鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

130727 十勝沖海鳥・海獣調査

2013-07-29 22:32:02 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
海面から飛び立つオオトウゾクカモメ 以下すべて 2013年7月 北海道十勝沖)


 今年度は基本的に月1回ペースで調査を行なっていますが、7月は過去にウミスズメの親子やカンムリウミスズメ、パフィン類等が観察されていることから、2回目の調査を27日に実施しました。午前6時、深い霧と雨に閉ざされた漁港から、船頭さんの「最近は岸近くに海鳥が多い」という言葉を励みに出港です。幸い、絶望的な視界は港を出るとすぐに解消され、10分も経たぬ内にフルマカモメやコアホウドリ、ウトウ等が続々と現れます。水深100m付近で沖合に雨雲があり引き返したため、沖の海域を見ることはできませんでしたが、通常の調査かそれ以上に多くの海鳥と出会えた航海でした。理由はわかりませんが、多くの海鳥が通常より著しく沿岸に偏って分布していたようです。
 記録を未だ入力していないので優占種は不明ですが、100~200羽程度のラフト(浮遊集団)がいくつも浮いていて、やや沖側ではえりも方向から釧路方向へ、飛翔個体が川のように流れていたハイイロミズナギドリが最優占種だったと思います。ただ、「心理的な」優占種としてはコアホウドリがダントツだったかもしれません。いつもは沖合で、操業中の漁船等に群がっていることの多い本種が航海中常に1~数羽が視界の片隅を飛んでいるという状況は、この調査始まって以来のものでしたし、他の海域やフェリー航路でも経験したことのないものでした。
 もう一つ印象的だったのがカンムリウミスズメです。7月上旬に道東太平洋へ到達した本種は、この時期の常連ではあるものの大抵は数羽程度で、これまでの最高記録は2011年8月の11羽でした。今回、それを大きく上回る20羽が、僅か4時間弱の沿岸中心の調査で記録されました。興味深いのが例年ならこの時期、30~40羽余りが記録される霧多布沖では7月の2回の調査(NPO法人エトピリカ基金による)で少数しか確認されておらず、十勝沖では前回調査も含め、平年より多く観察されている点です。海水温や餌生物の分布といったカンムリウミスズメにとっての海況が、今年は十勝沖の方が適しているのかもしれません。例年ならばこの時期、クロアシアホウドリが優勢になるアホウドリ類が、依然として初夏からのコアホウドリ中心だったことも、海の状態が通常と異なることの裏返しかもしれません。例年と異なるといえば、カンムリウミスズメの顔、特に目先の羽は道東に達する頃には白くなっているのが大部分ですが、今年は目先やその下の広い範囲がだんだら状に黒っぽい個体が多く感じます。繁殖の時期やその前後の栄養状態等の変異と関連して、換羽のタイミングが通常と異なるのでしょうか。それにしても、本種の小ささや行動の機敏さには出会う度に驚かされます。今回も8羽の群れと遭遇した時は互いにすぐ近くでしたが、船から逃避しようと浅い潜水と浮上を繰り返していました。浮上といっても息継ぎのために頭部だけを一瞬出し、背部が出る前に飛沫だけを残して再度潜水を繰り返す様は、当初イワシの小群でもいるのかと思ったほどでした。僕らが「イワシモード」と呼ぶ(?)、この行動になったら深追いは厳禁。やや遠巻きに停船していれば、徐々に落ち着きを取り戻して本来の生態を垣間見せてくれます。
 カンムリウミスズメやコアホウドリの、例年とは違う分布を意識しながらもオオミズナギドリやアカアシミズナギドリが現れ、ウミネコも数を増してきた海上に秋の気配を感じながら船を降り、番屋でカジカ汁やいかめしを味わわせていただき、昼前には解散しました。参加・協力いただいた皆様はお疲れさまでした。トップの写真はオオトウゾクカモメです。南極大陸で繁殖し、初夏から秋にかけて少数が北日本の海域へ飛来します。数羽のウミネコとともに海上に浮いているのを、ごく間近に観察できました。


カンムリウミスズメ
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漁港の岸壁で育つオオセグロカモメ
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確認種:シノリガモ コアホウドリ クロアシアホウドリ フルマカモメ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ ハシボソミズナギドリ アカアシミズナギドリ カワウ ウミウ キアシシギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ ウミネコ オオセグロカモメ オオトウゾクカモメ ウミガラスsp. カンムリウミスズメ ウトウ ハシボソガラス ハシブトガラス キセキレイ 海獣類その他:ネズミイルカ サメ類

