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ぼちぼち日記

大切な日々のこと

『殺人者の涙』

2009-07-01 12:48:00 | わたしの読書

『殺人者の涙』 アン=ロール・ボンドゥ 伏見操(訳)

読んでいる間中、ずっとずっと、孤独や悲しみ、虚しさに占領され続けた。
まさに、地の果てのような深い絶望の穴に、心が、飲み込まれてしまったかのようだった。

物語の舞台は、チリの最南端、太平洋の冷たい海にノコギリの歯のように食い込む地の果て。
誰も寄り付かないその土地に、ひっそりと暮す家族の元に現れたのは、
「天使(アンヘル)」「歓喜(アレグリア)」という名前の殺人者だった。
殺人者は、ただ、逃亡の旅を終わらせたいという理由だけで、いとも簡単に、
そこに暮していた夫婦を殺してしまう。残された息子・パオロ。
自分の年さえ知らない男の子が、生きるために選べる道は、たった一つ。
その両親を殺した殺人者と暮すことだけだった。。。

あまりに強烈な始まり方。
パオロへの愛情から、変わっていくアンヘルの心を、喜びを持って受け取ることすらできない
「虚しさ」が心を支配して、荒れ果てた荒野をさ迷い歩いているような読書だった。
途中、警察に追われるアンヘルとパオロが、きこりのリカルドと出会い、希望と、人間の生きる意味を
悟る場面に辿りついたときですら、その虚しさの霧は、晴れることがなかった。
そして、やはり訪れる悲劇。
なんと、救いのない物語だろう。。。リカルドの死を読んだとき、絶望の淵に突き落とされたような
気持ちになり、どうして、パオロは、あの時、海に飛び込まなかったのだろうかとさえ思った。

ところが、最後に、物語は一変する。
始まりからずっと、モノクロのイメージで、色も音もない世界だった物語が、最後、
大人になったパオロが、一人で、その地の果ての家に戻ってきたところで、一変するのだ。
送られてきた色とりどりの葉書、絨毯、洗いたてのカーテン、ろうそく。そして、本棚。
物語は、突然、色を身にまとい、温かい湯気を感じさせる。そして、流れるバッハ、こぼれる詩。
誕生した、小さな「天使」と「歓喜」。

最後の3行を読んだ瞬間、この物語のすべてを理解できたような気がした。
それは「、アンヘル・アレグリアという殺人者もまた、神の子だった」それを、心から理解できた瞬間。
突然、涙が溢れ、しばらく、涙が止まらなかった。
最後の3行で涙するという、なんともいえない物語。

また、殺された両親の血の上のテーブルで、パオロが、殺人者とスープを飲むシー
ンが強烈で、そのシーンを読んでから、ずっと、その画像が胸に突き刺さったままで
いたのだけれど、ラストで、それが、きちんと引き抜かれたことも印象的だった。
本当に、素晴らしいラストだ!

実は、このラストにたどり着くまで、
「たしかに、とても面白いけれど、どうして、こんな物語がYA本なんだろう?」
と思っていたのだ。
子どもに、こんな人殺しの本を読ませるのか?救いのない物語を読ませるのか?と。
でも、ラストを読んで納得。

ただ、私が息子に紹介するなら、最後まで読み込む力が、息子に備わった時かなと思う。
この凄いラストシーンまで、きちんと読むことができるようになったら・・・。
そうしたら、読んで欲しい。そして、考えてほしい。
罪について。正義について。人間の生きる意味について。
そして、感じてほしい。
人は、変わることができる、絶対に。ということを。


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10 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (マーガレット)
2009-07-01 23:48:01
読みましたね、こももさん。
めっちゃ泣いたでしょ。
私なんか最後嗚咽でした。

でも、これは、子どもの読むものじゃないと私は思います。これは強すぎます。うわべの暴力だけではないからよけいです。もっと成熟してからで十分ですよ。すごい本でした。
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Unknown (ぱせり)
2009-07-02 07:15:16
わたしもこの本読みました。
いきなりの残酷シーンでしたけど、わたしは嫌じゃなかったんです。民話っぽい、と思いました。
素晴らしいラストシーンでした。天使・歓喜、皮肉なんかじゃなかったですね。
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Unknown (jasumin)
2009-07-02 11:48:22
読みながら、何度も何度も心の中がムズムズしました。
残念でならないことがどんどん起こってしまって悲しくなりました。
私も、娘には薦めずに返却したのです。

でも、読んでよかったです。
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マーガレットさんへ (こもも)
2009-07-02 13:50:26
読みましたよ、マーガレットさん。
ラストまで、荒れ果てた私の心は、涙一つこぼすことができず、
それが、あのラストで、噴出しました。
めっちゃ、泣きました(笑)
頭痛にならない程度でしたけれど!

