Tomotubby’s Travel Blog

Tomotubby と Pet の奇妙な旅 Blog。
でもホントに旅 Blog なんだろうか?

虎豹別墅の福禄寿 (Singapore)

2004-07-12 | Tiger Balm Gardens
ここからは日陰の少ない園内を膨大な量のセメント像をウォッチする覚悟です。たっぷり水分補給を行ったはずの Tomotubby でしたが、お目当ての地獄めぐりは現在修理中で見学できないことを知り、意気消沈、すっかり萎んでしまいました。足取り重く先へ進みます。

ガーデンの敷地は斜面にあり段々になっていることは述べましたが、休憩所のある段には池があり、その中には、仏像を載せた塔、橋、中華風の東屋があります。いずれも極彩色仕上げですが、園内でも有数の「ごく普通の」ポートレート撮影スポットになっています。入場客は依然僅かなのですが、東屋をバックにポーズを取っている女性を目にしました。Tomotubby は池の中に亀を発見。園内では、様々な動物の像が見られますが、そういえば本当に動く生き物はここの亀くらいでした。


東屋

この段から一段上がる斜面に福・禄・寿の三体の神像が、少しずつ距離をおいて立っていました。「福」は繁栄、「禄」は富貴、「寿」は長寿を象徴しています。中国では、福・禄・寿の神様は三人で登場するのが普通です。「福」は黒々とした髭をたくわえ、福の字を沢山縫い取った服を着て、高官の姿をして、いつも中心にいます。「禄」も黒々とした髭をたくわえ、裕福そうな服を着た富豪の姿で、繁栄の象徴である赤ん坊やお金を抱いていることが多いです。有名な「西遊記」にも、孫悟空が人参果の木を生かす方法を探していた際に三人の神様が登場しています。
中国語では「禄」から「緑」が連想されるので「緑」の服を着ていることが多いようです。「寿」は長細い禿頭を持ち白い髭をたくわえ、寿桃を手に持つ老人の姿をしています。このトリオ・ザ・神様(Pet 君命名)の泥人形は中華料理店などでよく目にしますね。


福禄寿

そういえば Pet 君が TomotubbyPet's BoxRoom でご紹介していた北京郊外の巨大神像ホテル、天子大酒店も(なんと体長41.6m、世界最大の)福・禄・寿の姿なのでした。


天子大酒店

日本の七福神にも「福禄寿」という神様がいますが、こちらは三位一体なのか一人格で、外見はどう見ても頭の長い中国の「寿」の神様のようです。そのうえ、ちゃんと桃まで持っています。さらに話をややこしくしているのが、やはり七福神のひとり「寿老人」の存在です。こちらは白髪で普通のプロポーションの頭を持つ、杖をついた老人で、鹿を連れていたりします。中国の「福禄寿」の一人「寿」は日本の「福禄寿」と似ていて「寿老人」とは似ていない...いったいどこで捩れてしまったのか?ずっと謎だったのですが、杉原たく哉著「中華図像遊覧」(大修館書店)という本に、謎解きを発見しました。

まず「寿」の正体とは何か? 実は、夜空でシリウスに次いで二番目に明るい一等星、龍骨座のα星「カノープス」なのです。中国名は「寿星」、別名「南極老人星」。この星は南天の星なので、日本では、冬至の夜中に地平線ぎりぎりに見える星です(12月にハワイ島マウナ・ケアで星空観察したときは、時間が早すぎて見えませんでした)。中国では、長安、洛陽、開封など黄河流域にあった王朝の都がこの星を見ることのできる北限に違いありません。古来、中国では、春分の曙に「寿星」が見えれば天下安泰と考えられ、星は信仰の対象となりました。やがて「寿星」は老人の姿にシンボライズされたのでした。

ところがシンボライズされた老人の姿が二通りあったのです。

中国で最初に「寿星」の図像として登場したのは、白髪の、日本で言う「寿老人」の方でした。遅れて日本で言う頭の長い「福禄寿」の図像が登場します。勿論どちらも「寿星」のシンボルであって、中国で言う「福・禄・寿」の三神が、一つの人格に合一されたようなものではありませんでした。そして、後で登場した「寿星」の方が容貌にインパクトがある分、有名になってしまいました。

中国では、記号の持つ本来の意味が、発音という表現を通して、まったく違う意味を持つ記号に置き変わってしまうことがよくあります。例えば中華料理店に「福」という字が書かれた赤い紙が天地逆さまに貼られているのをよく目にしますね。福の逆は「災い」だから、何だか縁起の悪いイメージを持ちますがそんなことはありません(実は Tomotubby は、長い間、「災い転じて福となる」という諺だと思っていました)。中国においては、逆さまの福、つまり「福倒」は、福来たるを意味する「福到」と同じ発音なので、たいへん縁起がいいのです。

中国の旧正月には、家々で逆さまの「福」がよく飾られていますが、「福・禄・寿」の三神の描かれた図像「三星図」も同様によく飾られています。実は、このおめでたい「三星図」には、いろいろなヴァリエーションがあったのです。中には「福・禄・寿」の題を持つのに、頭の長い方の「寿星」ひとりだけしか描かれていないものがあります。福・禄はいないのですが「寿星」は鹿を従え、その傍らには何故か蝙蝠(こうもり)が飛んでいて、何だか物足りない感じの絵です。この絵の謎解きをすると、「福」が「蝠」と同じ発音で、「鹿」が「禄」と同じ発音であることから「福」と「禄」が全く別の生きものの姿としてシンボライズされたものだったのです。

さあ、おわかり頂けましたか?

中国から伝えられた「蝠・鹿・寿」の「三星図」に「福・禄・寿」の題名がつけられていたために、隠された意味を知らない日本人が、頭の長い方の「寿星」を「福禄寿」という名の一人の神様だと誤解して、その名を広めたのです。そして頭の長い「寿星」が「福禄寿」という名で呼ばれるようになったのです。同様に、鹿を従えた七福神の「寿老人」の出自も容易に想像できます。恐らくは、別の日本人が、白髪の古い方の「寿星」の出ている「蝠・鹿・寿」の「三星図」を見たのでしょう。彼には、それが「寿老人」の図像と認識できたのですが、隠された「蝠・鹿・寿」の意味までは理解できず、傍らに飛ぶ得体の知れない蝙蝠を削った図像を再生産してしまったのでしょう。

かくして中国では同一人物だった「寿星」が、異国の地で二人の別の神に分化して、日本全国津々浦々に広まったのでありました。

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