Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『亀治郎の会 さよなら公演』 1等1階花道寄りセンター

2012年08月18日 | 歌舞伎
国立大劇場『亀治郎の会 さよなら公演』 1等1階花道寄りセンター

亀治郎の会には2年前の特別公演に行っただけなので思い入れがあるわけではないですが『亀治郎の会』としては最後ですから良い舞台を見せてくれるだろうと期待していきました。まず出た感想としては「亀ちゃんのドヤ顔満喫(笑)檜垣はお父さまソックリだった」です。なるほど亀会だなというのを含めて色々面白かったです。

『栴檀女道行』
私はやっぱり四代目猿之助さんは女形のほうが好きだな~としみじみ思った演目。今回の三演目のなかでこの作品の女武道の小睦が一番気に入りました。男勝りな強さとその強さのなかの女らしさが自然。そのなかに色気がある。かなり武張った踊りなので男性が踊ると常に女の体を意識しないといけない。このところ立役が多いのでどうかな?と思っていましたが猿之助さんはギリギリのところでとても上手に女形になっていました。あと印象的だったのが戦語り。元々が女形が多かったこともあるのか資質ゆえなのか猿之助さんは戦語りは再現するのではなくあくまでも第三者が語る踊りだなと。これは『義経千本桜』の「道行き」でも感じたことですが個人的にそこをかなり面白く拝見しました。

栴檀皇女の米吉くんが拵えが似合って天女のような可愛らしさ。米吉くんのふんわりとした桃色オーラは観ていてとても和む。女形としてはまだ身体は殺しきれていませんが丁寧に踊っていて良かったです。

安大人の亀鶴さんを大将とした明国の兵たち(猿若さん、段一郎さん、蝶之介さん、蝶三郎さん、咲十郎さん、錦二郎さん)の立ち廻りが楽しいものでした。

『檜垣』
この舞踊に関しては三代目猿之助さんのが印象に強く残っているのでまずはこの舞踊の第一歩を踏んだなという印象。とはいえあの若さでしっかり老女を形作ることができるのは大したもの。あの姿勢で体幹がまったくぶれない。恋の妄執もよく表現出来ていたと思う。ただ、やはり色々とまだ若い。なんというか老女のものとしての芯がまだ薄い感じ。恋の妄執がコミカルに見えるのはいいとしてもそこから老女の哀が滲んでいてほしい。猿之助としては老女もの(『黒塚』『隅田川』のほうが主でしょうが)はこれから深めていくべき演目でしょうから折につけ踊っていって欲しいです。この演目では声といい顔の拵えといいお父様の段四郎さんそっくりでちょっとビックリ致しました。資質としてはお父様のものもだいぶ受け継がれているんだなあと思った次第。

四位の少将の門の助さんが上品。小野小町の笑野さんは抜擢でしょうが楚々として美しく印象に残りました。

『連獅子』
仔獅子が二人いるかのよう。親子というより兄弟獅子。兄が引っ張り弟がそこに必死に食らい付いている、そんな印象を受けた『連獅子』です。

澤瀉屋の連獅子は観たことがあるはずだけど随分に前に拝見しただけなのできちんと記憶に残っていなかったです。当時の猿之助さん(二代目猿翁)と亀治郎さん(四代目猿之助)だったと思うんですが派手だなという印象が残っているだけ。そういう意味でも澤瀉屋の振付は非常に新鮮だった。親獅子も仔獅子もかなり動き回るのですが。これはかなりハード。若い二人だから一番ハードな振付けで踊ったのでしょうがそれにしても親獅子もある程度体力があるうちじゃないと出来ないでしょうね。

親獅子の猿之助さんは前シテの狂言師右近が良かったです。先輩格として今ある自分(尾上右近に対しての兄貴分としての自分、というように私には見えました)を弾むように活き活きと表現していたように思います。これからもどんどん前に進んでいくから付いて来いと言わんばかりに跳ね回る。まさしく跳ねるという言葉が相応しいような踊りでした。後シテの獅子はドヤ顔満載だったような(笑)最初から勢いよく廻していきます。後半ちょっとお疲れでしたでしょうかね。

仔獅子の尾上右近くん、猿之助さんによく食らい付いていました。久しぶりに右近くんの踊りを拝見しましたがようやく大人の身体になっていて体幹がしっかりしてきたなあとまず思いました。そして丁寧にきっぱりと踊っていきます。いくつか甘い動きがあったもののハードな澤瀉屋の仔獅子を真摯に踊りこんでいってました。個人的に思っただけですが時々、首の使いかたとか手の使いかたの部分で勘九郎くんの踊りに似てる?と思う場面がいくつか。