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『日本を滅ぼす教育論議』岡本薫

2007年01月09日 | 教育関連書籍

 

日本を滅ぼす教育論議 岡本薫.jpg


当教室の冬期講習も昨日で終わり、今日から間髪を入れずに通常授業が始まります。

冬期講習は、朝8時45分から夜の8時半まで。私VIVAは浪人や高3の大学受験英語しか教えておりませんので、空き時間があってこうして毎日ブログを続けさせてもらいましたが、他の先生方は、毎年のことですが…大変。

長時間、授業をしっぱなしで、ほとんど空き時間がないんですね。人気講師になると10枠以上の授業がびっしり組まれています。本当に超ハードスケジュール、ご苦労様です。生徒諸君もよくついて来た、頑張った。


さて、そんな状態で、ゆっくりニュースも吟味しておりませんでしたが、年末年始のあわただしい中で大きなニュースが流れました。

鳴り物入りで始まった教育再生会議、今月まとめる第1次報告で、ついに、ゆとり教育の方向転換を明確にするというのです!

細かくなりますが…、12月の再生会議総会で事務局側が提示した「骨子案」でゆとり見直しの文言が削除されていたことに委員が反発したそうです。その削減のばかげた理由が、「ゆとり教育を推進した歴代文部科学相、文相ら与党側に配慮」 だそうです。

役人や政治家のメンツのために教育があるんじゃない、何を言っているんでしょう、実に腹立たしい。

 

ゆとり教育は導入当時から、大失敗することは予見可能どころか自明の理でした。我々もメルマガなどでも何度も訴えました。本書にもあるように、アメリカ・イギリスですでに同様の改革が大失敗して、彼らの国を挙げて教育のやり直しにやっきになっていたのですから。

他にも失敗の要因はたくさんあり、ここでは繰り返しませんが、(総合教育に関しては、コラムにしてとりあげました。→ 【未履修とゆとり教育】 ) とにかく、すべて議論にすらなっていませんでした。本書はそれを見事に整理してくれています。


“ゆとり” とか“生きる力” といった抽象的な概念は、そもそも行政が口にする目標にはそぐわないと、最初から大きな違和感がありましたが、本書でも日本の議論の特徴としてさまざまな分析をして見せます。


また、例えば、心ある教育専門家が独自の調査をもとに「学力が低下している」とせっかく警鐘を鳴らしても、文部科学省は “していない” とか“意欲も学力の一つ” のような言い方をして、政策の失敗を絶対認めませんから、問題の所在が確認できません。学力が大幅に低下していることは、きっと10年くらい直接教えている現場の先生なら誰でも実感していたと信じています。反論のデータ自体も決定的に不足したままでした。

指導要領の問題にしても、3割削減に批判が集まり、不利と見るや、“それは最低基準” と言い換えましたね。また子どもでもわかる話ですが、小中高の授業数を減らしておきながら、国公立大学入試の受験科目を増やすなど、とにかく支離滅裂の教育改革だという印象でした。

ただ、ただですよ、そうなってしまったのは文部科学省だけの責任ではありません。

そもそも実証的なデータもないままに、詰め込み教育批判を展開してきたのは世の中の“雰囲気”ですし、とにかく“教育”というものをすぐに“心”に結び付けて、システムを後回しにするのも我々日本人のどうしようもない性癖ですね。

日本人は、“こころ”という言葉に非常に弱い…。

 

そう言えば、教育再生会議の座長の野依良治氏が、“塾を全廃せよ” と意見したそうですが、いつまでたっても、そういう意見が一定の支持を集めるのは、教育を金と結び付けている連中はけしからん、心の問題だという強い意識があるからでしょう。塾講師も学校の先生方に負けない“心”を持っていると言ってもダメなんですね(笑)。


普通欧米では小中学校の教員の地位は、知識を教えるだけですから、決して高くないのですが、日本は“心”を磨いてくれるという意識がありますから、“聖職”。低いどころか、一般の公務員より高い身分が保証されています。 本書でも、ここらあたりは、文化論、哲学的見方も加わって非常に興味深い指摘です。


とにかく頑張れ!だけ、というのは教育だけではなく、会社でも部活でも見られます。ガンバレはよいのですが、頑張れば何とかなるからといって、リスク管理を怠ったり、がんばりが足らなかったと反省するだけで、具体的問題の原因分析の責任を免れてしまったり、ルールとモラルを混同してしまう一番大きな要因だと指摘します。まったく同感。

今回の履修漏れの問題を見て下さい。


とうとう今年の受験生は歴史に残る不平等入試に向かうことになってしまいました。これほどの大問題ですが、何か根本的な解決策は出されたでしょうか。もうどこから手を付けたらよいのか、誰もわからないほどシステムが機能していないことが明らかになりました。(コラム【現在の教育問題】)

先生を敬うという日本の伝統はすばらしいし、できれば続いて欲しいと切に願います。私もいまだに小中学校で担任をしていただいた先生と賀状のやりとりをさせていただき、懐かしく思い出します。

ですが、一方で問題教員を排除するシステムは不十分だったり、免許更新は形式的なものになりそうで、これ一つだけとっても、やはり議論が深まりません。 具体的目標が設定されない、データがそろわないまま枝葉末節の議論に終始し、中途半端な対策ができあがってしまい、あわてて修正したり、知らん顔したりする現状を批判します。


きっと会社経営や組織運営にまで応用できそうな考察がたくさん含まれています。大変、溜飲を下げた一冊で多くの方々にぜひ読んでいただきたいと思います。


http://tokkun.net/jump.htm 【当教室HPへ】

日本を滅ぼす教育論議

講談社

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私自身は公立の学校が再生しない限り、問題解決は難しいと思っております。とにかく教育問題を政治問題化しないこと、まともに議論すること。先生方にとってもつらい制度改革のようなものが必要ではないかと。つたない文ですが、少しでも参考になりましたら、下のテキストバナーをクリックしていただけるとありがたいです。

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P.S. 本書についてただ、一点気になるのは…、大変僭越ですが、著者である岡本薫氏、私の言いたいことを書いてくれたような気がしてうれしかったのですが、経歴を見ると、ついこの前まで、文化庁と文部科学省の課長じゃないですか。つまり、自分のところで、この改革をしてきた責任はないんでしょうか。官僚組織は良くわかりません。



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2 コメント

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その通り! (bucky)
2007-01-09 15:21:16
「“教育”というものをすぐに“心”に結び付けて、システムを後回しにするのも我々日本人のどうしようもない性癖」というくだり、膝を打ちました。
まさに、抽象的であたりの柔らかい言葉ほど共有できないものはない、最近そんな気がします。
私も何度も言っている気がしますが、教育なんて短期的に目標を変えて、成果が見えるものではない、時間とお金と人力のかかるものだと思うんですがね。
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buckyさん (VIVA)
2007-01-09 16:26:47
こんにちは!

そうなんですよ。お金も人も時間もね。筆者も言っているんですが、教育論議って一口に言っても、そこには、なぜ教育をするのかという根本から、何のためにというような根本問題から、学校のカリキュラムや上で指摘したような具体的内容まで本当に幅広いんですね。

ですから、余計にいろいろ整理して、データを集めたり、海外の実態を研究するなどが必要なんですが、なんか逆に、あまりにも面倒だから、“生きる力”っていう抽象的なスローガンで全部包んじゃった感じですかね。

それにしても再生会議、どんな案が出てくるのか注目です。あっ、塾廃止だったら、なんか仕事世話してくださいね!よろしく。
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