6時24分、30数キロ先で、標高8167mのダウラギリの頂きに陽の光が届き始めました。
光は徐々に、頂上直下の雪と岩の壁を朱に染めてゆきます。
ギャラリーの前で、地球の営みを告げながら、輝きの峰が明るさを増してゆきます。
僅か7分後には、ダウラギリの壁の半分以上が眠りから覚めて、赤子のような朱から、乙女のような柔らかい彩に顔(かんばせ)を変えていました。
北へ目を向けると、7219mのアンナプル・サウスも眠りから目覚めていました。
真横から光を受けますので、山容に派手な彩は見えません。
しかし、S席から役者の肌に触れる程の距離感で、ヒマラヤが目覚めの時を迎えるシーンが進んでゆきます。
ダウラギリの頂きから始まった朝が、13分後に3210mのプーンヒルの頂きにも届きました。
足元に穏やかな朝が拡がってゆきます。
一番手前に7219mのアンナプルナ・サウス、その左に7647mのアンナプルナ・ファン、その後ろに8091mのアンナプルナ Ⅰ が雪煙を靡かせていました。
右手奥では6993mのマチャプチャレが、朝陽の中に、特徴的なシルエットを見せていました。
眼下のゴレパニ村は、まだ闇の中です。
息つく暇もない夜明けのドラマにも一区切りが付いて、周囲を見回せば、プーンヒルの頂きは想像以上のトレッカーで溢れていました。
誰もが、多くの時間と労力をかけて登って来たこの場所で、望み通りのドラマを鑑賞することができ、皆一様に満ち足りた表情を見せていました。
そんな時、眼下の谷に予想だにしないエンジン音が響きました。
こんな時間に何事かと思い目を凝らすと、小さな飛行機が山肌を縫うように、西の空へ向かって飛び去ってゆきます。
きっと、チベットへ通じるジョムソン空港へでも向かうのでしょう。
大気の安定した午前中に、ポカラとジョムソンを往復する定期便かもしれません。
山と谷は少しずつ、何時もの表情に変わり始めていました。
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