Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

日生劇場『夢の仲蔵 千本桜』夜の部 3回目 C席3階センター

2005年10月26日 | 歌舞伎
日生劇場『夢の仲蔵 千本桜』夜の部 3回目 C席3階センター


『夢の仲蔵 千本桜』3回目観劇(笑)。1回は全体を俯瞰して見たかったので一番安いC席で実質4階からの鑑賞です。本当は楽日を見たかったのですがさすがに平日昼は行けないので前楽の夜の部。

全体的に皆さん、お疲れ気味かな?という感じがしました。それでも終始、テンポを崩さず緊張感を保った芝居となっていました。体が動かない分、どこかしら気持ちの部分で勢いをみせ、踏み込んだ部分を見せてくれたような感じもありました。ああ、でも歌舞伎の部分が荒かったのは否めません。

ここからは今回は完全に染ふぁんの戯言です。感想であって感想でなし。

染五郎が演じてるというのを忘れそうになるほど染ちゃんは怖いくらいに此蔵でした。そしてぼろぼろでした。たぶん、半分は気力で演じていたんじゃないかな。

身体がかなりぼろぼろだろうというのは最初の踊りの時点でわかりました。いつもと較べて腰が落としきれていないし、手先の動きもいつもなら美しく柔らかく動かすところが硬い。もしや腰を痛めた?と思ったくらい(そうでないことを祈りますが…)。「四の切」のときもいつもの安定感のある動きがほとんどできていない。そのためか力を入れようとしてそれこそリキみすぎ?と思う部分も。考えたら2ケ月もの長丁場を昼夜、あれだけのものを演じてきたんですから、相当疲れが溜まっているだろうことは想像つきましたが、もう痛々しいくらい必死でした。

でも、その代わりと言っては変かもしれませんが、「此蔵」の生の顔が出てました。決して染五郎の顔ではない。此としての顔、そして此の心からの叫びでした。世の中を恨み拗ね、心の底から愛情を求め、そしてなにより役者としてか生きていけない、そんな気狂いの目をした此でした。人を殺め、すっぽんから出て来た時の狂気を纏ったオーラが4階で見てすら伝わってきた。そして仲蔵に向ける愛憎半ばの悲痛な叫びは己が魂を芝居小屋に残していきたいという執念でもありました。


なぜ「染五郎」なんだろう?と自分で思う時がある。なぜこの役者を好きになったんだろう?と。実はまだ自分自身でも把握しきれていない。ただ一つ確かなことがある。染五郎という役者は「役柄」の人物の魂の一端を見せてくれる瞬間があると、そう思わせてくれる、そこが好きなんだと。残念ながらそれは毎回あることではないのだけど。今回はそれを見せてくれたなと思う。今年は今のところ忠兵衛と此蔵で。さて来月もそういうものを見せてくれるでしょうか。