*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部が日本財団より助成を受けて、漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部との連携のもと行われているものです。


(2013年7月29日   千嶋 淳)



130711 十勝沖海鳥・海獣調査

2013-07-13 22:13:22 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
カンムリウミスズメ 以下すべて 2013年7月 北海道十勝沖)

 7月1回目の調査は6日を予定していましたが、強いうねりのため延期となり、次の候補日だった10日も雨のため中止、3度目の正直を期待しての出港となりました。午前6時。港から望む内陸側は青空が広がり、木々の緑が目に眩しくいざ盛夏という風情ですが、反対側の海上は厚い霧に覆われているようで、些か不安を抱えながら沖を目指します。案の定、視界はすぐに200m程度まで悪化し、飽和した水滴が髪や調査器具を濡らします。それでもウトウがぱらぱら現れ始めたかと思うと、舳先に4羽の小さな海鳥。カンムリウミスズメです!日本周辺の海に固有な、謎に包まれたこの海鳥を十勝の海で迎えるのも今年で4シーズン目。「おかえり」と思わず言いたくなります。カンムリウミスズメはこの後も見られ、合計7羽を確認できただけでなく、羽衣についてもいくつかの興味深い示唆を得られたのは大きな収穫でした。これから10月中旬まで、道東太平洋の海では彼らを観察することができます。
 沖合の、水深300m地点に達した時、奇跡が起こりました。乳白色の霧のベールが突然消え、水平線までの広い視界が姿を現したのです。そして、途絶えることのないハイイロミズナギドリの川。海面で休む100羽前後の群れも随所に点在しています。そして、船の近くに降り立つクロアシアホウドリの巨体や、潜水・浮上を繰り返すイシイルカの群れ。7~9月の高海水温期に特有なマンボウも、至る所で畳より大きいのではないかという魚体が漂っていました。マンボウに見とれていると、海上を飛ぶ数匹の黄色いトンボ。南方から飛来し、世代交代を繰り返しながら日本列島を北上するウスバキトンボが、ついに道東太平洋まで達したのです。先月まではいなかった、暖かい海の動物たちの訪れに確かな夏の盛りを実感する一方、南下の途上にあるヒレアシシギ類やトウゾクカモメの姿も観察され、早くも秋の気配を帯び始めた北の海でした。


水浴びするクロアシアホウドリ
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 沿岸に戻ると、再び深い霧に包まれましたが、この時期には珍しいウミガラスやケイマフリに歓声を上げつつ、港のテトラポッドに集まり始めたウミネコやウトウを眺め、帰港しました。下船後は番屋で、トキシラズのチャンチャン焼きという、何とも贅沢な一品を味わいながら談笑し、本日を締めくくりました。「3度目の正直」という言葉は、嘘ではなかったようです。


ケイマフリ
目の周囲の白斑が小さく、上面の黒色は灰色みを帯び、下尾筒周辺は白いことなどから若鳥と思われる。
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確認種:スズガモ シノリガモ クロガモ オオハム コアホウドリ クロアシアホウドリ フルマカモメ ハイイロミズナギドリ ハシボソミズナギドリ ヒメウ ウミウ キアシシギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ ウミネコ オオセグロカモメ トウゾクカモメ ウミガラス ケイマフリ ウミスズメ カンムリウミスズメ ウトウ トビ ハシボソガラス ハシブトガラス イワツバメ 海獣類その他:ネズミイルカ イシイルカ マンボウ ウスバキトンボ


(2013年7月11日   千嶋 淳)


*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部が日本財団より助成を受けて、漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部との連携のもと行われているものです。


霧多布沖の海鳥・海獣⑱シャチとイシイルカ:野生のドラマ(12月3日)

2013-07-13 22:03:53 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
イシイルカ(左)に接近するシャチと上空から追随するフルマカモメ 以下すべて 2012年12月 北海道霧多布沖)
NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第6号(2013年3月発行)掲載の「2012年度霧多布沖合調査(その2)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 夜明け前に出港。20分程経ってホカケ岩海域で御来光を拝みました。遠く望む阿寒や斜里の山々はすっかり白く、ウミスズメやミツユビカモメ、ウミガラス類等が卓越する鳥類相も、初冬に特有のものです。南へ帰る途中でしょうか、数頭のザトウクジラが潜水と浮上を繰り返し、その大きさと存在感に圧倒されていると今度はシャチが現れました。
 シャチの向かう先に多数の水飛沫…。イシイルカの群れです。約50頭の群れを、シャチが包囲するように徐々にその距離を縮めます。イルカは物凄いスピードで分散し、中には船のすぐそばまで来るものもいました。大黒島を背にシャチとイルカの距離が詰まり、フルマカモメがそれに追随するのを見た時はいよいよハンティングかと甲板も緊張感に包まれましたが、結局目で見える範囲では何事もなく、両者とも姿を消しました。イシイルカが必死に逃げ切ったのか、シャチに本気で襲う気が無かったのかわかりませんが、眼前で繰り広げられた迫真の野生のドラマの一幕、更にはラッコ、ザトウクジラ、シャチ、ウミオウム…とベーリング海のような出現種のラインナップに霧多布の海の豊饒さを感じながら今年度最後の調査を終え、船を降りました。