そうですね。子どもに、この本は、かなり覚悟がいると思います。
というか、あえて勧めたいと思わないかも。
でも、いつか読んで欲しいなーとは、思いました。
このラストを受容できる心が育ったら。ですね。

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ぱせりさんへ (こもも)
2009-07-02 13:56:17
読み終わった後、いつもおじゃましているブログを
全部まわって、あらためてレビューを読み、また泣きました(笑)

民話っぽい。あー。そうかも。
だから、あの最初のシーンから、私の心は痺れて
何も感じなかったのかもしれません。
それが、あのテーブルを壊すシーンで痺れから開放され
そして、ラストの三行です。

名前。皮肉なんかじゃなかったのですよね。
名前といい、テーブルといい、最初と最後が、一気につながる本って、好きです。
(内容とは、全く関係ありませんが)
ちょっとした快感。ちょっとした変態かも、私。
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jasuminさんへ (こもも)
2009-07-02 14:06:03
jasuminさんの一瞬前の悔しい思い、わかりました。
私も、あの幸せが、あのまま続いてくれることを
心から望んだんですもの。
リカルドの家族が、殺人者によって奪われたと
いう告白を読んだとき、それが叶わないだろう
な・・・という予感は、確実にしたのですけれど。
最後まで読んだ今も、あそこで止まっていたら
どんなに素晴らしかっただろうと思う私がいます。

私は、中学生一年生の頃、「殺人」に関する本を
かなりたくさん読んだ覚えがあるんですよ。
横溝正史、ナチスの本をかたっぱしから。
タブー視されていることに、興味がある頃だったのでしょうか。
でも、この本だけは、マーガレットさんのおっしゃるように、まだ薦められないかなと思いました。
「うわべだけの暴力じゃない。」
まさに、そこを受け止める心が育たないとですね。
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うわ~ (モリー)
2009-07-02 18:06:25
読みたい読みたい。
怖いの好きだもん。

こももさん、この間「サーカス象に水を」
図書館で借りて読みました。
こももさんのおっしゃる通り、おみごとな構成で一気に読み終え、ふう~っとため息、そのあとしばらくぼーっとしてましたよ。

怖いだけじゃない何かが、今回の本にもありそうですね。
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モリーさんへ (こもも)
2009-07-03 13:33:21
怖いの大好きなモリーさんに、「サーカス象・・・」を気に入ってもらえて良かった~
おまけに、ふ~とタメイキをつかせたなんて!
面白かったですよね!

でも、この本は、「サーカス象・・・」のようなドキドキや怖さは、正直、全く感じないのです。
ストーリー的には、感じてよいはずなのに、なぜか、感じないんですよ。
どうしてなのか、自分でも良くわかりません。
とにかく、心の中が、荒野のような感じになるのです。
是非、体験してみて下さい!
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Unknown (琴子)
2009-07-04 00:56:26
このお話、最初から強烈な設定だし、その情景を思い浮かべると、
その気持ちなんて推し量れないほど残忍なのに、
わたしもまったくいやだと拒否する気持ちはおきなかったのが
不思議です。
最後で救いがあった気がして。。。

昨日読み終えた、『告白』は、比べようがないほど
心が乱れたまま、気持ちが揺れています。
救いを感じなくて・・レビューを書く気になれないほどです。
友人が貸してくれたのでなければ、読まなかったと思う本でした。
そう思うと、児童書でくくられるものの、なんと
希望のあることか、と強く強く思ってしまいましたよ。
子どもにあえて差し出すことはないけれど、いつか
出会うなら、こちらに出会ってほしいと思いました。

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琴子さんへ (こもも)
2009-07-05 12:11:04
『告白』・・・。どんな物語だったのでしょう。
琴子さんをそんな気持ちにさせるなんて・・・
ちょっぴり、ストーリーに興味がわいたりして。

やはり、救いがあるというのは、例え、大人で
あっても嬉しいですね。
だから、児童文学は、どんな題名でも!!読もうかな
と思うのかもしれません。

この本、あえて差し出すことはしない・・・か。
そうかもしれませんね。
親が差し出す本じゃないかもしれません。
自分で読みたいと思う時期って、あるかもしれませんけれどね。


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