクチョウ