All Photos by Chishima,J.
(海面から飛び立つオオトウゾクカモメ 以下すべて 2013年7月 北海道十勝沖)
今年度は基本的に月1回ペースで調査を行なっていますが、7月は過去にウミスズメの親子やカンムリウミスズメ、パフィン類等が観察されていることから、2回目の調査を27日に実施しました。午前6時、深い霧と雨に閉ざされた漁港から、船頭さんの「最近は岸近くに海鳥が多い」という言葉を励みに出港です。幸い、絶望的な視界は港を出るとすぐに解消され、10分も経たぬ内にフルマカモメやコアホウドリ、ウトウ等が続々と現れます。水深100m付近で沖合に雨雲があり引き返したため、沖の海域を見ることはできませんでしたが、通常の調査かそれ以上に多くの海鳥と出会えた航海でした。理由はわかりませんが、多くの海鳥が通常より著しく沿岸に偏って分布していたようです。
記録を未だ入力していないので優占種は不明ですが、100~200羽程度のラフト(浮遊集団)がいくつも浮いていて、やや沖側ではえりも方向から釧路方向へ、飛翔個体が川のように流れていたハイイロミズナギドリが最優占種だったと思います。ただ、「心理的な」優占種としてはコアホウドリがダントツだったかもしれません。いつもは沖合で、操業中の漁船等に群がっていることの多い本種が航海中常に1~数羽が視界の片隅を飛んでいるという状況は、この調査始まって以来のものでしたし、他の海域やフェリー航路でも経験したことのないものでした。
もう一つ印象的だったのがカンムリウミスズメです。7月上旬に道東太平洋へ到達した本種は、この時期の常連ではあるものの大抵は数羽程度で、これまでの最高記録は2011年8月の11羽でした。今回、それを大きく上回る20羽が、僅か4時間弱の沿岸中心の調査で記録されました。興味深いのが例年ならこの時期、30~40羽余りが記録される霧多布沖では7月の2回の調査(NPO法人エトピリカ基金による)で少数しか確認されておらず、十勝沖では前回調査も含め、平年より多く観察されている点です。海水温や餌生物の分布といったカンムリウミスズメにとっての海況が、今年は十勝沖の方が適しているのかもしれません。例年ならばこの時期、クロアシアホウドリが優勢になるアホウドリ類が、依然として初夏からのコアホウドリ中心だったことも、海の状態が通常と異なることの裏返しかもしれません。例年と異なるといえば、カンムリウミスズメの顔、特に目先の羽は道東に達する頃には白くなっているのが大部分ですが、今年は目先やその下の広い範囲がだんだら状に黒っぽい個体が多く感じます。繁殖の時期やその前後の栄養状態等の変異と関連して、換羽のタイミングが通常と異なるのでしょうか。それにしても、本種の小ささや行動の機敏さには出会う度に驚かされます。今回も8羽の群れと遭遇した時は互いにすぐ近くでしたが、船から逃避しようと浅い潜水と浮上を繰り返していました。浮上といっても息継ぎのために頭部だけを一瞬出し、背部が出る前に飛沫だけを残して再度潜水を繰り返す様は、当初イワシの小群でもいるのかと思ったほどでした。僕らが「イワシモード」と呼ぶ(?)、この行動になったら深追いは厳禁。やや遠巻きに停船していれば、徐々に落ち着きを取り戻して本来の生態を垣間見せてくれます。
カンムリウミスズメやコアホウドリの、例年とは違う分布を意識しながらもオオミズナギドリやアカアシミズナギドリが現れ、ウミネコも数を増してきた海上に秋の気配を感じながら船を降り、番屋でカジカ汁やいかめしを味わわせていただき、昼前には解散しました。参加・協力いただいた皆様はお疲れさまでした。トップの写真はオオトウゾクカモメです。南極大陸で繁殖し、初夏から秋にかけて少数が北日本の海域へ飛来します。数羽のウミネコとともに海上に浮いているのを、ごく間近に観察できました。
カンムリウミスズメ
漁港の岸壁で育つオオセグロカモメ
確認種:シノリガモ コアホウドリ クロアシアホウドリ フルマカモメ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ ハシボソミズナギドリ アカアシミズナギドリ カワウ ウミウ キアシシギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ ウミネコ オオセグロカモメ オオトウゾクカモメ ウミガラスsp. カンムリウミスズメ ウトウ ハシボソガラス ハシブトガラス キセキレイ 海獣類その他:ネズミイルカ サメ類
*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部が日本財団より助成を受けて、漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部との連携のもと行われているものです。
(2013年7月29日 千嶋 淳)