ミツユビカモメ
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リクゼンイルカ型イシイルカ
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(2013年3月15日   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの


霧多布沖の海鳥・海獣⑰ウミバト(11月22日)

2013-07-10 19:40:22 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
若鳥と思われるウミバト 以下すべて 2012年11月 北海道霧多布沖)
NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第6号(2013年3月発行)掲載の「2012年度霧多布沖合調査(その2)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 季節の変わり目らしく出港直後から風があり、遅い時間には白波が立つ位の強風でした。そのため外洋へ出ることはできず浜中湾内を、行ったり来たりしながらの調査となりました。それでも海ガモ類や沿岸性のウミスズメ類等を中心に多くの海鳥が出現し、強い風のせいかフルマカモメも岸近くまで飛来して、波立つ海面に足踏みするように飛びとどまり、餌を探す姿も見られました。
 ウミバトを21羽確認できたのもこの日の成果でしょう。狭い範囲の調査で多少の重複はあるかもしれませんが、かなりの数のウミバトが浜中湾にいたのは確かです。羽色や翼の白斑の大きさは個体差が大きく、その中でも興味深かったのは冒頭の写真の鳥です。上面の黒や灰色の部分が茶色みを帯び、雨覆は羽先のみが僅かに白く、首の前面から胸にかけてはうっすらと鱗模様がありました。また、嘴はかなり短く感じました。これらの特徴からこの鳥は、その年生まれの若鳥だった可能性があります。繁殖期以外を生涯海上で過ごす海鳥には、年齢や性別による羽色の違い等も不明点が多く、近距離で画像の得られる小型船の調査でこそ貢献できる分野かもしれません。


コクガン
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波間で足踏みするように探餌するフルマカモメ白色型
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(2013年3月15日   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの


霧多布沖の海鳥・海獣⑯アカアシミズナギドリ(10月8日)

2013-07-09 16:47:03 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
アカアシミズナギドリ 以下すべて 2012年10月 北海道霧多布沖)
NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第6号(2013年3月発行)掲載の「2012年度霧多布沖合調査(その2)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 秋晴れの爽やかな海上から眺める陸地は緑が褪せ、褐色みが強くなっています。沖に出ると冷たい風が吹き、時に大きく揺れる舳先からは、風を掴んで海面付近から遥か高くまでダイナミック・ソアリングを繰り返すミズナギドリ類やコアホウドリにくわえ、ミツユビカモメやアビ類も多く見られ、確かな季節の移ろいを感じました。
 ミズナギドリ類は大半がハイイロミズナギドリでしたが、近年まで迷鳥とされたミナミオナガミズナギドリも11羽出現し、昨年の結果と合わせてこの時期の道東太平洋に定期的に飛来しているのは確かです。他にはアカアシミズナギドリも3羽と少数ながら出現し、船のすぐ脇を飛んでくれました。本種はニュージーランドからオーストラリア周辺の島々で北半球の冬(向こうでは夏)に繁殖し、その後赤道を越えて北半球まで飛来するハシボソやハイイロといったミズナギドリ類と似た分布と渡りのパターンを持ちます。ところが、霧多布ではそれらミズナギドリ類のような数百、数千規模の群れは見られず、1回の調査で数羽が観察される程度です。以前、羅臼沖の根室海峡で夏の終わりから秋にかけて本種の大きな群れを見たことがあります。ロシアでの研究によると本種の大群が春に日本海南部にやって来て、そのまま北上して8月頃には宗谷海峡からオホーツク海に入り、秋には太平洋から繁殖地へ向けて南下するそうです。羅臼の群れはその一部だったのかもしれません。地図上で見るとごく近い霧多布と根室海峡ですが、海鳥の種類によってはまったく違う海なのかもしれません。海上調査が各地で盛んになれば、こうしたミクロな分布の違いも明らかになると期待されます。


ミナミオナガミズナギドリ
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陸地近くを飛ぶ2羽のトウゾクカモメ
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(2013年3月15日   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの