最近仕事でSさんと一緒になる。
昨日一室で談笑していたら、同僚の先輩Tさんが目に大きな痣をこしらえてやってきた。
なんでも駅の階段から落ちたという。目のまわりが内出血で黒ずみ、昨日まで大きく腫れてお岩さんみたいだったとご本人がおっしゃるが、さもあろう、シャレにならないどころか、背筋に冷たいものが走った。さぞ、痛かったろう。ぞっとした。
が、そこはSさんのこと。みるなり、指さして「はっはっは」と快活に笑った。
いくらSさんの方が先輩であってもこれは笑えない状況だと思い、とめようとしたが、僕にとめられるような方ではない。
「運がよかったじゃないですか、階段から落ちてその程度で済んで。本来ならひどいですよ」
「ええ確かに幸運でした、メガネが飛んでくれて。メガネが飛ばずにそのまま打ち付けていたら刺さったりしてもっとひどいことになったでしょう」
確かにそう考えれば「幸運」になろうが、腫れ具合や黒ずみぶりをみれば、「運がいい」とはとてもいえないと思うが、Sさんは続ける。
「きっと柔道をやってらしたからそれが幸いしたんでしょう。柔道をやっていたことが活きたじゃないですか。」
このふたりの共通点は学生時代柔道をやっていたことである。
「手がさっと出てこなかったら、みたところほかにケガはないみたいだし、頭だけを打ち付けたんでしょう。全体重がかかるわけだから、本当にひどいことになってましたよ。どのくらいの高さからですか。」
「いや、昇っていたんです。」
「えっ、ってことは足が十分に上がらなかったってことですね、それは、ハハ、年寄りの証ですよ」
この暴走に、僕もかなり本腰をいれて「Sさん、笑うとこじゃないですよ」といさめたが、とめられるはずはやはりない。
そしてまたひとつ笑いの発作がおさまりかけて、Sさんが訊く。
「昇っていて受身をとるなら、もうちょっと傷は軽減できそうなもんですが、受身は出来たんですか?手は出てきましたか?」
「いえ、そのまま・・・・」
それを聞いたSさんの笑いのアクセル全開で、「それじゃあもうご老人だよ、はっはっははは・・・老人だっ」と身をよじって爆笑する。
僕はもうTさんをみることができずただSさんの笑いを制止しようとして手でSさんの肩を押さえたが、Sさんは更に、「いや、老人じゃないな、ボケですよ、ボケ、シィナイルですな、シィナイル」といって、爆笑を再稼働させる。
ひどすぎる
とは思いつつもなぜか一緒に笑わされてしまうのがSさんの魅力で、僕は、「シィナイルじゃなくてセナイオゥ senile ですよ、発音ちょっと違ってます」と少し的外れなとめ方をした。
するとSさんが「いいんですよ、大雑把でそんなことは」と答えて、ひとまず笑うのはやめてくれて、タナからボタモチだったが、それで収まるSさんではなかった。
「大雑把といえば、Tさんは今年50歳じゃなかったでしたっけ?」
「いや、まだ数年ありますよ」
「でも大雑把にいえば、100の半分の50歳だ、半世紀だぁ、ぎゃははははは・・・」
もうとめられないと僕が沈黙していると、今度はTさんがSさんに、「そういえばSさんは還暦では?」といった。
Sさんはどんな対応をするのかとみてみたら、
「そうだ、私は還暦だ、赤い袢纏だ、はははは・・・・」
ナニをいっても笑ってしまう年頃の還暦間近のSさんであった。
昨日一室で談笑していたら、同僚の先輩Tさんが目に大きな痣をこしらえてやってきた。
なんでも駅の階段から落ちたという。目のまわりが内出血で黒ずみ、昨日まで大きく腫れてお岩さんみたいだったとご本人がおっしゃるが、さもあろう、シャレにならないどころか、背筋に冷たいものが走った。さぞ、痛かったろう。ぞっとした。
が、そこはSさんのこと。みるなり、指さして「はっはっは」と快活に笑った。
いくらSさんの方が先輩であってもこれは笑えない状況だと思い、とめようとしたが、僕にとめられるような方ではない。
「運がよかったじゃないですか、階段から落ちてその程度で済んで。本来ならひどいですよ」
「ええ確かに幸運でした、メガネが飛んでくれて。メガネが飛ばずにそのまま打ち付けていたら刺さったりしてもっとひどいことになったでしょう」
確かにそう考えれば「幸運」になろうが、腫れ具合や黒ずみぶりをみれば、「運がいい」とはとてもいえないと思うが、Sさんは続ける。
「きっと柔道をやってらしたからそれが幸いしたんでしょう。柔道をやっていたことが活きたじゃないですか。」
このふたりの共通点は学生時代柔道をやっていたことである。
「手がさっと出てこなかったら、みたところほかにケガはないみたいだし、頭だけを打ち付けたんでしょう。全体重がかかるわけだから、本当にひどいことになってましたよ。どのくらいの高さからですか。」
「いや、昇っていたんです。」
「えっ、ってことは足が十分に上がらなかったってことですね、それは、ハハ、年寄りの証ですよ」
この暴走に、僕もかなり本腰をいれて「Sさん、笑うとこじゃないですよ」といさめたが、とめられるはずはやはりない。
そしてまたひとつ笑いの発作がおさまりかけて、Sさんが訊く。
「昇っていて受身をとるなら、もうちょっと傷は軽減できそうなもんですが、受身は出来たんですか?手は出てきましたか?」
「いえ、そのまま・・・・」
それを聞いたSさんの笑いのアクセル全開で、「それじゃあもうご老人だよ、はっはっははは・・・老人だっ」と身をよじって爆笑する。
僕はもうTさんをみることができずただSさんの笑いを制止しようとして手でSさんの肩を押さえたが、Sさんは更に、「いや、老人じゃないな、ボケですよ、ボケ、シィナイルですな、シィナイル」といって、爆笑を再稼働させる。
ひどすぎる
とは思いつつもなぜか一緒に笑わされてしまうのがSさんの魅力で、僕は、「シィナイルじゃなくてセナイオゥ senile ですよ、発音ちょっと違ってます」と少し的外れなとめ方をした。
するとSさんが「いいんですよ、大雑把でそんなことは」と答えて、ひとまず笑うのはやめてくれて、タナからボタモチだったが、それで収まるSさんではなかった。
「大雑把といえば、Tさんは今年50歳じゃなかったでしたっけ?」
「いや、まだ数年ありますよ」
「でも大雑把にいえば、100の半分の50歳だ、半世紀だぁ、ぎゃははははは・・・」
もうとめられないと僕が沈黙していると、今度はTさんがSさんに、「そういえばSさんは還暦では?」といった。
Sさんはどんな対応をするのかとみてみたら、
「そうだ、私は還暦だ、赤い袢纏だ、はははは・・・・」
ナニをいっても笑ってしまう年頃の還暦間近のSさんであった。